居住区の戦い1
店を出てソウル達は居住区を歩いていた。
「レイオス……か」
「えぇ。私の故郷と、お父様を陥れた悪魔だ」
ビリビリと身をさくような殺気を放つシェリー。
無理もないだろう。レイオスはシェリーの仇も同然なのだから。
そして。
「レイオスめ。ゼリルダを自分の道具のように利用しやがっテ」
普段飄々としているフィンでさえその苛立ちを隠せないようだった。
「……そういやさ、フィン」
ずっと聞こうか悩んでいたが、ここいらが潮時だろう。
ソウルはずっと気になっていたことを尋ねてみた。
「お前、確かレイオスと因縁があるって言ってたけど……一体何があったんだよ。お前がそんなに怒るなんてよっぽどのことだったんじゃないか?」
「…………さぁてナ」
いつものようにおどけてみせるそのフィンの表情はいつもよりも固く、無理をしているように見えた。
「それに、ゼリルダもお前と一体どういう関係なんだよ。流石にそろそろ教えてくれても……」
「……それよりも、ソウル。構えなさい」
フィンに質問をするソウルに向けて突然シェリーがそんなことを言った。
「何だよいきな……」
シェリーの言葉を聞いて、ソウルもハッとなる。
ここはシュタールの居住区。人が住んでいる区画である。
寂れてはいるが、常にまばらに人が歩いていたのだ。そうだと言うのに。
見渡す限り、街中から人っ子1人いない状態になっていたのだ。
「あははー。いーじゃん、やっぱ多少はやるんじゃない?」
「……っ!?」
そんなソウル達に投げかけられる1つの声。
声の方に目を向けると街灯の上に立つ1人の人影があった。
褐色かかった肌に少し癖のついた金髪の……男だろうか。中性的な顔をしているのでどちらか分からないが胸がないように見えるから男だろう。
丸い赤黒の瞳が街灯の上からソウル達を見下すようにこちらに向けられていた。
「な、何だよお前は」
「あはは。僕はカミラっていうんだけどさー。君でしょ?北門のあの3人をボコってシュタールに入ってきた奴って」
「……っ」
「全く……だから目立つなと言ったんだ」
少し舌打ちしながらシェリーが呟く。
つまり……こいつはあの騒ぎを聞きつけてここに来た、3人の関係者ってことか。あの口ぶりからすると雇い主みたいな所だろうか。
「敵討ちに来たのか?」
「まさか。別にあんなバカ3人の事なんてどーでもいーし」
コロコロと口にくわえた飴を転がしながらカミラはピョンと街灯から飛び降りる。
「むしろ、評価してるんだ。あのバカたちは大して強くは無いけどずるがしこくてさ。卑劣なことも勘定にいれたら中々のものだったし。それを君は1人でなぎ倒して見せた。おもしろいなーって」
そしてカミラはその背中の金棒に手をやりじっとこちらを見据える。
「だから僕が直接確かめてやろうと思って。君が使える存在なのかを……さっ!!」
ゴッ!!
カミラの言葉と共に地面の石レンガが砕ける。
同時にカミラの姿は消え、その気配がソウルの背後へと回る。
「〜〜〜〜〜〜〜っ!?!?」
ブンッ!!
目で追えた訳じゃないが、咄嗟に身体が反応する。
身を屈めるとソウルの頭上をカミラの金棒が空振り、その風圧が髪を揺らした。
おい……今の、手加減も何も無い。本気でソウルを殺そうとした一撃だった。
その事実にソウルの全身からブワァッと冷や汗が溢れ出す。
突然現れて、試すとか言いながら俺を殺そうとしたのか!?
「へぇ……やっぱりただもんじゃなさそー」
「下がりなさい」
そこにシェリーが黄金の太刀を抜き、カミラに向けて振り抜く。
「あっはは。ちょっと邪魔だよ、僕はこいつと遊んでるのにさ」
ヒラリとのけぞるようにカミラは回避。そのままバク転するように後方に跳ぶ。
「ポピー。あの2人は任せた」
「んもぉ!!しょうがないなぁカミラは!!」
ソウル達の頭上から甲高い声が響く。
見上げると、そこには小さな羽の生えた生き物。
パタパタと忙しなく羽を動かす赤い髪をした一体の妖精の姿があった。
「な、何だお前……」
「お前じゃない!私はポピーだっ!!とにかくうるさい邪魔者は私達が相手してやる!!さぁ来なさい!!【風霊】に【展開】のマナ!【降臨】!!」
ポピーと名乗る妖精が甲高い声で詠唱する。
それと同時に彼女のポケットから小さなビー玉のような2つの球が放り出された。
ボンッ!
「ギャオオオオオオオオオオ!!!!!」
すると、その球体が弾け、閑散とした居住区に響き渡るような咆哮が響き渡る。
「な……!?」
ポピーが放り投げた球体から現れたのは2体のドラゴン。
流れるようなサファイアの青い鱗と燃えるようなルビーの赤い鱗が太陽の光を照り返し、輝きを放つ。
確か、ドラゴンの中でも上位種に分類される2種だったはず。それが一体どうやってここに?
「ほゥ……確かいたナ。空間を圧縮できる妖精の一族ガ。まさかそれをこんな風に使うとハ」
「へっへーん!ビビってるビビってる〜!!」
驚愕を浮かべるソウルの顔を見てケタケタと楽しそうにポピーは笑う。
「私は【北斗七帝】の1人!【陽光】こと【ドラゴンマスター】の異名を持つポピーちゃん!!」
「1番格下だけどねー」
「一言多いのよ!カミラ!!」
バサリと巨大な翼を広げて降り立つ2匹のドラゴン。
それは3人を分断するようにシェリーとフィンの前に立ち塞がる。
「そーそー。頼んだよポピー。邪魔が入らないようにねー」
「ったく……こんな事で呼び出して……ポピー使いが荒いんだから!!」
キーキーと甲高い文句を言うポピーを無視してカミラがソウルに向けて飛び込んでくる。
「……っ」
ズドドドドドドドドッ!!
そして嵐のように叩き込まれる金棒の殴打。
「さぁ、存分にかかっておいでよ。君が役に立つかどうか見極めてあげる」
まるで木の棒でも振り回すように軽々とカミラは金棒を振り回している。
「ぐ…ぁぁあ!?」
ソウルは黒剣で流れ込んでくる黒い鉄塊を受け流しながら悲鳴をあげた。
重い。一撃一撃が必殺の威力。
それも的確にソウルの急所を打ち砕かんと迫ってくる。
ふざけんな!金棒なんて物騒な物、こんな目にも止まらぬスピードで撃ち込んでいい物じゃないだろ!?
規格外な戦闘スタイルを持つカミラにソウルはただただ食らいつきながら黒剣を振る。
「へぇ……」
そんなソウルを見てカミラは心が躍る。
まさか、ここまで堪えるなんて……。その反射神経と技術に素直に感心した。
この剣。ただの剣じゃないな。
それと同時にソウルの握る黒剣の性能にも驚く。普通ここまで金棒を叩きつければ剣なんてあっという間に破壊されるのに、この剣は刃こぼれすらしていないときた。
こんな強力な剣を使うのだ。きっと魔法もこの剣を中心に展開するものに違いないと踏んだ。
「つくづく面白いなぁ。もっと力を見せてもらうね〜」
その力を試すには、こちらも武器に魔法を纏って攻撃するのがいいに違いない。
そう思いながらカミラはマナを金棒に集中させた。
「じょ…うとうだぁ!!」
カミラがマナを練り上げるのが分かる。
それに合わせてソウルもマナを練り上げる。
召喚魔法は……これだけ隙がなければ使えない。ならば!
「【鬼火】を【武装】!【黒炎鬼】!!」
「【炎神】を【武装召喚】!【アンク】!!」
互いの武器に炎が灯る。
カミラの金棒には真っ黒に燃える鬼火。
ソウルの黒剣には真っ赤に燃える炎神の炎。
「【撃滅】!!」
「【陥落】!!」
ゴッ!!!!!
そして2人はお互い相手に向けて渾身の一手を放った。




