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シェリーの容態

 ニケの宮殿。その客室。


 光り輝くベッドに横たわるハーフエルフの少女の枕元に彼はいた。


 その琥珀色の瞳は固く閉じられたままの少女の目をただ見つめる。


 ノーデンスとの戦いを終えて5日。


 定期的に治療魔法をかけながら、ようやくシェリーの容体は落ち着いた。


 けれど、受けたダメージは大きかったようでこうしてまだ療養しているというわけだ。


「……ソウル?」


 しばらく彼女の寝顔を眺めていると、そっとまぶたが開かれ深緑色の瞳がソウルのことを映す。


「あ……悪い。起こしちまったな」


「いえ。そんなことはない」


 まだおぼつかない様子でシェリーは身体を起こしてソウルに向き直る。


「見ていてくれたんですね。ご足労をかけてすみません」


「いや……気にしないでくれ」


 ソウルは首を小さく横に振りながら答えた。


「あなたの策でノーデンスを倒したと聞きました。よくやってくれました」


「そんなことねぇよ。もっとうまく立ち回れたんじゃねぇかって思うよ」


 シェリーはソウルに賞賛の言葉を送ってくれるけれど、ソウルは素直にそれを受け取れないでいた。


「俺が……もっとちゃんとしてたら、ニケは消えなかったかもしれない。それにシェリーだって……こんな、深い傷を負わせることなく勝てたんじゃねぇかって。まだまだ俺は……弱いよ」


 グッと自身の手を強く握りながらソウルは俯く。


 ノーデンスとの戦いで、確かに勝利を収めることはできた。けれど、失ったものも少なく無かった。


 ニケと……そしてアンダー・リグルの中にも多数の死傷者が出たらしい。


 結果的に勝利を収めることができたけれど素直に勝利を喜べないでいるソウルがいた。


 何かできたんじゃないか?皆を傷つけずに勝てる方法があったんじゃ?


「ソウル」


 そんな風に先を見失っているソウルの頬を、シェリーは優しく撫でる。


「あなたはそれでもやり遂げたんだ。だから前を向く義務がある」


「……」


「できることはあったかもしれない。けれど、人は過去には戻れない。これから先の事をやって行くしかないんだ」


「……厳しいな」


「えぇ。私は厳しいでしょう。それでもあなたはそれを乗り越えて強くなれる。私はそう確信している」


「……うん」


 姉弟子の言葉を聞いてソウルはそっと天を仰ぐ。


 シェリーの厳しさと、その奥にある期待と優しさを感じながら。目の奥から込み上げてきそうなどうしようもない感情を感じた。


 悔しい。俺の弱さが。


 それでも、いつまでもこうしてくよくよしていられない。まだやらなきゃならねぇことはたくさんあるんだから。


 立って、前に進まなきゃいけないんだ。


「ありがとう……シェリー」


「お礼を言われることなんてしていない。ただ私はあなたに道を示しただけです」


 シェリーは何でもないような様子でそう答えた。


ーーーーーーー


「なぁ……確かみんなの魔法が曲がってケリュネイアの首を撃ち抜いたんだよな」


 少し落ち着いた後、ソウルはシェリーにふと問いかけた。


「はい」


 シェリーの戦いの傷。


 何者かによって捻じ曲げられた味方の魔法がシェリーの召喚獣を襲ったと聞いている。


 まだシェリーの首には赤黒いアザが残されていた。


「一体……何があったんだよ?」


「分からない。私もノーデンスを抑えることで精一杯だったんだ」


 水に沈みそうな状況でノーデンスを抑え、逃さないように立ち回りつつ奴の水の鎧を剥ぎ取る。


 そんな器用な芸当をこなして見せたシェリーに回避の術はなかった。


 つまり、何者かがそのシェリーの隙の隙をついて罠を仕掛けたいうこと。


「なぁ、何か気づいたこととかないのか?例えば誰かのマナを感じたとか……どこからか怪しい気配を感じたとか」


「……」


 ソウルの問いかけにシェリーは考え込むような仕草を見せる。


「何でもいい。何か気になることがあれば、教えて欲しいんだ」


 仲間の中に裏切り者がいるかもしれない。


 でも、ソウルとしては信じたくなかった。


 なんとかしてその疑念を払拭したかったのだ。


 きっと何かの勘違いだ。だって、ここまで俺について来てくれたみんなが……まさか、そんなことないに決まっている。


「……いえ」


 しばらく思案した後、そっとシェリーは口を開く。


「私もよく分からなかった。突然気が付けばというような……そんな…感じ……ぐっ」


 すると、シェリーは苦しそうに胸を抱えてうずくまってしまう。


「わ、悪い!まだ本調子じゃないのに……もういいから!ゆっくり休んでてくれよ……!」


 苦しそうなシェリーを前にソウルはオロオロと狼狽えながらシェリーをそっと横にさせる。


「いえ……構いま…せん。それよりも……今後のことはどうなっているのですか?」


 まだ苦しそうにしているシェリーはソウルに問いかけてくる。


「あぁ。今後のことについてはこの後みんなと話すことになってる」


 アンダー・ロータスの復興もある程度の目処が着いてきたので、今日皆とシュタールに向けての話し合いを行う予定になっていた。


 その前にシェリーの容態を見て参加できそうなら……と思ってここに来たというのもある。


「そうですか……それは申し訳ないことをしました。わざわざこうして見てもらいに来たのに……」


 シェリーもそれを察したのだろう。申し訳なさそうにそう言った。


「そんなこと言うなって。ゆっくり休んでてくれよ。話し合いの方は俺に任せとけって」


 シェリーの布団を掛けながらソウルは自信満々に言う。


「話し合いなら俺が全部上手いことやってやるからさ!終わったらまた決まったことを言いに来る。だからゆっくり休んでてくれよ?」


 そう言いながらソウルはシェリーの病室を後にした。


「………………」


 ソウルが去った部屋の中でシェリーは光り輝く天井を眺める。



「……本当に、彼は大丈夫だろうか」



 自信満々に出ていったソウルの顔を思い出しながら、そんなことを呟くのだった。

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