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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

異世界アブラソコムツ強奪暴食事件 in 異世界王宮(あっ……)

作者: は

【注意】


直接表現を可能な限り避けて執筆したつもりですが、題材が題材ですのでご食事予定もしくはご食事中の閲覧は不適切な可能性があります。




 異世界に召喚された。

 経緯は省略。

 重要なのは、うっかり釣り上げてしまったアブラソコムツの魚体を没収されてしまったことである。


「ニョホホホホー! チーキウは美食の天国と聞いているでおじゃる。かのマヨネーズを生み出した民が釣り上げた見事なる魚! 間違いなくチート級の美味礼賛であるに違いないざんす!」


 麻呂なのかザンスなのか分からないけど身分差と経済格差に色々と厳しい視点をお持ちでいらっしゃいそうなカイゼル髭の紳士が、1メートル級の魚体を誇るアブラソコムツを乗せた大皿を抱えてクルクルと回りながら有頂天である。

 傍にいた別の兵士さんから視線で「大丈夫だよなアレ?」的に問われたので「大丈夫じゃないですよ」とだけ答えておいた。すぐさま別の部屋に連行され、事情聴取が始まる。

 とりあえず、最低限の説明はしたつもりだ。


「食べない方がいい」

「即座に命を失うような代物ではないが、社会的には死ぬ」

「食べるなよ、食べるなよ?」

「油脂を沢山含む魚だが、その脂こそが曲者」

「食うなよ」

「地球人類の殆どが消化することのできない油脂によって潤滑されてしまう腸」

「食べたらダメだって」

「個人差もあるが数日は続く」

「食べないでください」

「自覚症状も前触れもなく決壊(意味深)する」

「食ったらあかん」

「脂身好きとか奇食マニアが稀に自己責任といいつつ被害を報告している」

「食べないほうがよろしいかと」

「故郷の国では流通禁止されてるけど、捕獲したり食べる事への罰則はないっぽい」

「なんで食べてるんですか大臣ーっ!」


 会議室の外がとても騒がしい。

 なるほど、この国は異世界人の知識によって新鮮な肉や魚を生で食べるための技術がある程度発達しているんですか。魔法って便利ですね。すげー。

 ははあ。

 アブラソコムツのカルパッチョ、マヨネーズましまし追いマヨネーズ和えですか。

 え?

 いや、自分はアジとかイワシとかそういう庶民的な魚を釣ったその場で海水で洗って開いて、船の上で天日干しにしたものを港に持ち帰って七輪で炙りつつ安酒を飲むのが好きかな。こっちの新聞紙で雑に包んでるけど、今日はトビウオの型の良いのが数揃ったので──これも没収? あ、そんな野暮な真似はしないが御相伴預かりたいと? 衛士詰め所に簡易コンロがある? ところでしれっと会話に参加されている、庶民派アピール激しいけど隠しようもないロイヤル空気を漂わせた御方がひとり……いや、なんでもないっす。

 年とると脂っ気の強い食事でダメージ受けるのは異世界でも同じなのかな。

 故郷じゃ完全菜食主義なんて思想が色々と猛威を振るったんだけど、中年以降になると野菜の美味さを実感する訳で。魚もシンプルに塩焼きにしたのが有難いとか言っちゃうと貧乏なのがバレバレだけど、衛兵隊長さんとロイヤル殿下も御理解示されますか。

 ははあ。

 異世界知識で色々と作られたのを食べたと。霜降り牛肉に過剰肥育したガチョウの肝臓。魚介や茸のオイル煮。バタークリームたっぷりのスポンジケーキ。美味いのは間違いないけど常食できない人も一定数いると? むしろ大多数? 富の象徴として宴席には欠かせないけど持て成す側も招待される側も止め時を見極めきれずに苦悩していると。

 んで、鋼鉄の胃袋と舌を持つ麻呂ザンス大臣(勝手に命名)が少しずつ宮廷で勢力を拡大してきたと。


「んほおおおおお☆ 舌の上でとろける脂の旨味! 脂、おいちー☆ 止まらぬ、止まらないざんす☆」


 ああ、数日間は止まらないな。

 よりによって刺身で食っているようだ。以前来た異世界人から技術を学んだようだが、彼等は何か警告の類を残していなかったのか? いや、仮にあったとしても麻呂ザンスでは無理か。


「しゅきー☆」


 あ、わりと若そうな女性の声。それも複数。

 王女様っすか。公爵令嬢を筆頭に将来の王妃候補となる高位貴族令嬢も召喚にあわせて登城していたそうな。こんなおっさんではなく若くて戦闘力ありそうな異世界人が現れたら、と。下手な貴族よりも地位と収入が約束されているから肌を磨いて臨んできたと。

 あー。

 あの場には止める人はいなかったの?

 無理?

 こと美食に関しては麻呂ザンスを止める手段は無いと。

 ところで今後数日間、他国とか有力者と会談したり宴を開くような予定は、もちろん沢山あるよね。解毒魔法とか生活魔法とかそういう便利なのは開発中っすか。

 毒って漠然としてるからね。

 いや毒ではないか。

 止まらないだけで。止められなかったとも言うが。

 ……

 ……

 逃げていい?





 ▽▽▽




 逃げられなかった。


 これまで数多の賓客を招いて饗宴を催してきた王宮は使用不能となり、麻呂ザンス大臣をはじめとする高位貴族やその御令嬢は数多の性癖を覚醒させつつも再起不能となった。

 庭師と魔法使いを総動員し金木犀の花が満開となった屋外を会場とし、蕾が膨らみ始めた金木犀の花を茶葉と共に煎じて饗した茶会を提案させていただいた。王宮における政治バランスが大きく変わったことによる今後の影響とかは知った話ではない。

 知らない。

 知るつもりないから説明会を開こうとしない、そこのロイヤル殿下。



 それと新たな世界に目覚めてしまった高位貴族令嬢を押し付けてこないように。

 なんで釣り具揃えて船出しようとするのかな?






【登場人物紹介】


・アブラソコムツくん(1メートル級、推定12㎏)

 地球の深海魚。脂肪分豊富だが、よりによってその脂肪の大部分がワックスエステルのため地球人類では消化できずに素通りしていく。諸々の物体と共に。日本では流通禁止っぽい。ネットを漁ると食べた人のレポート文書や動画が割と簡単に見つかる。

 脂の味が好きな人にはたまらないらしいが、苦手な人もいる模様。一時期ホワイトツナという名称で海外で猛威を振るったそうだよ!

 異世界召喚時に巻き込まれ、異世界グルマンたちに美味しく頂かれた。主にカルパッチョと刺身と寿司とバターソテーとフィッシュフライで。ワックスエステル君は異世界でもワックスエステル君としてのチート能力を如何なく発揮した。


・主人公

 この話の被害者その1。釣り船で雑魚系の魚を釣ってその場で干物にして持ち帰って食べる系の趣味人。たまたま時間があってトライしたらアブラソコムツを釣り上げてしまい途方に暮れたところで異世界召喚された。チート能力は不明だが油断してると事故物件を押し付けられそうなのでとっとと元の世界に戻ろうと考えている。そして多分戻れる(事故物件がついてこないとは言わない)


・ロイヤル殿下

 この話の被害者その2。王族の良識派。要らぬ苦労を背負い込むから胃が弱る。フォアグラとか霜降り肉が苦手。蒸した野菜にヴィネガーと塩胡椒で軽く和えたものを主人公に提供してもらったら涙を流して喜んだ。政敵が大多数駆逐されてしまい王位継承権がなんだか大変なことに。


・麻呂ザンス大臣

 鑑定魔法を使えればよかったのにと思う反面、鑑定結果を知ったところで「ギリギリのところを見極めるでおじゃるザンス!」とオムツ着用で食っていたに違いない。異世界にY〇utubeがあったら登録者数百万人くらい稼げそうなトークセンスと体当たり企画の才能はある模様。主人公の説明を受けて一週間ほど自宅に籠もる程度の良識はあった。


・高位貴族令嬢達

 主にやらかした。王宮で高貴な人たちがいる中で淑女結界を鍛え上げていた筈の貴婦人としての誇りなど異世界チートなワックスエステル君の前ではビビデバビデブー(呪文)であった。

 その際に幾つかの目覚めんでよい特殊性癖に覚醒してしまい、大船団を組んで異世界にもアブラソコムツもしくは類似の魚がいるに違いないと意気込んでいる。ちなみに事態を予測して速攻で対処(意味深)してくれた主人公に心から感謝しており、褒美に己の人生を捧げてやろう程度には考えている模様。むしろ婚約者候補がどこかに消えた。



・金木犀(異世界)

 季節外れだったが庭師と魔法の力で通常よりもパワーアップした状態で開花。

 王宮のスキャンダルを甘い匂いで蹴散らした。金木犀の花を混ぜ込んだフレーバーティー(桂花茶)は実際に存在する。


・庭師

 王宮の掃除(意味深)と金木犀の世話どちらを選ぶと問われた結果、過去最高のパフォーマンスを発揮し各国の来賓よりお褒めの言葉を頂戴した。





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― 新着の感想 ―
アブラソコムツとアブラボウズ混同して「あれ? アブラボウズって食用? 脂がワックスじゃなかったっけ?」ってなったのを覚えてる。そしてグーグルで調べたらバラムツの方が出てきてアブラソコムツの名前を忘れる…
[一言] 何年か前に何処ぞの茶葉専門店で秋限定フレーバーとして金木犀のフレーバーティーが売られていたなど アブラソコムツは…うん… 旨いと聞いたことはあるものの、刺身で3切れまでが限界だそうで
[一言] 通りすがりの魚屋です。 一応流通不可なのでさばいてくれと言われても断ります。 あの脂って洗ってもなかなか落ちないから二次被害まで起きるんで……… って、言うか何故爆食したし………(笑) 一…
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