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異世界から帰ると  作者: ひろゆき


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 第五章 1  ーー 事実 ーー


           第五章


            1



 目が覚めたとき、頬に涙が伝っていた。

 鮮明な夢。


 それだけで片づけられない。


 最近、墓石の前での坂口との会話を夢としてよく見るようになっていた。

 

 カガミという人物。

 そして影法師。


 あちらで起きていたことは、こちらに影響はない。と安心したかったのだけど、影法師という言葉だけはむげにできなかった。

 明確な容姿を聞いたわけではない。

 けれど、影法師という名に、背中がざわついてしまう。

 私と美月を襲った黒装束。コスプレと揶揄できる格好だったけれど、墓石の前でのことが鮮明になると、もう疑わない。

 奴のことが頭から離れないからだろうか。ふと手帳を開く回数は増えていた。

 気になって仕方がない。

 書き記していることは変わりないのだけど、「坂口」と書かれたのを目にすると、胸のざわめきが酷くなっていた。


 ミラでの出来事は終わったはずなのに。


 もう一つ確信していたのは、圭一に対する嫌悪感。

 いや、これはこれまでごまかしていた自分の本心に気づかせてくれたんだろう。


 影法師について、詳しく聞くべきだとしても、上手く坂口と話す機会はなく、時間だけが空しく流れた。


 迷っていた。


 怖がることもなく、堂々と話すべきなのかと悩みながらも、足は自然と公園に向かっていた。

 以前、坂口が空を眺めていた公園に。

 だからだろうか。

 以前みたいに公園で空を眺めている坂口を見つけると、自然と高揚する自分がいた。

 坂口は私を見つけて、表情を険しくした。

 なんだろう。彼が伝えようとしていることが、どこか想像できてしまう。


「あれは夢として考えていいの?」


 坂口の疑問に眉をひそめてしまう。


「夢?」

「そう。ミラのこと」

「ちょ、なんで?」


 疑いの目を向ける坂口に、呆然としてしまう。


「ちょっ、なんであんたがそんなことを言うのよ。だから、あんたがそれを言っちゃダメよ」


 以前もそうだ。また坂口はミラのことを否定しようとし、声を荒げてしまう。

 坂口には絶対に忘れてなんてほしくない。だからこそ、余計に強く当たってしまう。

 すると、坂口は頭を抱えた。


「ルーンやテレサのことを否定なんてしたくない。でも、池内さんがミラのことを覚えているのが、どうしてもわらないんだ。こっちに帰ると、みんな記憶が消えるってルーンが言っていたから」


 あの二人の名前。じゃあ、覚えてはいるのね。


「忘れる? でも、あんたは一度来たことがあるって。あれは覚えていたんじゃないの?」

「僕の場合は特別だから」


 と、そこで坂口は右手を挙げ、顔の横で甲を見せた。

 すると、しばらくして甲の部分に赤い模様が浮かび上がった。

 タツゥーのような模様に、首を傾げてしまう。


「僕の場合、ミラで兵士として戦っていたんだ。そのとき、ある種の契約を交わした。だから、それが影響して覚えているんだ」


 兵士として……? じゃあ、剣を持って、戦って…… それで……。


 でも、それよりも。


「じゃ、じゃあなんで? 私があの世界のことを話したとき、あんたは知らないって言ってたじゃん。なんで?」


 そう。一番、事情を把握している坂口が否定したからこそ、私は混乱したのに。

 困惑をぶつけると、


「僕も最初は驚いた。あのときはみんな忘れていると思っていたから。だから、とっさに噓を言ったんだ。それに、僕の立場を考えたら、池内さんも危険になるかもしれないから」

「危険って」


 申し訳なさげに声をひそめる坂口。

 言いたいことはわる。私を心配してだと。そんなこと気にしなくてもいいのに。


 ーーでも。


「あれはやっぱり事実なのね」


 心の靄が晴れたみたいで、安堵した。

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