アンダー・ロータス防衛戦33
ソウルは【浮遊】の力でノーデンスへ突撃。その勢いのまま剣を振るう。
ブンッ
しかし、ノーデンスは機敏な動きでその攻撃を回避した。
「チッ……」
やっぱり、ノーデンスも【覇王の剣】の力に気づいてるのか。
召喚しているイザナギアには目もくれず、ただソウルが握る黒剣にだけ意識を集中しているようだ。
「なめんなよ……!【斬撃】のマナ!【残月】!」
ソウルがマナを送ると、イザナギアはノーデンスへと超速で接近。
まだまだ召喚獣を操りながらの戦闘は拙いが、相手がソウルにしか注意を払っていないというのならそれ程機敏な操作は必要ない。
そのままノーデンスへと風の力を帯びた斬撃を撃ち込んだ。
ザシュッ!
しかし、イザナギアの攻撃はノーデンスの水の鎧を撃ち砕くことはできない。
シュドドドドッ
「っ、とぉ!」
そこにノーデンスの水の小さな礫のような魔法が撃ち込まれる。
イザナギアを安全圏へと避難させつつソウルは身を捩ってそれを回避。
回避しきれない物は得意の闇のマントで受け流してやり過ごす。
ビリリッと、ソウルのマントが破れるがそうも言ってられない。
今度は回避のために不安定な体勢になったソウルにノーデンスは拳を叩き込んできた。
「……っ、【盾】のマナ!【トライデント・ウィール】!」
ミシィッ
ソウルは前方に水の盾を展開。ノーデンスの拳を受け止める。
しかし、その重い一撃を完全に受けきることは出来ない。勢いを殺しきれずにソウルは宙を吹き飛ばされた。
「ぐぁぁぁぁあ!?」
グルグルと回転しながら洞窟の壁へと叩きつけられる。
やべ…アバラが何本か折れた……?
血を吐き出しながらソウルはそんなことを思う。
けれど、ノーデンスはそんな隙など与えてはくれない。
今度は水の槍を生成し、ソウルに向けてそれを投擲した。
「マジか……!クソ!」
ソウルは迫る水槍に焦りつつも何とか【浮遊】で回避。
ドンッ!!
弾ける水槍。その破片がソウルの体に打ちつけた。
「ま…だまだぁ!」
ソウルはたまらず魔法を展開。
込めるマナは【トライデント】に【レーザー】のマナ。
「穿て!【トライデント・レイ】!!」
ファンッ
ノーデンスを囲むように展開する3つの光球。
それらから青い光の水撃が放たれた。
バシュシュシュッ!
さぁ、【覇王の剣】の魔獣特効効果を乗せた攻撃だ!その身に風穴あけやがれぇ!
バチチィン!
「……は?」
そんなソウルの意気込みも虚しく、【トライデント・レイ】は無情にもノーデンスの鎧の前に儚く散った。
「な、何で……」
待て……まさか、魔獣の特攻効果が乗るのって覇王の剣を使った攻撃だけか!?【武装召喚】全部の攻撃って訳じゃねーのかよ!?
【覇王の剣】ってぐらいだから、それぐらいの効果はあると思ったのに!?
唖然とするソウル。
そんなソウルを見てノーデンスは呆れる。
相変わらずふざけた男だ。その舐めた面ごとこの湖に沈めてくれるわ!
ゴッ!!
放たれるノーデンスの水槍。
「う、うおおおおおお!!【強撃】のマナァ!」
対するソウルは新たな魔法を展開。
「【トライデント・フォーク】!」
ソウルは水槍に向かってその黒剣を投げつけた。
ゴッ!!
魔法の勢いを乗せた剣は水槍を穿ち、ノーデンスへと迫る。
「ウォロロロロ!!」
ゴッ!!
たまらずノーデンスは身を捩らせてそれを回避。黒剣はノーデンスの後方に向かって飛んでいった。
バカめ!バカだとは思っていたが、そこまで愚鈍だったとは!!
「うお……!」
風穴を開けたとはいえ、ノーデンスの水槍は死んでいない。空中のソウルに向かって真っ直ぐに飛んでくる。
回避しきれねぇ……。なら!
ソウルは咄嗟にマントに身を包んで防御の姿勢を取る。風穴は開けた。直撃は避けられるはず。これでなんとか……しのいで……!
ズシャァァァア!!
「ぐがぁぁぁぁぁぁあ!?!?」
空中のソウルをノーデンスの一撃が貫いた。
ーーーーーーー
ノーデンスは笑う。
こいつらの希望は今ここで潰えた。
覇王様の剣も、虚空へと消えた。こいつらになす術はない。本当の終わり。
つまり、ノーデンスの勝利だ。
だが、ノーデンスは知らなかった。
ここにいる琥珀色の瞳の輝きがまだ死んでいないことを。
ここにいる誰よりも、負けず嫌いなその男が、最後の逆転の一手を隠しているというそのことを。
「……【音…速】の…マナ」
水槍を受けて、落下するソウル。その手は何かを掴まんとノーデンスの方に向けられていた。
馬鹿め。貴様に何ができる。最早覇王様の剣は無い。貴様の召喚獣も我に手出しは出来ぬ。
そんな状況で一体何が……。
そこまで考えた時、ふとノーデンスの頭に小さな疑問がよぎった。
こいつの召喚獣は……どこへ行った?
気づいた時には、もう遅かった。
何せ、イザナギアはソウル最速の召喚獣。
その彼に与えられた必殺の魔法。固有デバイス【音速】のマナで発動するその魔法は。
「行け……【風迅】」
ゴッ!!!
ノーデンスは防御なんてとれなかった。存在を認識した時には、もうイザナギアはノーデンスの懐に飛び込んでいたのだ。
お、落ち着け……!
例えどんなに速かろうと、所詮ただの【風属性】の力!我のこの鎧を貫くことなどできはしない。
所詮最後のあがき。こいつの剣撃を弾き、防ぎきった後にこいつも殴り落としてしまいだ!
だが、剣を振るうイザナギアの手を見たノーデンスは戦慄した。
「ウォ……!?」
イザナギアの手に握られていたのは先程の刀ではない。
それは、闇のように真っ黒な光沢をもつ剣。
召喚獣が持つには小さく、まるでナイフのようなその剣。
ソウルが投擲した、覇王の剣だった。
まさか……先程の攻撃は我を倒すためではなかったのか!?こいつの召喚獣に、覇王様の剣を渡すために放ったというのか!?
予想だにしないソウルの一手にノーデンスは完全に一手とられてしまった。
そうだ……!悔しいけど、俺の力じゃ覇王の剣の力があっても大したダメージなんか与えられない。
だったら、それをイザナギアへと渡す。
ガストの力……ポセイディアの力だけは俺が少しの間手放していても【武装召喚】の力は継続する。それはシェリーとの戦いで確認済み!
つまり、ポセイディアの武装召喚であれば、他の召喚獣に覇王の剣を持たせることができるのだ。
そして、イザナギアは他の召喚獣よりもやや小さな体躯をしている。辛うじて覇王の剣を握ることができた。
まさか……まさか、そんな方法があるだと!?
「いけえええ!シナツ!!そのふざけた魔獣を斬り捨てろおおおおおお!!!」
ザンッ!!
イザナギアの剣撃がノーデンスの水の鎧を穿ち、その身を斬り裂いた。




