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シュタール城

 ソウル達はカミラに連れられてシュタール城の城門前まで歩いてきた。


 見上げるほどに大きな漆黒の城。


 城門もシュタールの防壁に負けないぐらいに大きくてでかい。


 多分、これだけ大きいのはシュタールの扉と同じ。かつての王、始祖龍アルファディウスの通り道とするためか。


 そんな巨大な門も今となってはその役目を果たすことはなく、硬く閉ざされている。


 代わりに巨大な門とは別に人間用の小さな扉があり、そこに門を守るであろう兵士たちが出迎えた。


「カミラ様!おかえりなさいませ!」


「んー。ごくろーさん」


 コロコロと飴を転がすカミラに敬礼する兵士たち。


「ねー。あたいに敬礼はないのー?」


「……あ、いたのかポピー」


「いたのかじゃねー!!」


 一方。何の威厳も感じられないポピーに向けてはそんな冷たい対応を取る兵士たち。


 けれど、それは嫌っているからというよりも自分達の娘をおちょくるような、どこか愛のあるいじりなように見える。


 何やかんやで仲良くやっているんだろう。


「そちらの方は?」


 その中の1人がカミラの後に続くソウル達の方に目を向けながら問いかけてくる。


「んー?あぁ、これは僕の客人。ゼリルダ様に会わせに来たんだ」


 カミラは親指でこっちの方を指差しながら簡単にソウル達のことを説明してくれる。


「そ、そうですか。しかしそうなると……」


「そ。だから今日レイオスいる?」


「……残念ながら」


「うわー……マジかよー。めんどくさいなぁ」


 頭を抱えながらカミラがため息をつく。


「……なぁ。レイオスがいるとまずいのか?」


 そんなカミラの様子を見てソウルはポピーに小声で尋ねてみた。


「そーなの。レイオスが絡むと面倒くさいんだ。小言は多いし今これだけこの国がえらいことになってるのも、ほとんどあいつのせいだしねー」


 パタパタと耳元まで飛んできたポピーがソウルに耳打ちする。


「特に、ゼリルダ様のことになると。確か身寄りのないゼリルダ様をあの男が連れて来たから親代わりみたいなもんらしいけどさ。それでも会う相手をいちいち吟味したり監視みたいにしたりして……」


「マジか。そんなもん絶対めんどくせぇだろ。そんな風にされたらゼリルダだって嫌がるんじゃねぇのか?」


 そんな過保護にされればソウルなら腹が立って逃げ出したくなってしまう。


「それが、不思議なのよねー。ゼリルダ様ってレイオスの言うことだけはしっかり聞くんだ。他の人の話はほっっっとんど聞かないけど……」


「何と……」


 それは意外だな。俺なんか放任主義のシルヴァの言うことさえろくに聞いてこなかったと言うのに。


 いや、むしろ過保護が当たり前だったら言うことを聞くのが当たり前になるのか……?


「そー。あの男、たまーーーーに何も言わずにシュタールから数日いなくなることがあるんだ。半年ぐらい前とか2ヶ月くらい前も1回あったかな?だから、レイオスがいないうちにゼリルダ様んとこ行けたらラッキーだったけど……まぁ、仕方ない」


 はぁ、とため息をつきながらこちらの会話に入ってくるカミラ。


「だから、レイオスには黙ってゼリルダ様に会お。今ゼリルダ様は出かけてるみたいだから戻ってきたところを狙う」


「でも、それをレイオスが黙って見過ごすとは……」


「だからポピー。あんたがレイオスを足止めして」


「あたいが!?」


 突然白羽の矢を立てられて両手をあげながら体全体でリアクションをとるポピー。


「下手に勘繰られたくないし、ここだと目につくっしょ?とにかく城の中に入ろう。ソウルくん達もあんまレイオスに知られたくないみたいだしさー」


「まぁ……」


 こちらとしても今レイオスと顔を会わせたくない。


「………………」


 何せ、この城に来ることになって。そしてレイオスがこの国の摂政をやっていることを聞いてからシェリーが明らかに無言なのだ。


 妖精樹の大火。


 シェリーの故郷だったエルフの里を焼いた悪魔の作戦。


 それを決行したのはレイオスだ。つまり奴はシェリーの仇なのだ。


 下手に顔を会わせればそのままレイオスを斬り捨ててしまうかもしれない。


「エルフちゃんはこえーナー」


 こんなフィンの小言にも反応しないのがその証拠。


 それに、フィンも何やらレイオスと因縁があるようだしここはレイオスを回避するのに越したことはないはず。


 しかし、一体何故イーリスト国を亡命したレイオスがここで国の覇権を握るような立場にいるのか。


 分からないことも、不安なこともある。いずれ張本人のレイオスとも顔を合わせることにはなるだろう。


 だが、いずれにせよフィンと面識のあるゼリルダに会って協力を取り付けてからレイオスの説得にかかった方がいいはず。


「それでいいよな?」


「おゥ。とにかくオイラは早くゼリルダに会いたいゾ」


「じゃ、行こっか」


 どこかやる気なさげに告げるカミラの後に続き、ソウル達はシュタール城の中へと足を踏み入れることになった。


ーーーーーーー


 シュタール城の巨大な門を潜ると現れたのは巨大なエントランスホールだった。


 巨大すぎて天井は見上げるほど。いや、下手をすればこの城の半分以上はこのエントランスホールで終わってしまうかもしれない。


 中は外側の漆黒の城壁とは違って赤を主体とした金色の装飾を施された旗や絨毯で飾られている。


 その1番奥には巨大なステージだろうか?


 まるでオーケストラが何かの劇をできそうなほどの場所があった。


「昔はあそこに始祖龍アルファディウス様がいたらしいよ」


「そうなのか?」


 ポカンと口を開いたままのソウルにポピーが説明してくれる。


「そー。だからこのエントランス自体が言わばアルファディウス様の王室。んで、この上に王室で働く人達の部屋があったりしたみたい」


「すげぇなぁ」


 王室の左右に伸びる階段。それが城の上部へと繋がっているようだ。


 とんでもなく長い階段を前にして足が重くなる。


「ま、今はそんな巨大な王様もいないからねー。ここはただっ広いエントランスとして残って上がこのシュタール城本部ってわけ」


「……随分と変わった造りをしている」


 すると、ずっと黙っていたシェリーが口を開く。


「王は城の頂点……1番高いところに君臨するものでしょう?それが、自分の配下を上に住まわせ自分は1番階下で暮らすとは」


 確かに、言われてみればそうだ。イーリストもそうだし他の国や本の物語でも1番偉い人は1番高いところに暮らすと見たことがある。


 王としての威厳を示すため。王より上はいないと言うことを示すために。


「アルファディウスはそんな細かいこと、気にしなかったんダ」


 すると、反対側のフィンが告げる。


「地位や立場なんて気にしなイ。とにかく国の皆が幸せに暮らせるように……ってナ。だかラこの王城だってアルファディウスはいらなかったらしいガ国の皆がどうしてもと言うことでここで暮らしたらしいゾ」


「へぇ……」


 始祖龍なんて呼ばれてるもんだからどんだけヤバい奴なんだろうと思っていたが、すごいいい王だったんだろうか。


 しかし、フィンそんなことよく知ってたな。


「へー……あんた随分詳しいじゃない。あたいですらそんなの初めて知ったわよ」


 ポピーもびっくりしたように告げる。


「まーナ。伊達に竜人をやってないからナ」


 いつものように口をかっぴらきながら笑うフィン。


「うん。でもこの城は1回崩壊したらしいけどね」


「そうなのか?」


「そ。元は全然違う奴がこの城に住んでたらしくてね。そいつがここを攻められた時にぶっ壊されたみたい。そんでこの城を修繕する時にアルファディウス様が住めるようにってここを吹き抜けに作り直したって聞いた」


「なるほど……」


 確か……シュタール城って覇王が召喚魔法の実験をするために使っていたとニケが言っていた。


 そして、何者かに襲撃を受けたと言うことも。


 だとすれば色々と話が噛み合ってくるだろうか。


「ゼリルダ様はきっと王室に来るだろうから、王室で待ち構えてた方がいいかな」


「そーだけど。でもレイオスは多分そこにいると思うよー?」


「だからあんたの出番なんでしょ?ポピー」


「ええええ……またやんのぉ?」


 2人で進められていく話にソウルは首を傾げる。


「やる……?一体何をやるつもりなんだ?」


「あはは。そんな大したことじゃないよー」


 何やら不敵な笑みを浮かべるカミラ。絶対、なんかヤバいことやるつもりだろ、お前。


 かと言って、そんなことにソウルが口を挟めるはずもなく。苦笑いしながらそれを受け入れるしかないのだった。

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