序 後 ーー 短い旅行 ーー
私はイジメられていた。
三十人からいるクラスのなかで、誰も私に話しかけてくれる人なんていなかった。
私には右の頬に小さなホクロがあった。
ゴマ粒ほどの小さなホクロ。
けれど、何度指でなぞっても取れないのがどうしても嫌で、コンプレックスでもあった。
それを嫌いだと友達と何気なく喋っていたとき。
ーー 汚ねっ。ほっぺたにゴミつけてるっ。
そばで聞いていた男子生徒が私に向かって吐き捨て、顔を歪めていたのである。
そのときは頭にきて言い返してやった。
ーー あんただってホクロあるじゃん。
男子生徒の首筋にもホクロがあり、負けじと指差してやった。
すると男子生徒は唇を噛み、悔しがるとしてやったりと笑ってやった。
それが間違いだった。
翌日、教室に入って空気は一変していた。
誰とも目が合わなくなった。
磁石みたく目を合わそうとすると、誰もが背けた。
それまで楽しく喋ってくれた友達でさえ、背中を向けるようになり、いつしか手を伸ばしても届かないようになっていた。
それでいて、私の抜けたなかでそれまでと変わらない様子で楽しく喋っている。
私が近づくと、そそくさと逃げるくせに。
なんで?
どれだけ唇が震えたか。
ここで泣けば、負けなんだって変なプライドで我慢していると、あの男子生徒が物陰で私を見て嘲笑っていた。
目が合うと、臭い物を拒絶するように鼻をつまみ、手を振っていた。
ああ、そうか…… あいつだったんだ。
たった一言。
たった一言で私は周りの生徒との間に目に見えない隔たりを生んでしまったんだ。
絶対に私は間違っていない。
けれど、愚直さは時として正論を歪めてしまう。
私の主張は決して通じない。
みんなの耳には要領のいい奴があることないことを言いふらすだけ。
奴の方が一枚上手。
私はすべてを奪われた。
そして考えた。
搾取されないにはどうすればいいのか。
関わらないこと。
どこかで問題が起きたとしても、目を背け、関わらないこと。
そうしてイジメが起きても知らないふりをして、中学から高二の今まですごしてきたんだ。
心が痛まない?
ふんっ。そんなの奇麗事。じゃあ、イジめる奴はどうなるんだって話。
イジメを見過ごす者が悪いなんてただの屁理屈よ。
私はそうして逃げることで平穏を掴んできた。
イジメられた者の特権よ。
それなのに、異世界に行き、危ない橋を渡らなければいけないのは、あのころから逃げ出した報いだって言いたいわけ?
私は異世界で死んでしまい、現実で私を知る人から離れた場所で命が途絶えるんだろうと。
でも、気づいたとき、私は現実に戻っていた。
異世界のことは?
と聞かれれば、きっと「たいしたことはない」と答える。
それに、自分から異世界へ行ってきた、なんて言えない。
高々と言ってしまえば、絶対にイタい女だって思われるはず。
そんなのあのころの恐怖への扉を開くようなもの。
私はだからこそ、捻くれているんでしょう。
真実は心のなかにだけって話なのかな。
きっと短い旅行に行っていただけ。