第一章 8 ーー ある人物 ーー
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昨日の夜、私を襲ったのは誰だったの?
あれは夢でもなければ幻なんかじゃない。
現実だと奇妙に受け入れてしまう。
それでもあれから、どうやって家に帰ったのかすら曖昧になっている不思議な感覚。
なんか、気持ち悪いな、やっぱ。
それでも、思い出すことに自信がないまま、時間だけが流れていた。
それも相まって、朝になって、学校に行く足取りはより重くなっていた。
極論、ズル休みをしてやろうと、ベッドのなかで数分悩みもしたけれど、休まなかった。
邪な気持ちをごまかしても、確かめたい事情ができてしまった。
学校の廊下。
重い足を奮起し、教室に踏み込むと、一点を鋭く睨んだ。
その人物の特長は?
と問われると、数十秒は黙ってしまうかもしれない。
クラスのなかでも人の影に埋もれて目立つことのないだろう人物。
頼りがいのない、いつもオドオドしてうつむいている人物。
坂口 彰。
窓際の席ですでに登校し、頬杖を突いてうたた寝している姿を、真っ先に確認せずにはいられなかった。
やる気がないのか、気怠い表情。
それでいて、また誰かにイジメの標的にならないだろうか、と警戒し、目つきを厳しくする姿に胸が詰まる。
イジメの標的にされた人物を、普段から気にすることもないのに、今日だけは眺めずにはいられなかった。
大丈夫…… 大丈夫なんだ。
周りの人らに悟られまいと、平常心を装って教室を横切り、自分の席に座った。
高ぶる安心感をごまかした。




