証明する
夜が明けた後。
ソウル達は早速お互いの担当する街の区画の調査を始めることになった。
「それじゃ、気をつけて」
「おぅ。そっちもな」
相変わらず爽やかなイケメンレイにいつものように挨拶を交わす。
「……なぁ、シーナ」
そうして商業区の方へと歩き去ろうとする一行の1人にソウルはそっと声をかける。
「…………」
当のシーナは振り返りもせずただその場に立ち止まるだけ。
このまま無視して行ってしまうのではないかと言う不安があったが、それはなく立ち止まってくれた。
でも、振り返ってはくれないか……。
そんな板挟みの感情に苛まれつつもソウルはシーナに言葉を告げた。
「俺が……間違ってたよ。ごめん」
「……だから何?」
謝罪を伝える。けれど、シーナの反応は冷たいものだった。当然だと、そう思った。
『ごめん』だなんて、所詮口先だけのものなんだから。いくらでも言える。
ダゴンには言葉にしろと言われたけれど、それはただ軽いだけのような気がした。
そんなんじゃ俺の本当の想いは伝わらないし覚悟だって伝わらないだろう。
「……それだけなら、私行くから」
「……すぐに、許してくれなんて言わない。でも1つだけ分かってて欲しいことがあるんだ」
そのまま歩き去ろうとするシーナの背中にソウルは一晩考えていた事を言葉にして伝えた。
「俺……ほんとにお前を信頼してないわけじゃないんだ。俺が気がついてなかったんだ。でも…でもさ。思い返したんだ、シーナがこれまで俺にしてくれたこと……俺にとってシーナがどれだけ大きな存在だったのかってこと」
グッと、溢れてきそうな感情を抑えながらソウルは告げる。
こんな形で伝えるのはきっと違う。今シーナは俺の事を信頼できないだろうから。だから、俺が今やらなきゃならないことは、きっと1つ。
「だから……俺がシーナを信じてるってことを証明してみせる。いつまでかかったっていい、お前が俺の事を信じてくれるようになるその瞬間まで俺は頑張る。お前のこと、追いかけ続けるよ」
「………………」
ソウルの言葉を聞いたシーナは何も言わずにそのまま歩き去る。
でも、それでいい。シーナ、お前はこれまでずっと俺を追いかけてきてくれたよな。
イグの時も、シンセレスに渡った時も。そして今このシュタールにも。
お前のことを省みなかったこんなバカな俺を、ずっと追いかけてきてくれた。支えてくれたんだ。
だから、今度は俺の番だ。俺がシーナを追いかける番。
全てをかけて俺を支えてくれた彼女のために、俺が全霊をかけて応える番なんだ。そうじゃなきゃ、俺がシーナに何かを告げる資格なんてないのだから。
気がついた彼女への想いを胸に、ソウルは決意する。
だって、俺にはこれしかできないから。全力でぶつかることしか知らないから。例えそれで嫌われたってそれでもいい。
俺は、俺のやり方でシーナとしっかり向き合うんだ。
ーーーーーーー
「………………」
ソウルの言葉を背中に聞きながら、シーナの頬を雫が流れる。
その涙は寂しさなのか嬉しさなのか。シーナ自身にもよく分からなかった。
でも、1つだけ確かなこと。それはこの胸の中にある熱い気持ち。
どれだけのことがあっても、決して揺らぐことのないソウルへの想い。
見失いかけていたその熱い気持ちが、またシーナの心を支配する。
このまま、振り返ってソウルの胸の中に飛び込んで行きたい気持ちに駆られる。
でも、それはダメ。だって、ソウルは証明するって言ってくれた。そんな彼の言葉を無下にしてしまうと思ったから。
だから、私は待とう。信じて待とう。
きっと、ソウルは私としっかり向き合ってくれる。
私がこの想いを伝えるのは、きっとその時なんだ。
「……よしよし」
そんなシーナの側にエリオットがそっと歩み寄る。
「彼と……ちゃんと話せたのね?」
「……うん」
「よく、頑張ったね」
「うん」
曲がり角を曲がって、ソウル達からこちらが見えなくなった後。エリオットはギュッとシーナのことを抱きしめてくれた。
「後は、信じて待とう?あなたの信じたあの人なら、きっとあなたの想いに応えてくれる。きっと大丈夫だから」
「あり…がと……エリオット……」
シーナもそのままエリオットを抱きしめ返して声もなく静かに泣いた。
「……君の恋人は、すごいね」
「うん。エリオットは僕の誇りだから」
「…………」
エリオットの言葉が全てだった。
直接、話合わせるべきだったのだ。そうじゃなければお互い傷つけられずに、ただ重苦しい時間が過ぎるだけ。
お互い傷ついて、それでもまた互いの絆を深めるために歩み寄る。
きっと、エリオットにはそれが必要だったことが分かっていたんだろう。
「……僕には、恋愛は難しいのかも知れないなぁ」
「ははっ。それは僕もだよ。僕の相手がエリオットじゃなかったらきっと僕はうまくいってなかったから」
「それは惚気かい?」
「そうとも言うね」
「ははっ」
そんな軽口を言い合いながらレイとヴェンはまた街を歩き出す。
ザワザワと喧騒の賑やかな商店立ち並ぶ街の中。
眩しいほど輝く太陽が照らすシュタール商業区へと。




