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決意

「……ね、シェリーさん」


 ソウルがハシゴを登っていくのを見た後。カミラが俯きがちにシェリーに言葉をかけた。


「何で……ソウルくんは僕達を助けてくれたの?」


「カミラ?」


 シェリーにむしられて歪になった羽をパタつかせながらポピーもカミラの方に視線を向けた。


「だって……僕らのミスじゃん。レイオスに策がバレたのも……結局ソウル君の助けになるとか言って、交渉が決裂したのも。それに、あれだけ危ない目にあっても僕達を助けることに迷いもなかった」


「…………」


「ねぇ、ソウル君ってなんなの?何の意図があってこんな……」


「……ソウルにそんな難しい意図なんてありません」


 そう言ってシェリーはカミラに自身の胸元をはだけさせた。


「……っ!?それ……」


「【奴隷紋】じゃん……」


 そこから現れたのはシェリーの罪の証。自身の犯した過去の象徴があった。


「そうだ。私は罪人だ。かつてあの男……レイオスが私の故郷【妖精樹】を焼き払い、全てを奪った」


「レイオスが……そんなことを?」


「うっそー!?あれ、レイオスがやったの!?」


 カミラ達の反応を見る限り、レイオスはどうやらその辺りの事情を隠しているのか。


 そんなことを思いながら続ける。


「私は狂った。父の言葉を切り捨て、数多のイーリスト騎士を討ち滅ぼし……最後には私の父を殺した。そして私の父はソウルの師だった」


「「……っ!?」」


「そして……討ち滅ぼした騎士の中にはソウルの尊敬する上官だった者だっていた」


「何……それ……」


 シェリーの過去にカミラ達は絶句していた。


 そして、それと同時に信じられないと思っていた。


「じゃあ……じゃあ何で、あんたソウルと今こうしてシュタールに来てんのさ!?」


「まさか……ソウル君はその事知らないの!?それとも……その【奴隷紋】であんたを死ぬまでこき使おうってこと!?」


「彼は全て知っています。全てをさらけ出し……そしてそれでもなお、彼は私と真正面から向き合って……止めてくれた」


 服をまた着直しながらシェリーは告げる。


「彼は、復讐の炎に焼かれる私を救ってくれた。彼は……そういう人間なんだ」


「っかー……とんでもないお人好しだわ。そりゃあ暴走したカミラ止めるのも納得するわ」


 1人何かに納得したように頷くポピー。


「いえ……ただのお人好しともまた違うのだと私は思っている」


「違う?」


「えぇ。彼は人の心の奥の光を見抜く力を持っているのだと思います。無意識かもしれないが」


「人の心の奥……?」


 あまりピンとこないカミラに向けてシェリーは続ける。


「そうだ。私にもうまくは言えないが……彼の人を見る目は確かだ。そのソウルがあなた達を助けたというのなら、あなた達はきっと善なのでしょう」


「…………」


 僕が……善?


「……まぁ、あくまで私の考えです。それに彼はきっと彼に協力してくれたあなた達を見捨てるようなことはできない。底抜けに優しくて、バカですから」


 そう言って、優しげに微笑みながらシェリーもまたハシゴに手をかけて登り始めた。


「…………」


「……だいじょぶ?カミラ」


「……僕のこと、善……か」


 そんなこと……思ってくれたのは、この世界で父と母。そしてゼリルダ様だけだ。


 僕が鬼の力を持っているから……。悪魔の一族の力を持っているから、それだけで僕は悪だと……決めつけられて生きてきたというのに。


 不思議な人だ、彼は。


「……ね、ポピー」


「な、何?」


 登っていくシェリーとソウル達を見上げながらカミラは語る。



「僕さ……とんでもないこと考えてるんだけど……」

 


「…………あ〜〜、何となく理解した」


 カミラの言葉を聞いたポピーは頭を抱えながらグルグルと回転している。


「……ね、この国。ぶっ潰しちゃおっか」


「……ま、どーせこのままあのイカれメガネに好き勝手されるのも気に入らないし?あたいたちの地位も剥奪されるだろーしね」


 そうだ。どこかで思ってはいた。


 この国は、このままでいいのかってこと。


 でも、それまでだった。自分に何かできるなんて大それたこと考える気もなければ、そんな強い想いだってなかった。


 彼と出会うまで。


 こうあって欲しいと、思ってしまった。見捨てられるのが当たり前じゃない世界。


 困っている人がいたら、手を差し出し合うのが普通な世界。


 戦いだけが、全てじゃない世界。


 父と母のような、悲しい存在が生まれることが……ない世界。


「やっちゃうか。こーいうの、なんてんだっけ?」


「確か……【革命】って言うんじゃない?」


「そー、それだ」


 決意を込めてカミラはハシゴを握る。そして力強く一歩一歩、ハシゴを登り始めた。



「やろっか。ヴルガルド革命。この国を好き勝手やってるあのクソメガネを潰して、政権をゼリルダ様に戻す」



「だいじょーぶかなぁ?ゼリルダ様にそんな難しいことできる?」


「そんときは、僕らの出番っしょ?多分アイザックも……そんであいつも協力してくれるだろーし」


「あー……あのゼリルダ様バカね。今頃どこほっつき歩いてんだか」


「分かんないけど……ただでやられる玉じゃないし、どっかで機会を伺ってんじゃない?ゼリルダ様が実権を取り戻したらすぐにどっかから手を貸してくれるって」


「だといーけど……」


 そんなことを言い合いながら、2人は上へ上へと上がっていくのだった。

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