傷心剣士は激情のままに剣を振るう~恋人に浮気された剣士が自棄になって竜に挑んだら剣の極致に辿り着きました~
初投稿です、拙い部分はあると思いますが評価次第では連載も考えてます。
「突然で悪いがこのパーティーを抜けさせてもらう」
冒険者が集う辺境開拓の町アインツ
そこでクエストを終え、行きつけの酒場で席についてすぐに俺、レイルはそう宣言する。
リーダーであり戦士のハウェルを除いて他のメンバーは唖然とした顔をしてるのにお構いなくテーブルの上に金の入った袋を置く
「パーティーを抜ける迷惑金と俺の装備の買い取り金だ、確認してくれハウェル」
「…ああ」
「ちょ…ちょっと待ってよ!?」
ハウェルが袋の中を確認しようとすると我に帰った魔術士のアレッサが制止の声をあげる、勝ち気な性格を表す様なツリ目に炎の様な赤髪が特徴の彼女は攻撃魔術ならこの町でも上位の実力者だ。
「いきなり抜けるってどういう事!?ようやく大規模な魔物の巣を潰して功績を立ててこれからだって言うのに!てゆうかハウェルもなんで普通に受け入れてんのよ!?」
「…事前に彼から聞かされていたからね、引き止めたが彼の意思は変えられなかった…」
ハウェルは中身を確認しながら答える、整った見た目に元は貴族の四男坊だったからか礼儀正しく他のメンバーよりも広い知識と戦士としての確かな技量は周りにも一目置かれている、彼とアレッサに迷惑を掛けてしまうのは心苦しいがそれでも俺の意思は変わらない。
「ですがそれでも急すぎます、私達に一言あっても良かったんじゃ…」
「そ、そうだよ!?それにリーダーはまだしもどうして私には言ってくれなかったの!?」
そう声を発したのは野伏のセネク、ハウェルとは違った繊細な容姿のこいつは驚きから立ち直って静かな声で問う
そしてセネクに続いて声を挙げたのは回復術士のリリア、アレッサとは真逆の水色の髪色と儚い印象を持っており、幼馴染みであり俺の恋人であった女だ。
…こいつらを見ていると今にも抑えている感情が溢れ出しそうになる。
「…なんで言わなかったか?アレッサはまだしも抜けようと思ったのはお前等二人が原因だ、分からないだなんてふざけた事を言うなよ?」
「「…!!」」
二人に向けて抑えてた感情が敵意となって零れる、放たれた敵意と言葉に二人はおろか周囲で飲んでいた冒険者達すら背筋を震わせた。
「ま、待って?二人が原因?どういう事なの…?」
「詳しくはそいつらから聞くと良い…ハウェル、アレッサ、勝手なのは理解してるがすまない、こんな事言える資格はないがお前達とは会えて良かった、今までありがとう」
さようなら、と二人に言い残してレイルは酒場を後にした…。
――――――――――――
酒場を出て中央の道を一人歩いていく
露店や町を歩く人々の喧騒を聞きながら一人で歩いていると嫌でも思考が働いてしまう。
(...今までは常に誰かと一緒だったな)
ハウェルと一緒に武器や防具を見て回ったりアレッサに頼まれて荷物持ちもした
…あいつと良くデートしたのもここだった。
「――!」
思い出したくもないのに一人で歩いていると嫌でも頭の中で浮かび上がっていく、なまじ楽しい思い出だった故に今では忌々しくて仕方がない。
「―――って!」
さっさと町を出てしまおう、この町は思い出がありすぎる…これ以上いたら自分が辛くなるだけだ。
「お願い!待って!」
今一番聞きたくない声と共に腕を掴まれる
気を静める為に息を吐いてから振り返る
「…なんのつもりだ?今更お前と話す事なんかないんだがな、リリア?」
「お願い、話を聞いて!このまま別れたくなんてないの!」
「話す?何を話そうっていうんだ?2年間付き合っていた俺を放って置いてセネクに抱かれ乱れていたお前の何を聞かせようっていうんだ?」
「っ!」
息を切らせたまま腕を掴むリリアの顔が歪む
その表情を見ても心が痛まない、むしろなんでお前が被害者面してんだと苛立ちすら沸く。
…少し前ならこんな事考えもしなかっただろうな
「…ごめんなさい!心細かったの!あのクエストがいつ終わるか分からなくて…レイルも私にそういう事しないから私に魅力がないんじゃないかって不安もあって...」
リリアの声が段々と尻すぼみになっていく、確かに魔物の巣討伐は大規模な合同パーティーかつ長期間の依頼だったし、それでなくてもここしばらく立て続けに依頼をこなすのに全員必死で二人の時間は取れなかった...だが。
「やっぱり忘れたんだな、俺とした約束を」
「え?」
「1年前、お前は俺が迫った時拒否したよな?
その次の日にお前は心の準備ができるまで待って欲しいって言ったんだ、その時約束しただろうが!俺から求めたり無理強いはしないってな!」
感情のままにリリアに向かって叫ぶ、恋人となって1年経って仲を進展させたかったレイルは彼女に迫った、その時リリアはレイルを拒絶して逃げると翌日にそう言ってきたのだ、だからレイルもリリアを怖がらせない為にそう約束した。
彼女はそれを思い出したのか顔を青ざめるどころか蒼白になる、もはや力の入ってない指先を振り払って睨みつける。
「確かにあれから忙しくて辛い日々が続いてた、お前と話す時間すら少なくなっていった…だけど俺はお前を信じて待っていたんだ!」
「…!!」
「だけどお前はそうじゃなかった!お前が抱かれたかったのは俺じゃなくてセネクだった!結局はそういう事だろうが!!」
感情のままに怒鳴る、今も脳裏に焼きついているのだ、信じていたリリアが自分じゃない男に跨がって見た事もない女の顔を晒していた光景が自分の中の醜い憎悪を燃え上がらせる。
一時の感情に約束を忘れて流される、彼女にとってレイルとはその程度の存在だったという事実を突き付けられたのだから。
その場にへたりこむリリアを見下ろす、その姿すら同情を誘う為の行為としか見えなかった。
「もうお前等を見てると我を失いそうになるんだよ、今すぐにでも斬り殺したくなる位にな…頼むから俺に好きだった人を殺させないでくれよ…」
気づけば涙が流れていた、感情のままに叫んだせいか頭の中もグシャグシャだった。
周りに出来ていた野次馬を一睨みして散らすと
町の出口へ向かう。
「…サイ、…ナサイ、」
背後から聞こえるすすり泣く声に耳を塞ぎながら…。
――――――――――
町を出てどれくらいだろうか…。
昨日だったか3日前だったかすら分からない、分かるのは自分が今いるのは魔物の巣があった山の更に先、地図もない未開拓の地に自分はいるという事。
レイルにとって生き甲斐とも言えた恋人と信じていた仲間の裏切りで生まれた感情は渦になって胸中で暴れている。
生きる目的を見失ったレイルにはこれからなんて考えられなかった、自棄になって死に場所を探しているのか八つ当たりをしているのかあるいはその両方なのか…。
「オオォォォンっ!」
木々の間を縫う様に走りながら狼の魔物『ブラッドハウル』が襲い架かってくる
突き出された爪をかわして交差した瞬間、横腹を斬りつける、体勢を崩して着地に失敗した『ブラッドハウル』の首に剣を突き立て、捻って絶命を確認してから引き抜く。
「こんな状態でも淀みなく魔力操作が出来るとはな...」
剣に込めた魔力を感じとりながら奥へと進んでいく、進む途中で襲ってくる魔物を斬り捨てて
いき、やがて森を抜けた先でそれの前に立ってしまった。
「グルルルルッ…。」
岩の様に頑強な鱗に覆われた巨体、大木の様に太い四肢と大鎌の如き爪、極めつけは剥き出しの牙が並んだ巨大な顎と角を持つ魔物
魔物の頂点に立つ種族、ドラゴン
翼のない下級ではあるが間違いなく今までの中で一番強い魔物が目の前にいた。
「はは…俺の最期には充分過ぎるな」
ぼそりと呟いて走る、体に魔力を駆け巡らせて肉体を強化し、そのまま剣にまで伝えて斬り上げる。
だがドラゴンは首を仰け反らせただけで鱗の表面に僅かな傷跡がつくだけで終わり、目だけでこちらを見ると前足を叩きつけてくる。
直前で回避して空いた足に数度斬りつけるが首と同様に僅かな傷跡がつくだけで終わる
上から襲い掛かる顎をバックステップで避けると地面を齧り削ったドラゴンがこちらに向けて口を開くと巨大な炎球が放たれた。
(ブレスを使ってきたか!)
肉体強化を駆使して自身に迫る炎球を避けると
近くの木に着弾して爆発を起こし大気を焦がす
首をこちらに向けて2発目の炎球を放った瞬間に地面を滑る様に体を倒して炎球をやり過ごすと即座に立ち上がって走る。
(鱗で覆われてるなら!)
炎球を放ったままの姿勢のドラゴンの目に向けて剣を突き出す、だが切っ先が少しだけ目に入り込んだけで止まってしまう。
(目まで硬いのか!?)
予想外の事に思わず動きを止めてしまった、しまったと思った瞬間には丸太の様な尾が振るわれ脇腹に叩きつけられる。
肺の中が全て抜け出す様な感覚と体中が砕けた様な痛みを感じながら吹き飛び、地面を跳ね転がって止まる。
叩きつけられる瞬間に魔力を脇腹に集中させたお陰で死にはしなかったが剣を支えにして立つのが精一杯の状態だった。
(ここまで…なのか?)
目の前にドラゴンが迫る、死に体のレイルを見て最早ただの餌と認識したのだろう。
牙の間から涎を垂らして顎を開く、そのまま迫ってくる死の門を見ながらレイルは物思いに耽る
…なんでこうなったんだろうか?俺はただ自分なりの努力をしてきただけなのに…。
…リリアをちゃんと見てやらなかったからか?彼女の不安を解消してやれなかったから?約束なんかしないで思うままに彼女を求めていれば良かったのか?
…自棄にならずに別の町にでも行って冒険者を続けていれば良かったのか?
「…違う」
心に再び感情が渦巻く、リリアの裏切りを知ってしまった時の絶望が、憎悪が沸き上がる。
失せかけた意識が覚醒する、彼女を思ってした約束と行動を踏みにじられた怒りが引き金になって。
魂が叫ぶ、こんな形で自らの命が終わる事を本能に根差した魂が拒絶する。
「ふざけるなぁぁぁぁぁぁっ!!!」
残された魔力の全てを剣へと注ぎ込む、限界など考慮せず自身が成せる最高速度と密度で魔力を流し込んでいく。
限界を超えて注ぎ込まれた魔力を撒き散らしながら剣を激情に任せて振るう。雷の如き轟音を響かせるその一閃は漆黒の斬撃となって迫りくる死の門を触れた箇所から砕き、ドラゴンの鱗を斬り裂いてその体を縦断して消え去った…。
―――――――――――
目を覚ましてまず感じたのは全身に走る激痛だった、痛みにこらえながらアイテムバッグからポーションとマナポーションを呷る。
少しして動ける様になり、立ち上がると目の前に縦に割れたドラゴンの死骸がある。
「やったのか…本当に…」
自身がガムシャラに放った最後の一撃、自分が今まで受けた教えとは真逆の感情任せの一撃がドラゴンを斬り裂いた、あの一撃を放った感覚がレイルに新たな生き甲斐を見出ださせた。
「なにも残ってないと思っていたが…」
まだ残っていた、全て取り零したと思った手の中に自分が培ってきた剣が残っていた。
愛を失った、人を信じる心もおそらくないだろう、ならこの残ったものの為に残りの命を使い果たそう。
最強と呼ばれた剣士の第一歩はここから始まる…。
如何でしたでしょうか?返信できるかは分かりませんがご意見、改善点などあればご指摘頂けるとありがたいです。
追記:連載版投稿してます(^_^ゞhttps://ncode.syosetu.com/n6026ha/