夢の中、続く現実。
公爵家に生まれた双子の姉、リングラシュ・アナーヒア。可愛い可愛いメアリーの、可愛くない姉。それが、私だった。
真っ直ぐな、くすんだ薄紫色の髪と瞳。女のくせして身長が高く、エスコートしたくないとよくいわれた。本ばっかり読んでも無駄だ、女に知識は必要ないといわれた。
そんな、パッとしない姉と、天真爛漫な妹メアリー。もちろん、みんなメアリーを愛した。
妹のメアリーは、同性の私から見ても可愛らしい子だ。お母さま譲りの、美しい、緩くウェーブした金髪に、ターコイズブルーの瞳。体が弱かったせいか、あまり身長が伸びず、平均よりも低めの身長。クルクルと動き回る姿は、庇護欲を掻き立てる。
私は、私と違って明るく純粋な妹が、羨ましくも、大好きだった。
小さなころの彼女は、体が弱かったので、早くに死んでしまったお母さまの代わりに、私が本の読み聞かせをしたり、外から色々な物を持って帰ってきては、彼女に見せた。
だから、彼女が大きくなり、体も丈夫になって、心の底から嬉しかった。体が元気になって、外を動き回る彼女の緩やかな金髪が光を反射させると、私の心にも日が差したようだった。
おかしくなったのは、暫くしてから。
元気になった彼女は、お父様の勧めで、私と一緒に国立学園に通いだした。そして、いつの間にか王子であるクルール様と、私の婚約者であるウィードル様と友好を深めていた。
今まで体が弱く、思うように外に出られなかった彼女に、友人と呼べる人ができるのもいい兆候だと思った。クルール王子の悪い噂は聞かないし、ウィードル様も、私と友好とまではいかないが、お互いに、婚約者であるという意識を持って過ごしていた。
ずっと、問題は無いと思っていた。
―――そう、今日までは。
学園祭だった今日。学園祭最後の舞踏会で、私は魔女に仕立て上げられた。
普段なら私をエスコートしてくれるウィードル様が、来なかった。
その時点で、気が付くべきだったのだろう。いや、彼女が『お姉さまばかり狡い』と癇癪を起し始めた、あの時点で。
エスコートがなくとも、生徒会役員であり、公爵家の娘である私が、学園祭の締めくくりである舞踏会に出ないというのは良くない。何か問題があったのかもしれないと、一応ウィードル様のルームメイトの男子生徒に聞いてみようと部屋を出た。
しかし、誰も居なかったのだ。舞踏会が始まるのは30分後。にもかかわらず、廊下には誰一人といない。
不思議に思いつつも、もしかしたら時刻が早まったのかもしれないとホールに急いだ。
そして、開けたホール、無理矢理に突き出されたその中央で、クルール様と、ウィードル様、その他大勢による、覚えのない断罪が始まった。
『随分と、遅かったな』
一体、何の冗談なのだろう。
『今更何をとぼけようというのだ』
違う。
『実の妹すら愛せない女と結婚するところだったとは』
愛していたのに。お父様に、私だけ虐げられたとしても。
『メアリーと違って、随分と汚らわしいな』
どうして。
『悪女…いや、魔女の間違いか』
何をしたっていうの。
『さっさと出ていけ!この魔女が!』
私が、何をしたっていうの!?
『何もかも持っているお姉さま。…アンタなんか、昔から、憎くて憎くて。ほんと、どこかで野垂れ死んでればいいのにって…あぁ、そうだ。あそこに行ってちょうだい。ほら、忘却の森。アンタなんか、食われてしまえ』
ねぇ、痛い。痛いよ。