間章
金の龍の背中で彼は目を覚ました。
「……っ、奴らは……」
そこまで思考が回った時、また胸にズキリと痛みが走った。
「く……そ」
あの男……レイオスにかけられた呪い。
それは、この洞穴から出てきた者を「逃がした」と認識することで筆舌できない苦痛と共に死に至る業。
一時的に意識を持っていかれたからと言って目を覚ませば同じ。きっとアイツらはもうここを抜けてシュタールに行ってしまったに違いない。
レイオスのクズ野郎の思惑通り、俺達はここで死ぬしか……。
「待って!そんなすぐに諦めないでください!」
「け…ど……」
胸を抑える俺に駆け寄る衛生兵。
例え、助けがこようとも俺の呪いは……。
「あれ、見てください」
「……んぁ?」
衛生兵の彼女が指差す先を見てみると、そこには……。
「俺達は、お前達を死なせる訳にはいかねぇ!だからここから退散する!!」
洞穴の上の岩壁に、大きく掘られたそんな文字があった。
「な、んだよそりゃ……」
いや……いやいや、待てって。
状況から見て、絶対ここから抜けてっただろ?
流石にそんなので……。
そう思ったが、不思議と彼の胸の痛みが軽減するのを感じた。
「まさか……一体なんで?」
「この魔法……確か人の潜在意識に反応して発動する魔法だって聞きました」
傷の手当てをしながら衛生兵は告げる。
「だから……この残されたメッセージが事実がどうかは分かりませんけど、そこに疑いをもってしまえば呪いは発動し切らない……のかもしれません」
そうか……そういう事か。
この残し書きがある事で、奴らがここを通っていったということにいやでも疑念が残る。本当に彼らがこの穴の中に戻っていった可能性だって0じゃないのだから。
つまり、逃したという確信が揺らぐことになる。そうなれば呪いの発動条件も完全に満たされることなくやり過ごせると言うことか。
まさかこの呪いに、そんな回避方法があったなんて。
安堵と共に、その発想を打ち出したあいつらに驚きを隠せなかった。
余程、頭がキレる奴がいたのだろう。そして……。
「……ドルゴンは?」
「……残念、ながら」
俯く衛生兵の向こうに、布をかけられた何かが運ばれていくのが見えた。
ドワーフの戦士。
きっと、あのドルゴンが命を張ってこの呪いの仕組みを伝えたから……そのおかげで俺たちは助かったんだろう。
「……よし」
騎龍兵の彼はそっと立ち上がると傍らで目をつぶる自身の愛龍を撫でる。
「奴らは……洞穴に逃げ帰った。きっとそうだ。だから……だから、もう一度部隊を再展開するぞ……!」
自身に言い聞かせるように騎龍兵の彼は告げる。
「……グルル」
それに答える愛龍の声を聞きながらそっと空を仰いだ。
その瞳からは一筋の涙を流しながら。




