表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/68

第16話・接触

 12月。

 かつては地球温暖化、などという話もあったらしいが、記憶にある限り冬が冬らしくなかった年など無い。毎年寒くなり、雪だって一度くらいは積もる。その度に電車やバスが混乱し、都内では何人が転倒して病院に運ばれた、なんてニュースは風物詩と言ってもいいくらいだ。

 今日のところはそこまで寒いわけではないが、一両日中に雪が降りそうだ、という話ではある。


 「~♪」


 そして、どこへ行く時も引っ付いてくるピュロスは、何が楽しいのか鼻歌交じりでスキップ、という上機嫌極まり無い足取りである。


 「…何がそんなに楽しいんだ?」

 「んー?だってアキコが新しい服買ってくれたし」


 …いや、流石にこの天気で、秋頃でも薄寒さを覚えさせるようなものを着せてたら、児童虐待で通報されかねない。当たり前だろう。


 「ただの古着だろうが。喜ぶ程のことじゃないと思うんだがな…」

 「アキコはじょーちょ、とか、にんじょうのきび、ってやつが足りないー」


 そんなことを言われてもだな、野暮が服着て歩いてるような女だと自他共に認める私にはさっぱり理解が出来ない。

 そうぼやくと、大分古いビルが目立つようになった五反田のメインストリートを歩きながら、例によって手を繋いだピュロスは不満そうに鼻を鳴らすのだ。

 それにしても、この戸惑いというかわけの分からない、もやっとしたものは何なのだろうか。

 記録に無い誕生日とやらから計算すると、私は今年三十になったところ、のはずだ。それがまあ、自分の半分も歳のいかない小娘に振り回されるとはな。

 そして余計にわけがわからないのは、だ。


 「…ピュロス。お前歳いくつなんだ?」

 「いまさらそれきく?」

 「女には秘密が多い、とか巫山戯たことを言って結局教えてくれなかったじゃないか。この前は」

 「アキコよりは下だとおもうよ?」


 当たり前だ、と苦笑すると、手を繋いだこの子は屈託無くきゃっきゃと笑うのだ。

 そして、そんな何の意味も無いやり取りが、途轍もなく心地よい。それがどうしてなのかが、分からない。本当に。


 「……なんなんだろうな、お前は」

 「ピュロスはピュロスだよ」

 「聞いた私がアホだったよ。ったく」


 日にかざすと金髪のように見える薄い栗色の髪を振り乱しながら、ピュロスは駆け出した。私の手を引っ張って。

 その先に何があるのか知りたくも思えるし、今のままでもいいとも思える。

 一つだけ確かだと言えることがあるとしたら、もうコイツのいない生活に戻りたいとは…まあ、あまり思わないだろうな。




 「けえさつしょ?」

 「だな」


 警視庁大崎警察署。

 半世紀前なら最新の建築物であっただろうに、今となっては…まあ、丁寧に使い込まれたボロビル、というところか。

 もちろん、この稼業である以上、自分からノコノコと姿を見せていい場所でもない。

 いくぞ、とピュロスをうながして私は、署の入構門で棒を握って立っている若い警官の前を通り過ぎた。当然こちらをジロリと胡乱げに見やる。まあ、それが彼の仕事だ。特に子供連れの外国人、となると目も向くだろう。

 そうして、そんな失礼な視線を向けられる気配も失せた頃、私は携帯端末を取り出して、見知った番号に電話をかける。


 『…おい待てよシンシア、今俺が何処にいるのか知っててかけてきたのか?』


 ワンコールで反応アリ。やはりコイツに連絡をつけるときはこの時間帯に限る。


 「決まっているだろう?今外にいる。さっさと出てこい」

 『相変わらずのタチの悪さだなお前はっ…?!……いや、なんでもねえよ!ちょっと出てくる』


 前半は声を潜め、後半はこちらに聞こえよがしに、向こうにいる上司だか同僚だかにでも言っていたのだろう。

 そしてそれだけで応諾の意は伝わったとで思ったのか、断りもせず通話を切っていた。

 まあ、いい。あの様子ならすぐに泡を食ったようにして出てくるのだろうな。


 「…アキコ、だれ?」

 「ん?ああ、もうすぐ来るだろうが…」


 ま、会えば分かるさ、と首を傾げてこちらを見上げるピュロスに言ってやると、ますますわけがわからん、とでも言いたげに、さらに首の傾く角度を増やしていた。

 とはいえ、こっちだって警察署のすぐ側、なんて居心地の悪い場所に長居するつもりは無い。ヤツが現れるのなら早い方がいいのだが…。


 「てめえシンシアっ?!こんなところで待ち構えてるたあ俺の立場ってもんもちっとは……」


 などと考えているうちに、予想よりも早く見たくも無い顔が現したのだ。が……。


 「……なんだ?お前にしては珍しい顔をしているが。どうかしたか」

 「あ、いや……その、なんだ。わりぃ、気付きもしなくてよ…あ、その、なんだ。おめ、おめでとう…ございます、でいいのか?」

 「いいわけあるかこのドアホウッ!!」


 …このシチュエーションで誘拐を想像するのではなくそっちが思い浮かぶ辺り、警官としては発想が長閑すぎないか、貴様は。




 私は暗殺者アサシン

 職業柄、警察は嫌いだ。きっと向こうも似たようなものだろうが。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ