ヴルガルド最初な戦い3
金の鱗をしたそのドラゴンは四足歩行をしており、大きな頭と太い腕が特徴的。
その大きな口を開けて咆哮を轟かせる。
口からはナイフよりも鋭い白い牙がギラリと太陽の光を反射していた。
「あれが……」
「龍……」
チラリとフィンの方を一瞥してみる。竜人であるフィンはあまり龍らしいところはない。
鱗もなければ牙もない。せいぜい彼の龍らしい要素といえばあの翼とその魔法だけだ。
「流石ドラゴンです。どっかのエロチビとは大違いですね」
「おイ。それはオイラのことカ?」
悪態を吐くモニカにフィンがニヤニヤと笑いながら答える。
「随分と余裕じゃないか!えぇ!?進入者さんよぉ!!」
すると、ドラゴンの背中から男の声が響く。
あのドラゴンに乗っている兵士がいるらしい。
「おいおい、そんな焦るな。俺達が来たならもうこいつらは終わりなんだからよぉ!」
それとほぼ同時。バサリと大きな翼が空気をかぐ音が聞こえる。
崖の向こうから今度は大きな翼をたなびかせる緑の鱗を持った別の龍が現れた。
「いぃっ!?」
「……ドラゴンが、いっぱい」
それだけではない。さらに2匹のドラゴンが飛んだり崖を這ったりしてこちらにやってくるではないか。
金色の鱗を持った龍が1体。緑の龍が1匹と、茶色い鱗が2匹。
そしてそれぞれの龍の背中にはそれぞれが駆る龍と同じ色をした鎧で身を固めた兵士が乗っていた。
龍の背中に乗る騎士……これがマルコがかつて言っていた世界最強と噂される騎龍隊だろう。
「さぁて!お前らの命運もここまでだぜ!」
「俺らのドラゴンちゃんの餌になってもらおうかぁ!!」
龍の背中に乗る騎龍兵達は勝利を確信したように笑う。
確かに、相手は巨大な龍が4対と多数の屈強な兵士たち。明らかにソウル達が不利だろう。
だが、それでも負けられない。ソウル達にだって切り札はある。
「上等だ……!だったらこっちだって見せてや……」
「待ちなさい、ソウル」
「ぐぇっ!?」
ゴゴゴ……とマナを溜めようとしたソウルのマントをシェリーが突然引っ張った。
「な、何すんだよシェリー」
「ソウル。あなたは今召喚魔法を使おうとしましたね?」
「そ、そりゃ……あんなの相手するんだから当然だろ」
相手は龍。ドラゴンだ。
生物の中でも最強クラスの力を持つ化け物である。
当然こっちだって全力で立ち向かわなければ勝てるかどうかも分からないだろう。
「ソウル、ここで特訓をしましょう」
困惑するソウルに向けて、シェリーが突然そんなことを言い始めた。
「と、特訓!?何言ってんだよこんな時に!」
涼しい顔で語るシェリーにソウルは声を上げる。
いつも鬼教官なことは知ってるけど、こんなところで一体何を……?
すると、シェリーは1番デカい金色の鱗を持ったドラゴンを指差して言った。
「ソウル、あなたは召喚獣を展開せずにあのドラゴンを討ち取りなさい」
「……ワッツ?」
待って?待ってくださいシェリーさん!?あなた正気ですか!?
「待て待て待て!?召喚魔法無しでアレと戦えってのか!?」
「はい」
「はいじゃねぇ!?即答すんな!?」
何だ!?ついにシェリーさんは俺を殺す気なのか!?
「ならば、あなたはシュタールで複数の騎龍兵が襲ってきたらその都度召喚魔法を撃ち続けるつもりですか?」
「う……」
その言葉でシェリーが何を言いたいのか、ソウルはようやく理解できた。
「騎龍兵は敵のボスじゃない。一兵士だ。そんな相手にいちいち召喚魔法を使えばあなたはすぐに魔法の使えない役立たずになります」
「ひどい……」
役立たず……。
あまりの言い草にソウルは思わず半ベソをかく。だが、もっともな指摘でぐうの音も出ない。
「あのドラゴンを武装召喚のみで倒してみせなさい。それができなければそもそもシュタールであなたは死ぬ。その覚悟を持って挑みなさい」
「……厳しいなぁ」
でも、シェリーの言葉は分かった。確かにその通りだ。
「上等だ……!やってやる……!!」
「そのいきです」
「おらぁぁぁぁぁあ!潰してやらぁ!!!」
半ばヤケクソになりつつもソウルはシェリーの言葉を背に受けながら敵の金の龍に向かって駆け出した。




