黒断石の遺跡
シュタールの北東。
他のメンバーよりもやや遅れてシュタールに入った2人の獣人がいた。
「全く……いくらなんでもやりすぎですわ」
「知るか。俺に歯向かう奴らが悪い」
2人並んでやいやいと言い合いながら街を歩くアルとノエル。
アルの耳は彼女の怒りに反応してピンと立っており、ノエルの尻尾はげんなりと垂れ下がっていた。
シュタールの西側にたどり着いた2人は門番に【決闘】を申し込んだ。そして無事にそれを門番側も受け入れて戦闘が始まったのだが……。
「めちゃくちゃですわ……全身氷漬けにして。動けない彼らをボッコボコボッコボコ……」
ノエルは一瞬にして門番総勢5人を氷漬け。
降参と命乞いをする門番たちをこれでもかという程に叩きのめしたのだ。おかげで他の旅人達からもドン引きされる目で見られることとなってしまった。
「分かってます?私達今からこの街の城に潜入するんですわよ?ただでさえ人目を気にしなきゃならないのに、あれだけ暴れれば目立ってしまいますわ」
「うるせぇなぁ……」
ガミガミと怒るアルの小言を耳に指を突っ込んで無視を決め込むノエル。
「無事にシュタールに入れたんだから別にいいだろーが」
「よくありませんわよ!あなたの行動によっては色々まずいことになりますのよ!さっきみたいな勝手なことは許しません!」
「あー……はいはい。分かったからそうピーピーと喚くんじゃねーよ」
「その言い方では分かっておりませんわよね!?」
全く反省していなさそうなノエルにアルはまたイラっとする。
何故ノエルはいつもこうなのか……これでは1人の方がよかったのでは?とさえ思った。
そりゃ、全く知らない未知の街で誰かいてくれるのはありがたいと思った。けれど開始早々これでは先が思いやられる。
ノエルだって馬鹿じゃないことは知っている。だからこそ分からなかった。
「大体、なんであそこまで彼らをめちゃくちゃにしたんですの?」
いくらノエルでも意味もなくバカなことはやらないはず。
ノエルのあの行動には何か理由があったのでは?と勘繰ってみる。
「………………」
アルの問いかけにノエルの長いしっぽがビンと伸びる。
「………………お前に…関係……ない」
「あぁー!!何かあるんですわね!?そうなんですわね!?」
明らかな動揺を見せるノエルにアルは噛み付く。
「いいなさいー!!」
「し、知らん!おら、もうすぐそこだろ!?とっととフィンが言ってた場所に行くぞ!!」
「あ、コラー!!待ちなさいですわーー!!!」
アルから逃げるノエルをアルはプリプリと怒りながら追いかける。
理由を教えるだと?そんなもん、無理な相談だ!!
ノエルは心の中で悲鳴を上げる。
腹が立ったんだよ、畜生が。
あいつらが、【決闘】に負けたらアルを差し出せなんていうから……。
アルから逃げるようにしてノエルはフィンに指示された場所へと駆ける。
ちなみに、そんな2人はめっちゃくちゃ目立っているのだが、2人は全く気がついていない。
こんな調子で閑散とした街をしばらく走り進めていくと、やがて妙な場所へと辿り着いた。
「何だ……ここは?」
そこにあったのはシュタール城のように真っ黒な岩……恐らく黒断石で作られたであろう建物が立っていた。
6本左右対称に建てられた黒い柱。その向こう側には不気味に口を開く真っ黒な石の門。
その奥は真っ暗闇で何も見えないが、どうやら地下に繋がっている事は分かる。
それは見方によっては何か古びた遺跡のような、そんな様相をしている。
「随分前に……火事でもあったみたいですわね」
柱の根本を調べつつアルは言う。
真っ黒で分かりづらいが手で触れてみると黒断石とは別に黒いススのような物が指につく。
随分古いがどうやら燃えた跡のようだ。
「黒断石は無駄に頑丈だからな。火事になろうが何年経とうが、こうして残ってたってわけか」
フィンからここを告げられた時、もうその場所が無ければどうしようかと思ったが、黒断石なら長い時を経ても壊れることはないし破壊されることもないだろう。
そしてそんじょそこらの奴らには動かすことすらできない。故にこの建物は取り壊されることもなくこうしてここに放棄されていると言ったところか。
「でも……この黒断石を一体どうやってこんな建造物に加工したんでしょう?見たところ魔封石にしたわけでもなさそうですし」
「どうせヴィヴィアンみてぇな奴がいたんだろ」
ヴィヴィアンはこの黒断石を操る力を持っている。彼女と同じ力を持つ何者かがこれを作ったと見て間違いないとノエルは思う。
「でも……この黒断石って明らかに自然の産物ではありませんわよね?」
魔法を封じる力を持つ石。
こんな物が果たして自然にそう簡単に生まれるものだろうか?
それに、あの迷いの石窟は全てが黒断石だ。たくさん歩いたけれど黒断石ではない場所なんて1つも無かった。
正直そんなことなんてあるのだろうか?
まるで、誰かが意図的にあの石窟を作り上げたと考えた方が妥当な気がしてくる。
「……知らね。んなことは今どうでもいいだろ」
小難しい事を言われてもノエルには分からない。
「とにかく、俺達はこっから城の内部へと侵入する。それさえできりゃ他は何でもいい」
そんなどうでもいい話をする暇があるのなら、今は果たすべき事をするべきだろう。
「……それもそうですわね」
柱を調べていたアルはすくりと立ち上がるとそのお尻の砂埃をパンパンと払う。
「それでは……参りましょうか。ここからが本番ですわよ?」
「上等。こんなくだらねぇこととっとと終わらせちまうぞ」
こうして2人の獣人は不気味に口を開いた遺跡のような建造物の中へと入っていくのだった。




