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ヴルガルド最初の戦い10

 シェリーは空から落下してくる緑の龍を見つめていた。


「イッヒッヒ。しっかし、ソウルの言う通りお前も悪魔だナ」


 すると、そんなシェリーの横にスタリとフィンがジャンプしてくる。


「ドラゴンを討伐して来いなんテ……フツー思いつかんゾ。大体のやつは『皆でアイツを倒すぞ』ってなるはずなんだガ」


 イヒヒと、相変わらず悪趣味な笑みを浮かべるフィン。


「何を言う。私は決して悪魔などではない」


 サンダーバードを敵陣で大暴れさせながらシェリーは淡々と言った。



「ただ、できることをやれと言っただけ……私はいつだってできないことをさせたことはない」



 金の鱗を持つドラゴンに斬りかかる弟弟子を眺める。


 そうだ。私はできることしか言わない。


 あなたはどれだけ過酷な修行を与えても、決して途中で折れることなくやり遂げて見せた。そして何よりこの私をあの一瞬でも超えて見せた。


 あなたにならできるでしょう?さぁ、その金の龍を倒してみせなさい。


ーーーーーーー


「うがぁぁぁっ!」


「グルルル……!!」


 ソウルは目の前の金のドラゴンに高速で斬りかかっていた。


 ギギギギギィン!


 しかし、ソウルの攻撃は全て目の前の龍の鱗に弾き返されてしまう。


 ソウルが今武装召喚しているのはバステオスのアンク。攻撃力が高く、バステオスの【保有能力】である【防御破壊】が付与されているが。


「やっぱ、無理か」


 ドラゴンの鱗は言わば身体能力。あくまで【防御破壊】の効果は防御系の魔法への特攻。つまり、ドラゴンの鱗には適応されない。


「はっ、俺のマスタードの鱗は突破できねぇよ!とっとと諦めて投降するんだな!」


 すると、金のドラゴンにまたがる男がソウルに向けて告げる。


「断る!俺だって、やらなきゃならねえことがあるんだ!」


「……っ」


 ソウルのその言葉に騎龍兵の男の顔に影が落ちる。


 何だ?


 ソウルはその一瞬の変化に目が止まった。


「……なら、俺達を倒してみろよ。俺達だって好きでこうしてる訳じゃねぇんだ。こうしなきゃ……」


「ど、どうなるってんだ?」


「っ!グルァッ!」


 何かをこぼしそうになった騎龍兵に問いかけた瞬間、金のドラゴンがそれを阻むかのように咆哮をあげてソウルに襲いかかってきた。


「っとぉ!?」


 仰け反るような形でドラゴンの大あごを躱しつつ、ソウルは距離をとる。


「グルルル……」


「……そうだ。そうだったな、マスタード。俺達はもう止まれないんだったな」


 歯がゆそうな顔をしながら語る騎龍兵。


 彼らが何かを隠していることを察しながらもソウルはまた剣を構えた。


「何か事情があんのか!?できることなら協力する!だから話してみてくれよ!!」


「……っ、できねぇ!俺達は……話せねぇんだよ!!」


 ソウルの呼び掛けにも首を横に振る。


 どうやら話し合いで解決できることではないようだ。


「……なら、俺はお前達を倒す。とにかく、決着をつけてから話を聞かせてもらうぞ」


「はっ、できるものならやってみろ!!」


 強がるように騎龍兵は語る。だが、彼にも分かっていた。


 他の騎龍兵は皆やられた。


 残されたのは俺達だけ。


 多分、これは負け戦だろう。そうだとしても……俺は負けを認めてはいけないんだ。



 仲間のため……家族を守るために、俺達は最後まで戦い抜かなければならないんだ!!



「うおおおお!!【石銃】に【連撃】のマナ!【ガトリング岩】!!」



 すると、騎龍兵の両手に巨大な筒状の何かが顕現。それをガチャリと言う音と共にソウルの方へと向けた。



 ズドドドドドドドド!!!



 それは超速回転を開始し、筒から放たれるのは石の礫。


「く…おおおおおお!?!?」


 目にも止まらぬ速さで放たれるそれにソウルは思わず悲鳴を上げながら駆け出した。


「よし!俺はあいつを追い立てる!だからお前はそれを確実に撃ち抜け!」


「グルルル」


 キィィ……


「マジか……!」


 石の礫を必死に躱しながらソウルは冷や汗をかく。


 あの高速の石礫で隙を作り、その隙に俺をドラゴン・ブレスで倒す気だ。


 くそ、どーすんだよこんなの!?


 あの硬い鱗じゃ俺の攻撃なんて効きやしねぇし、遠距離攻撃も多分無駄撃ちに終わる。


 接近しよう物ならすぐに蜂の巣だ。


「ソウル!」


 逃げ腰になるソウルの背中に1つの声が投げかけられる。


 振り返ると、そこにはソウルをビシバシと鍛え上げて来たシェリーの姿があった。

 


「あなたならやれる。あなたの全霊を持って挑みなさい」



「……っ」


 シェリーのその言葉を聞いて、ソウルの体の震えが……そして、心の迷いが消えた。


 そうだ……思い出せ。何度だって俺は乗り越えて来たじゃないか。


 シェリーとの地獄の特訓の日々を思い出しながら心に喝を入れる。


 ……思い出したらストレスで少し胸が痛いけれど。


 あの日々に比べれば!こんなのどうだってことはない!



「うおおおおおおお!!!」


「何ぃ!?」


 騎龍兵は度肝を抜かされる。


 あろうことか、ソウルは石の嵐の中を突っ込んできたのだ。


 この……!蜂の巣にしてやる!!


 シュシュシュシュシュッ!!


「はぁ!?」


 ところが、ソウルはその身を最小限に逸らしながら叩き込まれる石の礫を回避していく。


 何故だ!?何かの魔法を使っているのか!?


 見える……!シェリーの攻撃に比べれば、こんなのどうってことはない!


 迫り来る魔法を回避しながらソウルは思った。


 焦るな……俺だって、死ぬほど特訓したんだ。


 きっと召喚魔法に頼るだけじゃなく、俺自身も多少は強くなったはず。


 これぐらい……できて当然だ!!



「うおらぁ!!」



 ソウルは石の嵐を超えて、もう目前まで迫っていた。


「く……マスタードぉ!!」


「バァァァッ!!」



 ゴッ!!



 そこにトドメと言わんばかりに刺す、マスタードの炎のブレス。それ確実にソウルに直撃する形で放たれる。



「させ……るかぁぁぁあ!!!」



 対するソウルは放たれるブレスに向けてアンクを振り抜く。



 ボッ!!!!



 ドラゴンのブレスはソウルの黒剣に斬り裂かれるように真っ二つに割れ、後方へと2方向に分かれてソウルの後ろへと流れていく。


「ぐ……おお!?」


 嘘だろ!?マスタードのドラゴン・ブレスを斬っただと!?


 マスタードの背にまたがる騎龍兵は目を疑うしかない。


 だが……そのせいでこの男は無防備そのもの。つまり、今なら俺の攻撃が通じるはず……!


「喰らえっ!!」


 すかさずその手に握る岩の銃でソウルを狙い撃ちした。



「【(スフィア)】のマナ!【メテオ】!!」



 その時。ソウルがすかさず魔法を放つ。


 すると、ソウルの黒剣から放たれる炎の球体。それは目の前のドラゴン・ブレスにぶつかり、そして……。



 バァァン!!



 爆裂した。


「くっ……!?」


 弾ける炎に騎龍兵の視界が封じられる。


 まさか……これを狙って……。


 だが、こんな灼熱の炎の中ではあいつもただでは済まないはず。


「そこだぁぁあっ!!」


 ところが、そこに響くソウルの咆哮。


 燃え上がる炎の中をソウルが突っ込んできたのだ。


 そんなことすれば丸焼きだぞ!?何であいつはそんなことをできるんだ!?


 ソウルはその身を闇のように真っ黒なマントで覆っている。


 闇属性が付与されたマント。これを見に纏えば灼熱の炎の影響を軽減することができる。


 その認識の違いを使ってソウルは金の龍の目の前へと飛び出した。


「う……おおおおおお!?」


 だが、慌てるな!俺のマスタードは金の鱗をもつドラゴン。その鱗の硬さは最強クラス。


 その防御を突破する術などこいつにあるはずがない!


「ふぅぅぅぅぅぅっ!!!」


 ソウルは大きく息を吸い込みながら力を込める。


 全身に力が行き渡るように。全てをこの剣に込めるように上段の構えを取った。



「くらぇっ!!【隕石陥落(メテオ・フォール)】!!!」



 ズドオッ!!



 叩き込まれる全てを破壊する一撃。ソウルは黒剣の峰の方をドラゴンに向け、それを頭に真っ直ぐに叩き込んだ。



 ゴィィン!!



 まるで鉄の塊を斬りつけたかのような鈍い音を上げる。


 ソウルの一撃を受けて、そのあまりの衝撃にドラゴンの意識がブラックアウトする。


 だが、それまで。ドラゴンで1番強固とされる金の鱗は、ソウルの最強の一撃ですら破ることはできなかった。



 勝った。



 騎龍兵は瞬間的にそう思った。


 そうだ。いつだってそうだ。


 誰もこのマスタードの鎧を穿てない。この圧倒的な防御の前に為す術なく焼かれて終わる。


 ここまで来た時にはヒヤッとしたが。それでもこいつにできるのはここまで。俺達の……俺達の勝ち……。



「まだ……終わってねぇぞ」



 その時。剣を振り切ったソウルの目がギラリと騎龍兵と金の龍、マスタードを睨む。


 そのソウルの迫力に騎龍兵とマスタードはゾッとした。


 【隕石陥落】の勢いを殺すことなく、ソウルはグルリと大きく体を回転。さらにその剣の勢いを乗せる。


 シェリーとの特訓で自分のボディイメージを強く持つことができるようになった。


 そこで身につけた新たな技。


 それをこの勢いに乗せて、的確な場所へぶっぱなす!



「【クレセント・ムーン】!!」



 ズシィン!!


 【隕石陥落(メテオ・フォール)】の勢いそのままに、ソウルの横薙の一撃がドラゴンのアゴを撃ち抜いた。


「……は…はは」


 その気迫に気圧された騎龍兵は思わず安堵の笑みをこぼす。


 な、なんだ。結局何も変わっていない。


 お前はドラゴンの鱗を突破できずに終わり。おどかしやがって……!


「よ、よし!マスタード!やれ……」


 騎龍兵がそう指示を飛ばそうとした、その時だった。



 ズズゥン……



「は……?え、何!?」


 マスタードが突然力無くその場に崩れ落ちた。

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