とつげき
この世に終わりなきものなどない。
私はそう信じている。
いったいどれほど敵がいるのか。
そんな事を考えても意味はない。
ここは戦場で、私達は敵陣の真っ只中にいる。
敵を数える必要など無い。己が前に立ち向かう者全てが敵だ。
ただ、剣を振るって前へ。
敵が眼前を埋め尽くそうがなにも気にする事はない。
なんとなく強そうなやつをたたき切ればいい。
後は後ろの仲間がなんとかしてくれる。
そうして出来た空間に足を進め、また来た敵を斬る。
これを繰り返していれば、いつかは終わる。
……おわる。……はずだ。
地面の上、通した道には敵だったものが転がっている。流れた赤は土に逃れ、悲鳴と怒号はこの戦場を覆う。
咆哮を上げて突喊してきた槍持ちの槍を叩き斬り、続いて味方ごとお構いなしに放たれた矢を弾き。
さらに前へ出てきた敵に一太刀。
背後には仲間がいる。
彼等とともにいくつもの戦場で戦ってきた。
敵の罠にかかり囲まれた時も。
夜営中に襲撃され武器も持たず落ちていた石で戦った時も。
崖上から大将首を狙い突撃する最中、足を滑らせて滑落した時も。
あらゆる状況を乗り越えてきた頼もしい仲間だ。
なにも心配は要らない。
いつも通り、進めばいい。
「オラァァァっ⁉︎」
「行かすな‼︎ここでしとめっ‼︎」
「ぎゃっ‼︎」
敵を斬る。キル。きる。
「放て、はなてぇ‼︎」
「しかし味方がっ⁉︎「いいから撃て‼︎突破されてなるものかぁ‼︎」っ…火弾っう、うてぇ‼︎」
前方奥より魔術隊の集中砲火が降ってくる。
なりふり構わず、敵味方の区別なく放たれた炎の雨は避けようなどない。
「っあ…‼︎」
「……ひぃ…」
不意に明るくなった空を見上げて、眼前の敵は呆然としている。
味方から撃たれたという事が衝撃だったのか。
あるいは本能によりその火に死を感じてしまったのか。
ーどうでもいい。
戦場にいるのだから。動かねば生き残れない。
呆然とする彼等に、ろくすっぽした事もない祈りを送る。
汝、良き盾とならん事を。
そして掴んで、空へと送り出す。
大地を蹴りつけ、反動を足から腕に。全身をかけて届かせる。
彼等の献身を持ってしても、全ては防げない。
ゆえに。
「魔術が来る‼︎各々、こぼれに注意‼︎」
背後の仲間に伝えた。
そうして、花が咲いた。
命を糧にして。
有難いご利益付きの盾に当たらず飛んでくる炎のいくつかを剣で斬る。
背後の仲間に当たりそうものをいくつか減らすと、残りは仲間が作った盾が受けとめた。
敵越しに見える炎は、燃料の多さを表している。燃える命、煙る臭いは無念の残り香か。
血の臭気と混じりここにまで不快な臭りを届かせる。
阿鼻叫喚、まるで地獄のように。
「随分物騒ですねぇ…形振り構わずですか。」
前方の敵にも炎がかかっていたため、炎と何も無い空間が出来ている。
立ち止まり背後の仲間に視線を向けると、やはりというべきか、その無事を知る。
仲間たちよ、無傷でなによりです。
しかし、いつもの展開ならそろそろ敵が慌てて退却して終わりそうな頃合いなんですが…
一向に敵が引いて行きません。
何故でしょうか。
ちらと背後を見る。
困った時は仲間に頼ればいい。そうすれば誰かは答えを出せるはずだ。
「えー……何故か敵が引いてくれません。このままだと疲れて死んでしまいます。どうしてでしょうか。」
「こっちは500人で向こうは5000人いるんだ、引くわけないだろ!?」
「だから突撃する前にやめとこうって言ったんだよ!」
「団長が疲れて死ぬ前に俺らが敵にぶっ殺されるわ!!」
ほぼ全員から怒られた。
元気でなによりだと思います。