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フィンの過去3

 アルファディウスとフィンが部屋を後にした後。そっと卵のそばに歩み寄る影があった。


「……ダメだったのね」


 黒く、まっすぐな髪を揺らすフィンの母、アルフリーダだった。


「ダメよ。あなたはここで終わっていい命なんかじゃない。私はあなたを諦めないわ」


 冷たい石となったその球体の前にひざまづいた母は、自身の胸にそっと手を押し当てる。


「あなたは……私を恨むかもしれない。それでも……母の勝手を許してね?あの子にはきっとあなたが必要なの。龍の王として生きる使命を持ったあの子を支えるあなたが。そして……」


 ドクン……


 アルフリーダの胸。ちょうど心臓の鼓動が響くその場所が光を放つ。


「第17代目……竜の巫女としての使命を果たします。約束の日はもうすぐそこなのです。どうかフィンと……この世界を守ってくださいね?」


 アルフリーダの胸の光が彼女の手のひらに移る。


 そしてそれを冷たい石となった卵の中に押し込んだ。


 固有デバイス、【生命】のマナ。


 それはアルフリーダの一族にのみ与えられし唯一のマナ。


 その力は……。



「あなたの顔を……見ることができないことは辛いけれど。それでも、私はあなたのそばに居るわ。永遠に……」



 光が卵に収束し、辺りは再び暗い闇に支配される。


 そして光が完全に消えたその時。アルフリーダの姿はどこにも無いのだった。


ーーーーーーー


 あくる日。


 フィンは朝早くに卵のある部屋へと向かう。


「……すまんかったな。寂しい思いをさせた」


 そう言いながらフィンは冷たくなった卵に手をかざす。



 ……………………ピシイっ



「………………え?」



 聞き間違いかと思った。



 ピシ……パキパキ……



「……っ!?」



 だが、それは勘違いなどではなかった。


 目の前の卵に走る亀裂。冷たくなっていたはずのそれに宿る生命の鼓動。


「とーちゃん……とーちゃん!!」


 思わずフィンは叫んでいた。


 そして、その瞬間。完全に卵が砕け、中からその子は現れた。



「オギャァァァァァ!!!」



 フィンと同じ、人の姿形をした小さな女の子。


 黒く、真っ直ぐな髪と真っ赤な瞳が太陽の光に照らされて眩しいほどに輝いている。


「な……!?まさか!?」


 声を聞きつけて駆けつけるアルファディウスとアベル、そして他の兄弟達。


「よ、よしよし……」


 フィンは泣き叫ぶその子……生まれたばかりの赤子を抱き上げる。


 あぁ……何て、暖かくて優しいのだろう。


 目の前で起こる生命の神秘に、フィンは思わず涙を溢れさせた。


「し、しかし……何故あの卵が?あの卵は……」


「き、奇跡だ!きっと、神様がこの子の事を助けてくれたんだ……!」


 驚きを隠せないアベルとフィン。


 けれど1人だけ、それに気がついた者がいた。


「…………アルフリーダ」


 卵のそばに落ちているのは母アルフリーダの服。


 そうか……使ったんだね?君の一族に伝わる秘術を。


 己の心臓を捧げ、その生命エネルギーを他の者に移す唯一無二の魔法。


 蘇生魔法【ブラッドストーン】。


 自分の命を他の物に渡す禁断の術を。


「…………フィン。名前を呼んでやってくれ」


「とーちゃん……?」


 震える手で生まれ落ちた彼女を抱くフィンは父を見上げる。


「お前が……守ったんだ。その子を助けたんだ。だから……お前の決めた名前でその子を呼んでやってくれ」


「何で……泣いてるんだ?」


「……今はまだ、知らなくていい。今日は喜ばしい日なんだ。新たな命が奇跡を経てこの世に生を受けた……祝福すべき日だ。だから……」


「…………分かった。泣くなとーちゃん」


 幼いフィンには何が起きたかなんてまだ分からなかったけれど、ただそこに生まれ落ちた新たな命にフィンは感動した。


 こんなに……小さくて細い身体をして。それでもよく無事で生まれてきてくれたと。


 そんな彼女にふさわしい名前。


「ゼリルダ……こいつの名前は、ゼリルダだ」


 強く、力強く生きてほしい。そんな願いを込めて、フィンは初めて彼女の名前を呼ぶ。


 こうして、後の黒龍の女王ヴルガルディア・フォン・ゼリルダはこの世に生を受けた。


 最愛の母の愛と想いを一身に受けて。

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