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ヴルガルド最初の戦い11

 硬い鱗を持つドラゴン。


 確かにその鎧はあらゆる攻撃を防ぎ、弾き返すだろう。


 だが、どれだけ硬い鎧を着ていたとしても、その衝撃までは殺せない。


 例えばハンマーなどの打撃武器であれば表面の鎧を貫通しなくても相手の身体の内部にダメージを与えることは可能。


 ソウルはそれを利用した。


 頭に叩き込む強烈な一撃。それはマスタードの脳を上下に揺らす。それに加えて更に叩き込んだ横薙の一撃は今度は左右に頭を揺らした。


 その結果。マスタードはあらゆる角度から脳を揺さぶられて激しい脳しんとうを起こしたのだ。


「おい……おい、どうしたマスタード!?」


 動揺する騎龍兵。


 その隙をソウルは逃さない。


 ジャキッ!


「……っ」


 ソウルは騎龍兵の喉元に剣を突き立てる。


 決着。


 騎龍兵の男は両手の銃を手放し、手を挙げる事しか出来ない。


「俺の勝ちだ」


 勝利を宣言しながらソウルは告げる。


「降伏してくれ。俺は別にあんたらを殺したい訳でもないし、この国を侵略したい訳でもないんだ」


 そう、ソウルは別に彼らを殺したいわけじゃない。ただ、ここを通してほしいだけだ。


 無駄に相手を傷つけるつもりはなかった。


「……はは」


 騎龍兵は脱力したように笑いながら、ソウルを見上げる。


 この男が言うことは本当だろう。何故か直感的に理解できた。


「……この国を支配する奴が……お前みてぇな奴だったらよかったな」


「え……?」


 騎龍兵の男がそう口にしたと思ったその時だった。



 ドクンッ



「ぐ…がはっ……」


 突然目の前の騎龍兵が胸を抑えて苦しみ出した。


「お、おい!?どうした!?」


「さわ…るなぁ!」


 すると、騎龍兵はソウルを払い除けながら叫ぶ。


「俺…たちは……来たくてここに……来たんじゃねぇ。奴に……あのクソ野郎に言われて……脅されてここに来た」


 騎龍兵の男が口を開く度、彼はガハッと血の塊を吐き出す。


「この…呪いを……たの…む。お前が……侵略者じゃないのなら……どうか……どうか…!」


 その直後。騎龍兵の背後に小さな影が舞い降りる。



 ゴッ!!



「くか……!?」


「な……!?」


 みると、それはモニカの操る小さな兵隊の1人。


 彼は騎龍兵の頭を殴り、意識を叩き飛ばした。


「も、モニカ!?こいつはもう戦意を無くしてた!なんて事を……」


「聞けやソウル!!」


 ソウルの言葉に反応したのはギドだった。


 その顔は溢れんばかりの感情を抑え込めず、今にもこめかみの血管がブチ切れそうな程に怒り、声を荒らげている。



「こいつら……何かの呪いをかけられてやがる!!」



「呪い……!?」



 ギドの口から発せられた言葉にソウルの背に冷たいものが走る。


「ぐ…がぁぁあ!!」


 見ると、すでにシェリーとフィンによって他の兵士たちも制圧されていたようだったが、その倒した敵兵の中から悶絶するような声を上げる者が現れ始めた。


 ある者は血の吐き出し、またある者は血の涙を流す。身体中が痙攣し、白目をむいて赤い泡を吹く者も。


「な…何……これ」


 その地獄絵図の光景に、ヴェンは思わず震え上がる。


「ヴェン……!ダメ、私の回復魔法も効かない!!」


 そばに横たわる兵士に回復魔法をかけるエリオットが泣きそうな声で言った。


「こいつらの意識を飛ばせ!」


 ギドは手当り次第に兵士を殴り倒しながら叫ぶ。


「で、でも……それで本当に呪いが消えるのか!?」


「そうじゃ……それでいい!!」


 ソウルが疑問をていしたその時、ギドの相手をしていたドワーフの男が叫んだ。



「ぐ…おおお……!」



「お、おいあんた……」


 苦しそうに胸を抑えるその男は血反吐を吐きながらそれでもなお語る。


「わしらは……奴に、あの男に呪いをかけられた……。家族や仲間を人質にとられての」


「はぁ!?」


 ドワーフの言葉にソウルは耳を疑う。


 家族を人質に呪いだって!?


「何で……何でそんなこと!?」


「や、めてください……それ以上は……!」


 すると、倒れる兵の中からそんな声が上がる。


「構わん……!わしは所詮、天涯孤独の身……この中で命失うのであればわし以外におらんじゃろう!」


 フラフラとソウル達の方へと歩み寄りながらドワーフの男は言った。


「これは……奴によってかけられた呪い……。この洞の中より現れし者を通したと……敵に降伏したと我らが意識したその時に発動し、その命を……狩る……。つまり、意識さえ手放せば……呪いはそこで、止まる」


 再びゴフッと血を吐き出しながらも尚、男は語る。


「何で……誰がそんなことを……」


「おい!もう良い!黙って意識飛ばしてろ!!」


 それを見たライはドワーフの頭を殴りつける。


 ズンッ!


「奴……イーリストより……亡命してきた……あの男……」


 それでも、ドワーフは意識を手放さない。いや、もう意識があるのかすらも分からなかった。


 目は虚ろで、目の前のソウルのことすらも映していない。



「奴…レイオスとか言う……あの男を……ど……。あの…ゼリ…ダ……さ…ま……」



 虚空を彷徨うドワーフの右手。


 それを、そっと小さな手が包み込んだ。



「……安心しロ。ゼリルダの事は、オイラが何とかしてやル。お前のその覚悟……絶対に無駄にはしなイ」



「お……おぉ……」


 どんどんと熱を失っていくドワーフの身体。


 そんな中、彼は理解した。


 あぁ……きっと、この方なら大丈夫だと。


 我が無念の思いを無駄にせずに、きっと応えてくれると。


「……トドメがいるカ?」


「……」


 ドワーフは穏やかに、力無く頷く。


 身体が腐り落ちるような激痛に、もう指1本だって動かせやしない。男は全て語った。それは呪いがもう止められないところまで進行させるトリガーとなっていた。


 もう、ここで意識を手放そうとも、もう手遅れだ。


 そんなドワーフの頭にフィンはそっと手をかざす。


 呪いは、その身に耐え難い苦痛を与えて死に至らしめる暗黒の魔法。長く苦しめる見せしめの意味もある。


 ありがたい。


 何から何まで……。



 バシュン!!



 ドワーフの身体に鋭い稲妻が走る。


 それはドワーフの脳髄を焼き、痛みを感じる間も無く一瞬でその命の灯火を消した。

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