地球になった彼女
なんの変哲もないつまらない日常がつづく。
そんなある日のこと。
突然、そのつまらない日常が崩壊する。
その言葉通り、崩壊する。
地球が。
巨大な音を立てて崩れていく。
その突然のことに、人々は混乱し逃げ惑う。
崩れゆく世界に、逃げ場などないのに。
僕も彼女と、逃げ場のない世界から逃げようとした。
彼女の手を引こうとした瞬間。
彼女は、首を横に振った。
「…カケルちゃんを守りたい…から、私は…」
そう言って彼女は、握る僕の手を優しく解いた。
…瞬間。
彼女の背に、巨大な純白の翼が生えた。
「さようなら…」
彼女は透明の雫で頬を濡らしながら。
翼をはためかせ、真っ直ぐに空を昇った。
彼女が大空で両手を広げながら、
祈りのような呪文を唱え出した。
すると。
透明な膜のようなものが、崩壊していく地球を覆った。
その膜のようなものに覆われた瞬間。
地球の崩壊が、ゆっくりと止まっていく。
そして。
崩壊していた地球が、
まるで逆再生するかのように戻っていく。
大空の上で両手を広げながら、呪文を詠唱する彼女。
それはまるで、聖女のようで。
僕は、どうすることもできずに、
ただ、彼女を見守ることしかできなかった。
彼女が大空に昇って祈りはじめて数時間後。
地球は、もとの姿に戻っていた。
混乱していた人々は、
大空で祈る彼女を見上げ、見つめていた。
ぴたりと。
彼女の祈りが止んだ。
地球を覆っていた膜が、すうっと消えていく。
それと同時に…大空に浮かぶ彼女の姿も透明になっていく。
彼女は地球を…僕を守るために。
力を醒させて…そして。
僕は…
彼女が全身で守ってくれた地球の真ん中で、
泣き叫ぶことしかできなかった…
…私は、消失したわけではありません。
この地球と一体化しただけで、私は地球にいます。
だから、どうか…悲しまないでください。
私の存在は失くなってしまいましたが、この地球の欠片となり…貴方の傍にいます。
これからは、貴方を見守りそして…この地球とともに貴方のことを守ります。
私は…ここにいます。だから…泣かないで。
大空から、そんな彼女の優しい声が響いてきた…