第32話 信頼できる幼馴染
不思議と平和は続く。
俺も藍も狙われることもない。授業もただ時間の流れるままに進んでいく。
それもそうか、単に授業を受けているだけなのだから……。
そしてお昼を迎えた。
「お昼だね、一緒にどこかへ行こっか」
「そうだな。誰にも邪魔されない場所で」
「決まりだね！」
教室は人が多い。
すぐに廊下へ。
「屋上にするか」
「う～ん、たまには校庭とかどうかな」
「気分を変えるのもありかな。そうしよう」
たまには違う場所へ行ってみるのもいいだろう。藍を連れ、そのまま外へ。
校庭の隅にあるベンチへ向かった。
ちょうど空いている。
ベンチに座り、グラウンドを見渡す。さすがに昼休憩だから人は誰もいない。
「ここならゆっくりできるね」
俺の分のお弁当を渡してくる藍。それを受け取り、さっそく包を開けた。お弁当箱の蓋を開けると――見事なキャラ弁が顔を出した。
こ、これはあの大人気キャラクターの……“かわちい”か！
丸くて白いゆるキャラなんだよな。
お米が白いから再現しやすいってわけか。
目とかノリで簡単に表現しとる。
「思ったよりシンプル！ 米が多いな」
「ごめんね、そのキャラって白い部分が多くて……」
というかほぼ白米なんですけど……。
辛うじて頬が“桜でんぶ”なんだが、それだけだ。
「ご飯は好きだけど、これはちょっと」
「なんて、ごめんごめん。ちゃんとオカズもあるから」
「なんだ、冗談か」
「さすがにね！」
もうひとつ容器があった。
そっちにタマゴとかウィンナーが入っていた。
良かった、さすがに白米だけはキツイ。
さっそく“かわちい”を貪っていく。……うまいっ！
タマゴとかウィンナーも絶妙な味付け。薄くも濃くもなく丁度良い。
「う～ん、美味い。藍、今日も最高に美味いな」
「褒めてくれてありがと。嬉しいっ」
さらに藍の素敵な笑顔を見れて、俺も嬉しい。
あぁ……こんな時間が永遠に続けばいい。もう地獄はいらない。
雑談を交えながら、楽しい昼食を過ごした。
お腹もなにもかも満たされ、俺は幸せいっぱいだ。
「今日は最高の日だな」
「なんか今までのことが嘘みたいだね。夢でも見ていたみたい」
「最近まで酷い目に遭ったのにな。そうだ、藍……体とか大丈夫？」
「精神的に不安定になりかけたけど、でも、赤くんのおかげで今は平気」
「そりゃ良かった」
「けどね……」
「けど？」
「他の男子が怖くなっちゃって……」
やっぱり少なからずそういう影響は出ているのか。つまり、藍は男性恐怖症になりつつあるんだ。そりゃ短期間であれだけのことが続いたのだから、ストレスだってマッハのはずだ。
俺だって鬱になりかけた。
でも、藍の方がもっと辛いと思った。だから、俺が支えてやらなくちゃいけないんだ。幼馴染である俺が。
「俺だけは藍の味方だ」
「こういう時、幼馴染って助かるね。一番信頼できるもん」
そう言いながらも藍は、俺の手を握ってきた。その手はかすかに震えていた。……やっぱり不安でいっぱいなんだ。
これから暴漢が現れても、俺が必ず守る。
手を握り返し、俺は藍の小さな体を手繰り寄せた。藍は安心して俺の胸の中に頭を沈めていく。
……絶対に守る。
『…………』
む？ 視線……？
いや、気のせいか。
