いかり を こめて
敵が引いてくれないので味方に助言を貰おうとしたら、先に味方に始末されそうになっています。
解せぬ。
「だからあれほど注意したのに、なんで突っ込んでしまうんですか!?」
「いやでも…」
「でももだってもありません!!」
「…はい!すいません。」
「すいませんで済んだら戦争なんて起きてないんですよ!後先考えず突撃、突撃、突撃、とぉつげきぃ!!死にたいんですか!?
もしそうなら随分大げさな自殺方法ですね!?
5000人も動員した自殺ってコンサートか!!
付き合う我々は死者が寂しくないように用意されたオーケストラだとでも!?」
副長が怖いです。
仮にも団長に向かってその態度とは。
思わず感服しそうになりますが、ここは私の威厳の為にもきつく言って…
「聞いてますか団長!?」
「はい!聞いてます!」
…私団長!威厳なんてなかった!
いや、仕方ないのです。
我が傭兵団の経理や依頼主との折衝は彼が担当しています。
ここでヘタに逆らってストライキとか起こされようものなら、脳筋ぞろいの我が傭兵団はたちまち立ち行かなくなってしまいます。
そんな事になれば目も当てられません。
生きる為には食べねばならず、食べるためには金がいる。しからば、戦ってその金を手に入れるのが我々傭兵。
そして私は傭兵団の団長として仲間に給金を払う責任があります。
つまり私は団員の為にもこの叱責を甘んじて受け入れてですね…
決して怖いとかそんな理由では…
「団長!?どこ見てるんです!!」
「ごめんなさい。」
―うそです、とってもこわい。
怒ってます。
こんなに怒った副長を見るのは久しぶりです。
いつもは小言がうるさいぐらいなんですが、今日は凄い怒ってます。
ちょっといつも通り突撃しただけなのに!
「だんちょーのあほぉ!」
「ばーか!」
「考えなしー!」
「どーすんのこれ、敵だらけの中で孤立してんぜ!」
「笑うしかねーぜ!ぎゃはははは」
「なるほど笑えばいいのか。ははは」
「俺の笑い声を聞け!がははははは!!」
「ひーっひっひっひ」
「誰だよ今の笑い声」
「つーか笑えるか!俺はまだ死にたくねぇよ!」
「俺、この戦いが終わったら結婚して引退するわ。」
「この状況で頭沸いてんのかてめえ。ロクに女と話した事もねぇくせに。戦い終わる前に俺がお前を殺してやろうか?このくそ野郎!」
「んだとてめぇ!」
「うるせえ馬鹿ども。手止まってんぞ!黙って敵ぶっ殺せ!」
「んなこと言ったって何人斬りゃいいんだよ…いい加減疲れてきたしよぉ」
「久々に死にそうな状況だぁ!!いっやっほぅ!!ひゃっほぅ!」
「おい!ビリーが狂ったぞ!」
私が怒られてる背後で皆んなそれぞれに騒ぎ始めました。
戦場で呑気に喧嘩したりしてますが、敵を倒す手は止めません。
あと、ビリーはもともと少しおかしい子です。
まあ頭のネジが多少緩くても構いません。
強いので。
皆ビリーを見習ってぶっ殺しましょう。このままではいつまでたっても終わりません。
ほんと、敵軍はなんで退却しないのでしょうか。
近頃は我々が突撃してある程度蹴散らせば、敵が諦めて引いていくというパターンがお決まりだったのですが…
まさか敵将は負け方にもアイデンティティーを求める【あーちすと】とやらなのか。
いや、そうでもないと説明が…
「良いですか!
今まで我々の活動地は大陸の北、北方域でした。
対して今いるこの場所は大陸の南、つまり南方域。
この度、めでたく北の戦乱が南にも広がり出したので、稼ぎ時と思いわざわざ出張ってきました!
確かに我々は北ではそれなりに名の通った傭兵団で、多くの結果を残してきました。
そのため、北では我々と真っ向からぶつかるのを避ける敵も多かったでしょう!
しかしここは南方域!
北での実績や名声は必ずしも重要視されるものではありません。
むしろこの地域のお貴族様は北を野蛮な地とか言って見下してくる傾向があります!
それに、我々が南で依頼を受けたのは初めてです!
敵軍からしてみれば、無名の傭兵団が無謀で馬鹿で考えなしの突撃をしてきた、ぐらいの認識しかなかったでしょう!
しかし我々は非常に、ひじょぉぉぉに悲しいことに!敵陣の奥深くまで到達しています!
敵からしてみれば雑魚だとしか思ってなかった相手にそこそこな被害を被っているのです。
引くわけがありません!
あちらは国軍です!
その威信をかけて我々を潰しにかかりますよ!
見せしめにする為に!」
副長が息継ぎを挟みながらまくし立てます。
言われた内容を吟味すると…
ほほぅ。
つまり虎の尾を踏んで怒らせてしまったと。
なるほど、確かに。
北では敵が勝手に逃げてくれるとしても、南では無名の我々。そんな事は起こり得ないと。
我々は500人、あちらは5000人。
普通に考えたらすぐ終わるのに、今も交戦中。
しかもそこそこ被害を被って未だ一人も討ち取っていない。
あちらは国軍ですから、弱いなどという事を思われたら国防に関わる大問題です。
侵略を誘う原因になりかねません。
よくよく考えたら引くわけがありませんでしたね!
てゆーか副長、なぜ私を止めなかったのです!!
貴方がきちんと引き止めていれば敵陣で孤立する事もなかったのでは!?
「なんですその顔!
私はちゃんと止めましたよ!?
聞く耳持たず意気揚々と突っ込んだのは団長ですからね!!」
「もっと真剣に止めなさい!激しく止めなさい!意識を奪ってでも止めなさい!それでも副団長ですか!?」
「はぁぁぁ!?私のせいですか?
だいたい団長を気絶させるとか伝承の魔王とやらでもないと出来ませんよ!!」
「だったらその魔王を呼んできなさい!」
「頭おかしいんじゃないですかあんた!魔王なんているわきゃないでしょーが!!」
「あ、あの〜」
「頭おかしいって団長に向かってなんて事を!」
「おかしいからおかしいって言ったんだよ!」
「ちょ、」
「援軍はいつくるんです!?突撃して結構たってますよ!」
「団長が依頼主をボコったから援軍なんて来ませんよ!
そもそもここに配置されたのだってそれが原因の嫌がらせでしかないんです!
幸い、依頼主の上官の方は良識あったのでこのぐらいで済んでたんですよ!?
『済まないが、配置は変えられなかった。敵を翻弄して足止めしてくれ。無理なら逃げてくれてもいいから』って言ってくれたのに!!」
「仕方ないでしょう!
やっっっと陣幕に通されたと思ったら、いきなり『妾にしてやる。』とか言われたんですよ!?
我慢してニコニコと嫌ですわ〜結構です〜とか言ってたのに、何を勘違いしたのか触ろうとしてくるし!気持ち悪い!!
ってゆーかなにその話!?
聞いてないですよ!!
言われた作戦内容は『君達が突撃して突破口を開いたら、そこに味方が突っ込む』って内容でしたよ!?」
「はぁ?なんですそのアホな作戦?聞いてないぞ!誰に言われたんです!?」
「あの依頼主よ!!」
「「……………あのクズ野郎の仕業かぁぁぁぁぁあ!!!!」」
「おかしいと思いましたよ!いつも突撃を嫌がる副長が今日は作戦通りにって念押ししてきたから!」
「くそ、あの野郎…団長にボコされて袖にされたからって我々ごと抹殺するつもりで…」
「あの〜話終わりました??終わったらちょっと聞いて欲しいんだけど〜」
「「なん(です)だ!!」」
「敵が準備万端って感じです。包囲して槍衾と盾で近づいてきてます。」
―なんですと?