乙女ゲーの商人息子に転生しましたが、どうやら息子ではなかったようです
僕には前世の記憶がある。
前世の僕は、密かに乙女ゲームを愛好していた。
小さい頃から姉の影響で少女漫画を嗜んでおり、それが高じて乙女ゲー好きになったというわけだ。
ヒロイン視点の物語を少女漫画フィルターを通して見れば、これはもう最早「自分でプレイする少女漫画」と言った趣で、僕はそれを大変に興じていたのだ。
そんな僕の前世君は三十路手前で、運転中に後尾のトラックに追突されてお亡くなりになられた。
で。
転生したらなんと、前世でプレイした乙女ゲー攻略対象のショタ枠大商会息子であったのだ。
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「私のプリンス」こと通称わたプリ。
正直、なんのひねりもなくて正気かと言いたくなるようなゲームタイトルで、この捻りのなさがなんとタイトルだけでなく中身にも及んでいるという、非常に薄味で有象無象で無味無臭な、可哀想なゲームである。
だが、そんな捻りのなさは、逆に王道とも言えなくなくもなく、僕はこのゲームが結構、いやかなり好きだった。
この作品はゲームレビューのどこを見ても星2という、逆にそこは酷評される方が目立つのにという評価で、感想すら書かれない「可もなく不可もなさすぎて否」みたいな作品であった。
なんか、誰にも見向きされないこの作品が、僕はなんだか逆にちょっと愛おしくなってしまい、そんな感じで、無駄にやり込んだ上に不足分の設定等を脳内補完で埋めたりしていた。
多分、そんな縁でここにいるのだと思っている。
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攻略対象は商人息子である僕を含めて四人、そして隠しキャラ一人である。
ざっくりと説明すると……
一人目は王太子アーヴァイン。
俺様、傲慢、不器用な優しさ、素のスペックは高いが、浅慮で短気なところが目立つ。
ここぞという時の必死さと、いざという時の熱烈さが売り。
黒髪黄金目で、線は細くなく、ムキムキマンにならない程度にがっしりした、正統派イケメン。
二人目は騎士団長息子カインス。
脳筋、直情、ストレートな好意、運動能力は凄いがそれだけ、有り体にいってバカ。
いつだって主人公を大切にしてくれる誠実さは良いがバカ。
考えるより先に動くのは良くも悪くもある。
赤髪赤銅眼、ムキムキマンな、ワイルド系イケメン。
三人目は魔術局局長息子レイシス。
冷静、冷徹、そっけない態度、天才的な魔法技術、人間味が無い。
心を開くというよりは、ロボに感情を教えるという感じ。
最終的には分かりにくい愛情を示してくれる、率直に言って面倒くさい奴。
銀髪青銀目、細身の美人系イケメン。
そして四人目が僕、大商会息子ヴァレット。
天真爛漫、自由奔放、社交的なムードメイカー。
子供っぽいけど、ふとした時に大人っぽい。実は一番現実が見えてる。
狂言回し的なポジションが多く、おちゃらけているようで、意外と真面目で情が深い。
正直な話、贔屓目無しに彼のシナリオはそこそこ良かった。
金髪白銀目ショタ味が強く、可愛らしい見た目。
最後が隠しキャラ、第二王子ロンメル。
キラキラ王子、だけど腹黒、オールラウンダー。
いつだって本性を見せない、綺麗な笑顔を貼り付けてる。
本性の独占欲の強い貴公子ドSは、この手のキャラの王道って割と感じで良かった。
青髪藍銅目、線の細いプリンス系イケメン。
と、こんな感じだ。
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そんなわけでショタな大商会息子ことヴァレットに転生した僕。
転生してわかったことだが、僕の実家であるところの大商会、これがめちゃくちゃ太い。
前世のゲームでは、せいぜい国一番の大店くらいに思っていたヴァレットの実家ことシルファリオ商会。なんとこれが数カ国を股にかける、国際的超財団であることが判明。
はっきり言って、桁違いのお金持ちで、下手すりゃ国王より金持ってる。
そりゃ、さりげなく王太子の側近的ポジションになってるはずだわ。
ありゃ、王国側が頼み込んで王子と親くさせてるんだなと思いました。
そんな訳で、幼少期から攻略対象の全員と接する機会を得たのだが、さて、どうしようか。
このまま一緒に何もせず育っても良いし、はたまた攻略対象とは離れて全く違う人生を歩んでもいい。
そのどちらでも良いのだが、僕はあえてこいつらにガッツリ介入して行くことにした。
何を隠そう、僕はこいつらの愛好家だ。この攻略対象達にはキャラ性を超えた愛着を持っている。正直、こいつらには幸せになってほしい。
ゲームにあったキャラ性を失ったとしても、こいつらには立派な人間になってほしいのだ。
…………まぁ、本音を言えば、ゲームでのこいつらみたいな、どうにも社会性を欠いてる奴らに国を任せたくないというのがある。
いや、だって、今となってはゲームじゃなくてリアルだし。はっきり言って遊びじゃないんだよね、こちとら。
とにかく、そんな感じで、僕は攻略対象達に積極的にコミュニケーションをとっていったのだった。
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と言っても、別に特別なことをしたわけじゃない。
一人一人、よく話して、そいつらに必要だと思ったことをアドバイスしたりしただけだ。
幸い、実家のデカさと、僕側の精神年齢と知力が高かったのもあって、攻略対象達は言うこと聞いてくれた。
王太子アーヴァインには親である王の仕事ぶりをよく見せ、変装して市井の暮らしを見せ、いろんな仕事を一緒に体験したり沢山遊んだりした。
要するに実際の王を良く観察させて明確な将来のヴィジョンを持たせ、それと合わせていろんな経験をさせたのだ。それだけで彼の俺様っぷりはほとんど消え、数年後には年齢にそぐわぬ威厳や迫力が発露していた。
騎士団長息子のカインスにはとにかく勉強させた。騎士団のいろんな仕事を見せ、いかに知性が必要か説いた後に、めちゃくちゃ献身的に勉強を教えた。ちゃんと相手が理解できるまで、怒らず丁寧に教えてあげた。もちろん一緒に沢山遊びもした。
そしたら数年後には、なにやら礼節を備えた武士みたいな子になっていた。
魔術局局長息子のレイシスとは、とにかく沢山遊んだ。一も二も無く、とにかく沢山遊んだ。
僕と沢山遊び、他の奴らも巻き込んで遊び、遠出もし、時に共に飯を食い、共に寝て、共に勉強した。要するに会うたびにめちゃくちゃ構い倒したのだ。
そしたら数年後には、ただ無口で無表情なだけのノリの良い奴になっていた。
第二王子のロンメルは、ほぼアーヴァインとおんなじことをさせた。
というか、アーヴァインに構う時は絶対にロンメルを巻き込んだ。最初の方は迷惑そうにしていたが、だんだん取り繕わなくなってきて、どんどんこっちに遠慮がなくなってきた。まぁ、先に遠慮がなかったのは僕の方だが。
そんな感じでやってたら、数年後にはアーヴァインとしっかり兄弟してて、何故か軽いノリのニヒルキャラになっていた。
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更に数年後。
ゲーム本編の国立魔法学園の入学が近くなってきた頃。
大事件勃発。
なんと、ある日、僕が女になった。
もうてんやわんやのてんやわんやで、父とか二人いる兄とか二人いる弟とかがめちゃくちゃに動揺していた。
で、そのタイミングで、何故か神官様が家にきたのだ。
曰く、神託を受けたらしい。
で、その神託の内容というのが……
「原作キャラをキャラ崩壊させた罰」
とのことらしい。マジかよ。
で、その後、神官様が詳しい説明をしてくれた。
・罰として在学中に女として婚約し、ゆくゆくはちゃんと結婚すること。
・罰を達成できない場合のペナルティは失明。
・罰ということにはなっているが、種別的には祝福なので神職者および全ての人類はかの者を神罰対象と見ないこと。
・原作キャラを崩壊させたという文言について、かの者に一切言及しないこと。
以上が神託の内容らしい。
いや、失明とかペナルティ重……
ともかく。
こうして僕は、以降の人生を「ヴァレッタ」として過ごすことになったのだった。
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