プロローグ
親愛なる貴女へ
ちゃんと別れの挨拶が出来ず、ごめんなさい。
貴女と初めて言葉を交わしたあの日を想い返すうち、たまらなくなり筆をとりました。
今はこんな形でかしこまった手紙を書く私ですが、元々は貴女を虐げる職位にある身ですので、どうか、寛容なお心で読んで頂ければ幸いです。
私は元来真面目な性格であると自負しておりますが、溢れる好奇心を抑えきれずに声をかけた自分自身にある種の顰蹙を抱くと同時に、よくやったと労いの言葉をかけてやりたくもなるのです。私もまだうら若き健康な男性、やはり色には目が無いところ、お許しください。
失言でしたね。
思うところは、あの時の自分があの行動に踏み込んだからこそ、当時の未来である今、こうして振り返る価値のある過去が――愛おしい経験が、出来たのですから。
私は決意の日、ある恩人から言葉を贈られました。その言葉をそのまま、貴女にも贈ります。
「死ぬ時まで、人でいろ。そのためには人ならざることをやってみせろ。その時は自分に殺されることになる、だがそれで生かされる人がある」
この言葉がどこまでも私を突き動かしています。
私は少しの間、貴女と離れなければならなくなりましたが私の不器用で無鉄砲な行いの結果であるので、心から謝り申し上げたいです。
ほとぼりが冷めたら、色々と語り明かしたい事で胸が一杯です。
つぎに会う時は、分厚い国防の制服を脱いだ、ありのままの私でいきます。
いつも白紙だった貴女。
一方で私は見苦しい装飾を身に付けた状態でしか会えなかった事、とても恥ずかしく
申し訳なく思います。
こんど会う時は、季節を問わずに咲き乱れる一面の花畑で一緒に歩きましょう。
私は、それまでにきっと、貴女に恥じないくらいに成長してみせます。
そのときまで、しばしお元気で。
グストフ・コールマン
* * *
恋人を処刑する事ができますか。
愛する者に死を与えられますか。
グストフ・コールマンはこの質問に素直に答える事が出来ない〝好青年〟であり、また事あるごとに柔弱でもある。
もっとも、そんな若者は大勢街中を歩いているが、それぞれに固有のドラマがあるなんてことは他人はもちろん知り得ない。そもそも、そんな事を考える余裕すら人々にはない。
皆、もっと人生そのもので忙しいのだから。
そんな彼でも果たさねばならぬ務めというものは――国家に於いてその運営の都合上は正義と見做される行為であり、道徳的に見て云々、倫理観に反して云々、などという言葉は無論タブー、関心など持ってはいけなかった。
関心など、持ってはいけなかった。
少なくとも、支配者側の都合としては。
彼が犯した過ちは、成人後に突如として内側に芽生えた価値観によるもので、それはもはや罪という概念すら越えた大渦に発展していく。
そして彼は灼熱の自戒と葛藤で煮詰めた一滴の教訓を得、それを後世に残した。
彼は言う。
『裁きを越えた罪は、しかし革命と呼び知見ある者の最大の偉業だ』