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第40話・交渉

 「嫌だと言ったら?」

 「俺が答えられるわけないだろう。だけどよ、まあ間違い無くお前の想像した通りになるだろうな」


 言いやがる。毎度毎度足下見やがって。これだから警察からの依頼は信用出来ないんだ。


 例のカマ男の件、仕事としては結局は失敗に終わったわけだ。

 受けた依頼は間違い無く成功させてきたこちらとしては「チッ、反省してまーすスンマセーン」と嘯くくらいしか出来ないのだが、依頼主にしてみればそれで収まらないのか、前回の失敗を不問に付す代わりにとまた無茶振りをしてきやがったのだ。


 「……だけどな、お前にとっても悪い話じゃない」

 「どういう意味だ」


 話が具体的になりすぎるため、今度はいつもの喫茶店なぞではなく、こういった時に一回だけ使うことを前提にしたセーフゾーンにしてある。

 ヤサとも言えるセーフハウスとは違い、安全であることを自分で担保できる(この場合の安全とは、他の誰にも知られていないことを言う)場所を見つけていくつか確保しているのだ。

 もちろん長期的に確保出来るものでもなく、長くとも一ヶ月、短い場合では三日ほど で入れ替わる。

 使わずに終わってしまうことの方が無論多いが、賞味期限の切れたゾーンはもう二度と使えない。私の仕事は、こういう場所を確保する手間に一番時間をかけているとも言える。神崎を連れてこれたのなら、まあ見つけておいた甲斐はあるというものだがそれはともかく。


 くいくい。


 「うるさい後にしろ。で、悪い話じゃない、というのはどういう意味だ」

 「いや、悪い話じゃないというかだな、むしろ悪い話なのかもしれんが…その、だな。お前を昔誘拐した連中の……ひぃっ?!」

 「……なんだ。あいつらがどうかしたのか?幽霊にでもなったか?あいつらは恨む相手より恨まれる相手の方がはるかに多いはずなのに、随分図々しい話だな」


 何せ恨む相手となると私一人しかいないのだ。当然の話だ。


 「い、いや……その、笑うのをやめろ。漏らしたらヤバいもんが漏れそうだ」

 「笑顔を向けられて漏らすとは新手の冗句か?」


 こちらから顔を背けて両の手のひらを突き出し後ずさる神崎。

 どうでもいいが、こんな取り壊しを待つビルの最上階踊り場でそんなことをしてたら、足を踏み外すぞ。

 というか、そんなに怖い顔をしてるのか?私は。


 「…お前の過去をあれこれ詮索するつもりはねぇよ。とにかく、だ。アシッドレインとそのガリウスって組織が繋がっていた、過去に、だけどな、それはある程度裏がとれているらしいんだ。その上で、お前がガリウスに……まあ、被害を受けてたのは上の連中も分かってて、それで……ああくそっ、なんで俺がこんな真似をしなけりゃならねえんだっ!ほらよ!!」

 「……帰ってから開けよ、とだけ言って渡せばいいものを。お前も律儀なヤツだな」

 「俺が黙って渡して後からお前一人で見たら、もう二度と顔を合わせられなくなりそうだからな。一応は義理ってやつだよ」

 「そうか」


 渡されたコピー用紙に書かれていた名前のいくつかには見覚えがあった。

 救出された後、事情聴取された時に見た名前だ。それが、アシッドレインを取り扱う組織の名簿にも載っていた、ということは、だ。


 「……むしろ警察がガリウスのクソと関係がある、って解釈をしたくなる話だな」

 「ああ、そう思われるのが分かってたから怖かったんだよ。上の連中は困ったことに親切心のつもりでいるからな」


 今どき珍しい紙巻き煙草をふかす神崎。というか煙草なんぞやってたか?こいつ。


 「…ストレス解消のために時々な。幸い警察はそっち方面には大分緩い。今でも大抵の署には喫煙室が用意されてるもんさ」


 もちろん上には内緒でな、とどうでもいいことを付け加える神崎。

 私にはわざわざ焦げ臭い煙を吸い込む連中の気持ちなんぞ分からんが、ボロボロの手すりに肘を掛け勿体ぶったように一本八十円の紙筒を燃やしているところを見ると…まあ、格好つけたくなるということなら、理解出来なくも…あ。


 「どわぁっ?!」

 「言い忘れていたがそこの手すり、体重なんぞかけると崩れ落ちるぞ」


 なんせ発破のための調査すら中止になった建物だからな。台風でも直撃すれば多分崩れる。

 遥か下方に重い音を響かせた手すりの残骸を、神崎はへたり込んだまま見上げて文句を言う。


 「先に言えそういうことはっ!」

 「こんな場所であれこれ手を触れる阿呆がいるだなんて思わなかっただけだ。別に悪気はない」

 「…その言い方で悪気が無いと思うのはお釈迦様でも無理だと思うぞ」

 「じゃあ悪気はあった」

 「全然慰めにならんわ」


 どっちならいいんだ。ワガママなヤツだ。


 「…で、話はそれだけか?」


 貰うモノを貰えばもう用事はない。

 立ち上がって尻についたホコリを叩いてる神崎を置いて帰ろうとするが、呼び止められて異な事を言われた。


 「ああ待て…いや、上も流石に今回は手ぶらで仕事させるつもりは無いらしい。型遅れで良けりゃ装備を融通してもいいとよ」

 「ふーん。じゃあヒトマル式をもらおうか」

 「…ヒトマル式?どこのだ」

 「三菱の」

 「戦車じゃねえか。型遅れつってもまだ主力だろうが。あ、いやそうじゃねえそもそも戦車なんざ回せるか、馬鹿野郎」


 冗談の通じないやつだ。だがバカに馬鹿野郎呼ばわりされるのも面白くはない。

 そろそろ話を打ち切って仕込みに入らないとな。

 大体、警察が自前の装備を使わせる、なんてのは碌でもない話に決まってる。警察の仕業だと知らせるため、とかな。下手にそんな意図に乗っかったら何に巻き込まれるか分かったものじゃない。


 「ならもう用は無い。私は帰る」

 「お、おう。頼んだぞ…っつーか、おい待て。結局ソレの説明は無いのか?」

 「それ?どれのことだ」


 振り返って神崎の不細工に歪められた顔から放たれる視線と、煙草を持ったままの指が指し示す先を見る。


 「それだよ。お前、いつから子連れ狼を気取るようになったんだ?」

 「ふぇ?」


 口をパンパンに膨らませたピュロスが、そこにはいた。




 私は暗殺者アサシン

 子連れ狼……?を気取った覚えは無い。

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