ドラゴンの鱗
アンダー・ロータスを出る前。
「いい?ヴルガルド国についたら確実にドラゴンと戦う時が来ると思うわ」
ソファに座る皆に教鞭をつけるようにオデットは得意げに語る。
「その上で、知っておかないといけないことがいくつかあるから必ず覚えること!いいわね!?」
「覚えることねぇ……別になんだっていいだろ。潰しゃいーんだよ潰しゃ」
そんなやる気満々のオデットとは対象的に欠伸をしているギド。
「そういう訳にもいかないのよ!相手によってこっちも対策を変えなきゃいけないんだから」
「対策を変える?」
はて、同じドラゴンなら同じような対策をとればいいのではないのだろうか?
「いい?ドラゴンはね、その鱗の色によってその強さとか性質が大きく変わるの」
そう言うと、オデットはテーブルに5枚の紙を広げた。
見たところ、それらは茶、緑、青、赤、黄の色をしている。
「まずは茶色。これは基本的なドラゴンの鱗の色ね。特に特徴はないけど生半可な攻撃ぐらいなら弾き返しちゃう程の硬さを持ってる」
なるほど。鱗ねぇ。まぁ、硬いことは予想できたけどここまでオデットが言うのだ。何か別の性質を持った奴がいるってことなんだろう。
「じゃあ他にはどんなのがいるんだ?」
「そこにあるだけの種類があるって聞いてるわ。緑のドラゴンは鱗の硬さは茶色よりも劣るんだけど、その代わり高い飛行能力と素早さ重視の強さを持ってる」
「ということは、逆に鱗が硬いやつもいるのか?」
「えぇ。それは黄色……実際には金色っぽくなるらしいけど。そいつは重厚な鱗と強力な力を持ったパワータイプのドラゴンらしいわ。その代償として飛行能力はほぼ無いらしいけど」
なるほど。速度と防御力に力を割いたドラゴンか。
そうなると、他のドラゴンはどんな力を持っているのだろう?
「それなら他の2匹はどうなんだい?」
ソウルの疑問をレイが先に口にする。
「そうね。赤と青の鱗のドラゴンはかなり珍しいらしいんだけど」
思い出すようにうーんと顎に指を当てながらオデットは語る。
「赤は、確か高いマナ伝導能力を持っているらしいわ。だから全身にマナを纏わせて戦うような、そんな攻撃的なタイプらしいわよ」
「んデ、最後の青の鱗は逆にマナを弾く力を持っていル。だから魔法に対する耐性が高いって訳ダ」
「ちょっ!?私の出番を取らないでよ!?」
オデットの最後の説明をドヤ顔で奪いながらフィンはイヒヒと笑う。
「まァ、緑と黄はそこそこいるが赤と青はそう居なイ。そいつはかなり手強いから、出た時は無理に戦わん方がいいかもナ」
「だーかーらー!それは私のセリフだってのー!!」
自身のセリフを取られたオデットはビシビシとフィンの頭を叩く。
「へぇ……それじゃあ、黒い鱗を持ってるゼリルダは一体どんな力を持っているの?」
すると、ヴェンがまるで生徒のように手を挙げながら質問する。
「ヴェン、かわいい♡」
ちなみに何故かその横でエリオットさんが何やらニヤニヤしている。
「え…と……それは……」
すると、その質問を受けたオデットが苦笑いする。
「分かんない……何せ、ただでさえ黒い鱗のドラゴンなんて聞いた事ないし……」
「黒の鱗はな、その全ての強さを兼ね備えた性質を持ってル」
すると、ソファでふんぞり返りながらフィンが告げる。
「全てを跳ね返す硬さ。自由自在に動ける軽さ。自身の力をフル活用できるマナ伝導力にマナによる攻撃を弾く反射力……その全てを持つって話だゾ」
「もー!!ほんっっと!いいとこ全部持ってかないでよ!!」
「す、すごいですね」
「えぇ……ヴルガルド国で王になるだけありますわね」
モニカとアルは感心したように呟く。
「そんだけじゃなイ。その力もマナも、普通のドラゴンに比べて何倍も強力ダ」
「とんでもねぇな……」
確かにその鱗だけでそれだけの力を持っていて、それに加えてさらに強力な力を持っているのなら誰もゼリルダに敵う訳がないだろう。
「だから、極力戦闘は避けて交渉できるといいね」
「そうだなぁ……頑張ってみるよ」
苦笑いしながらソウルはレイに笑いかける。
「ま、オイラがいれば交渉は大ジョーブだ!安心しロ!」
そんなソウルにフィンは満面の笑みでそう言ってくれた。
「……ん?」
「どうしたの?ソウル」
「……いや、何でもねぇ」
そういや……フィンって竜人だけど竜らしい鱗なんて見たことねぇな。
竜人ってそう言うもんなのかな?いや、でも竜人のゼリルダは【黒龍の女王】。黒い鱗を持ってるみてぇだし……。
「フィン、お前の鱗は何色なんだ?」
「ン?オイラは何の変哲もないしがないドラゴンダ」
「しがないドラゴンて……」
バシバシとオデットに叩かれていることを意にも返さずフィンはケラケラと笑っている。
まぁ、何の変哲もないってことは茶色い鱗なのかな?
別に、いいか。フィンはフィンだし。




