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潜入開始

 明くる日。


 ソウル達はシュタールへと潜入するために別行動を開始する。


「そんじゃあ……」


 ソウル達がいるのは現在シュタールの南西側。


 ここでソウルとレイのチームは北上。ギドとアルのチームは南門側へと向かうこととなる。


「無茶すんなよ?」


「なーに。そんなことよりもおめーはおめーの心配をしてやがれ」


 そんなソウルの頭をギドはグリグリと鷲掴みにしてくる。


「とにかくなんかあった時にはおめーのいる宿屋に転がり込めばいーんだろ?」


「そうダ。あの宿屋はずっとあるハズ。だかラオイラ達はここを拠点にすル。何か必要になった時はここに集まって情報を共有するってことダ」


 フィンは自信満々に踏ん反り返りながら言ってるが、これはレイの策だ。それでもいいのか?とふと心でツッコミをいれる。


「でも……4年前の情報なんでしょ?その宿屋が潰れたりしてないって保証もないんじゃない?」


「大ジョーブ。あそこは人の往来が多いかラ、そう易々と潰れることはないはずダ」


 つまり、別々にシュタールに潜入するとして合流地点としてその宿屋を利用すると言うこと。


 場所も居住区と商業区のほぼ境目ぐらいにあるようだし、色々と動きやすいかもしれない。


「私達は産業区がメインですので……しばらくは産業区を調べて3日後にそちらへ合流することにしますね」


「僕達はすぐにその宿屋を目指すよ。何かあった時には少しでも人数が多い方が良いだろうからね」


 産業区メンバーであるモニカ、ギド、ライは産業区でしばらく過ごしてから合流。


 商業区メンバーのレイ、シーナ、ヴェン、エリオット、オデットはすぐにこの宿屋で合流することになった。


「それじゃ……また3日後会おーや」


「おぅ、気をつけてな」


 そう言ってソウルはギド達に手を振る。


「ソウル……くれぐれも気をつけてくださいですわ」


「アル……大丈夫だよ」


 心配そうに語りかけてくるアル。その耳は元気がない様にしょんぼりと項垂れている。


「はん。フィンがいるんだ、シン・ソウルが馬鹿なことをしない限りどうとでもなる」


 そんなアルの背後からノエルが殺気ごもった視線を向けながらそう告げる。


「あ、あはは……。そんなことよりもアル、お前の方こそ気をつけろよ?」


 けれど、自分のことよりもやっぱりこの2人のことが心配でならない。


「2人で城の内部まで忍び込むんだろ……?別に情報なんて二の次で構わねぇから。何かあったら安全第一で、すぐに逃げるんだぞ?」


「分かっておりますわ。何かあったらあの猫を囮に逃げます」


「ふざけんな、馬鹿兎」


 ノエルを雑に扱いながら、アルは少し表情に明るさが戻った様な気がした。


「ノエル」


「……あ?」


 そんなアルを見届けた後、ソウルはそっとノエルの方に歩み寄る。


 あからさまに嫌そうな表情を浮かべるが……それでもノエルに伝えておきたいことがあった。


「ありがとうな、アルについて行ってくれて」


「……別に、礼を言われることじゃねぇよ」


 ソウルの言葉が予想外だったのか、ノエルは一瞬驚いたような顔を浮かべたかと思うと、それを取り繕うようにまた不機嫌そうな顔をする。


「お前も、無理すんじゃねぇぞ?」


「気色わりぃんだよ。俺はお前が嫌いだって言ったろうが」


 そんなソウルの言葉にまた悪態をつくと、ノエルはぷいと向こう側を向いて歩き出してしまう。


「……おい、シン・ソウル」


 去り際にふと、ノエルは零すように呟く。



「アルは……任せろ。この命に替えても、アイツは俺が守る」



「……頼んだ」


 振り向きもしないノエルの背中にソウルはそんな言葉を託す。


「?何を話しておりましたの?」


「うるせぇ。黙ってろ、兎」


「ほんっっと!あなたって人は……!!」


 そんな2人の口喧嘩を少し遠巻きに見ながら、ソウルの不安が心無しか軽くなっていることにソウルは気がつくのだった。


ーーーーーーー


「それじゃあ、僕らも行くね」


 最後に、ソウル達はレイ達のチームを見送る。


「とは言っても……まぁすぐに目的の宿屋で合流することになると思うけどね」


「まぁ、そうだな」


 入る道は違えど、目的地は一緒なのだ。すぐにまた会えるだろう。


 そんなレイの爽やか笑顔を見つつ、ソウルはチラリとその後ろにいるシーナの方に目を向ける。


「…………」


 しかし……いや、やはりと言った方がいいか。


 彼女はそんなソウルの視線に気づいてか、ふいと向こう側を向いてしまった。


「……その、まぁ……何だ」


 ガシガシと頭をかきつつも、ソウルは何かの言葉を探そうと考える。


「……気をつけてな」


 けれど、ソウルのちっぽけな脳みそではうまい言葉は出てこないようで、結局そんな取り止めのないことしか言えなかった。


「ソウルの方こそ、気をつけてね。それじゃ、行ってくるよ」


「お、おぅ」


 いつもの相棒の言葉にもぎこちない返事を返しつつ、ソウルは手を振る。


 それを見計らっていた様にひょいっとオデットがソウルの方に顔を出してきた。


「それじゃ、ソウル兄!私も行ってくるね」


「あぁ。みんなのこと、頼んだぞ」


 そう言ってソウルはそっとオデットの頭に手を乗せようとした。


「……あ」


 あれか……確か、女の子の頭を撫で回すなって前オデットに言われたばかりか。

 

 そう思って手を引っ込めようとする。


「……ぶぅ」


「うお?」


 そんなソウルの手をオデットは捕まえると、それを彼女自身の頭の上に乗せた。


「『頑張れー』って、言ってよね」


「……ぷっ。何だよそれ」


 いじけたように膨れるオデットを見て、ソウルは思わず笑みが零れる。


 そういや、良くあったな。甘えたくても甘えられない時に、こんな意地っ張りな甘え方をすることが。


「よし、頑張ってこいよ!くれぐれも、無茶しすぎない程度にな!」


 ソウルはオデットの頭を撫でながら、笑顔で彼女を送り出す。


「えへへ。うん!頑張る!」


 それを受けたオデットも、くしゃっと笑顔になって頬を赤く染めた。



 


「…………」


 そんな光景を見て、自分でも気づかないうちに眉間にシワを寄せる少女のことには、ソウルは全く気が付かないのだった。

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