第五章 3 ーー 戦場 ーー
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それは突然。
本当に突然の出来事。
雷が鳴るほどの天候だっただろうか、と疑うほどの突然の轟きに、視線が上に上がる。
「ーーっ」
「あれって」
またあの空だった。
あの奇妙な色をした、私たちをミラに誘ったあの赤い空が。
「どうして?」
「そんな。また呼ばれる? いや、でもそんな頻繁に」
二人の戸惑いが行き交うなか、またしても鼓膜を貫く雷鳴が轟いた。
反射的に目蓋を閉じてしまう。
通り抜けた光。それほどまでに強い光なのか、と目蓋を開く。
瞬きを忘れ、驚愕してしまう。
それまで公園の一角にいた。
……はず。
それなのに足が踏みつけるのは、岩肌が剥き出しになった山が広大に広がる荒野になっていた。
「ここってベラ荒野…… ミラだ」
呆然とする横で、ポツリと坂口が呟く。
……また飛ばされた。
そこが異世界だと気づいても不思議と以前みたく驚くことはなかった。
私だけじゃない。隣に坂口がいてくれたから。
荒れ果てた荒野。足を動かせば砂利が鳴る。
「ここ、どこだか知ってるの?」
眉をひそめ、辺りを見渡す坂口。
険しい表情から、ここが危険な場所であるのは容易に想像できた。
「ここは国境付近になるから激しい争いの場になるってルーンは言っていた。それこそ、昔はかなりの人が争っていたって聞いたことがある」
……ここで戦争が。
辺りは静寂が支配している。信じがたいけれど、つい想像してしまう。
ミラでの戦争は、戦国時代みたく、剣や槍を交えた争いなのだろうか、と。
「ねえ、あんたもここで戦ったことあんの?」
「ううん。僕はない」
周りを警戒しながらかぶりを振る姿に、なぜか安堵してしまう。
そっか。と頷き、目を細めようとすると、風が通り抜けた。
砂ぼこりが舞い、目元を手で覆った。
「な、なんだよ、これ」
風が治まるのを待っていると、不意に上擦った声で、坂口はもらした。
「ーーえっ?」
何事かと顔を上げるのと同時に目を剥いた。
……血の匂い……。
急に鼻を突く異様な匂い、鼻を押さえてしまう。
胸の奥を掻き乱していく感情に唇を強く噛んでしまう。
瞬きをした一瞬で辺りが一変した。
静寂した荒野が戦場に変わり果てていた。
それまで砂利が風に流れる殺風景な地面に、幾多の人が折り重なり、倒れていた。
ある者は腰を曲げて座り、うたた寝するみたいに。
またある者は肩を並べて寝そべるように倒れている。
誰もがその眠りから目を覚ますことは一目瞭然。
それらの人々のそばには、刃がこぼれたり、折れ曲がった剣や槍が転がっていたり、地面に突き刺さっている。
まるで、この地で眠る人々を悼む墓石みたいに。
「……これって、ここが戦場になってるってこと?」
「これだけの被害。ちょっとした小競り合いって規模じゃない……」
この場から逃げ出したかった。
それでも、放っておくこともできず、遺体の間を縫うように歩いてしまう。
肌に刺す強い匂いを受けながら。
目を背けたくなるなか、唐突に足が止まる。
「どうかした?」
急に止まった私に、坂口も止まる。
「あそこ、誰かいたようーー」
荒野の開けた先を横切る影を見つけた気がした。
影を追うように指差したとき、捉えた影に言葉が詰まる。
遠くの空から降り注ぐ陽を背中に浴び、こちらに近づく影に。
赤い陽を浴びた漆黒の姿。
「ーー影法師?」




