凱旋
湖の中へと消えゆくノーデンス。
「た、倒した……」
氷のように冷たい湖の中からソウルは安堵の息を漏らす。
「う…うぶ……」
それもつかの間。ソウルの意識がグラりと揺れ、ブクブクと湖の中へと消えていきそうになる。
受けたダメージに追い討ちをかける氷のように冷たい水。それがたちまちソウルの体力を奪い取っていった。
「イッヒッヒ、やったゼソウル!」
そんなソウルの手を掴み、フィンはザバァとソウルを引っ張りあげてくれる。
「お、お前のお陰だ……フィン。お前の力が無けりゃ、あいつは倒せなかったろ」
「何言ってんダ。ソウルの作戦が無けりゃ間に合わなかっタ。それにみんなの与えたダメージのお陰でオイラの魔法も通じた。諸々含めてソウルのおかげだロ」
「フィンだって」
「ソウルダ」
お互いにお互いを賞賛。そして、互いに笑みがこぼれた。
「そんじゃあ、これは……」
「オイラ達、みんなの勝利ってことだナ」
そうだ。ついに倒したんだ。あの耐久力の馬鹿ならないノーデンスを。
これで、アンダー・リグル達の安全は確保され、そしてソウルたちもシュタールへの道を切り拓くことが出来たというわけだ。
「そんじゃあ……みんなの所に戻るか」
「そーだナ。勝利の凱旋ってやつダ」
そうしてソウルとフィンはアンダー・ロータスのみんなの所へと飛び立った。
ーーーーーーー
みんなの元へ降り立ったソウルとフィン。
そこにぐったりと項垂れたヴェンを連れたエリオットさんも合流。
ソウルとエリオットさんでみんなに回復魔法をかけながら回る。
「すまねぇ。俺達がもう少し早く来てれば……」
「ははは。いいよ、もしソウルがあそこでニケさんを守っていなかったら、あの時点で僕らは全滅してた。むしろ大活躍だったじゃないか」
レイを回復しながらソウルは言葉を交わす。
その間にレイからソウル達がいない間に何があったのかを簡単に聞いていた。
「シェリーはかなりの深手だったんだな」
「……うん。一体何が起こったのか分からないけど、明らかに誰かが何か仕向けた痕跡があったと思うよ」
エリオットさんに治療魔法をかけられてなお、シェリーはその瞳を硬く閉じたまま。
傷は塞がっているけれど、受けたダメージは大きかったのだろう。
誰が……一体、誰がこんなことを?
もしかして、仲間の中に誰か裏切り者がいるのか?それとも、何かの作戦が失敗して……いや、もしかするとこの洞窟にまた別の何者かがいるのか?
「……」
「……今はよそう。仲間同士で疑心暗鬼に陥って内側から瓦解するわけにもいかない」
複雑な表情を浮かべるソウルにレイは告げる。
「今は勝利を喜ぼう。懸念するべきことは増えたけど、こうして先に進むことができるようになったんだ」
「……そうだな」
シェリーに向けられた謎の魔法。
仲間の中に裏切り者が潜んでいるかもしれないという可能性。
考えたくもない。こうして信じてついてきてくれた仲間の中に、裏切り者がいるだなんて。
そんなことを思いながら、次の回復相手のところに向かうためにソウルが立ち上がった、その時だった。
「ソウル……!みなさん!!」
そこに飛び込んできたのは1人の獣人。
兎の耳を揺らすアルだった。
「アル……!お前今までどこに……」
「それよりも!みなさん、来てくださいですわ!!」
みんなの言葉を遮るようにアルは切迫した様相で叫ぶ。
「ニケさんが……ニケさんが……!!」