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アンダー・ロータス防衛戦32

 ノーデンスが拳を打ち込むまさにその刹那。


 ザバッ!!


 ノーデンスの前に水中から何かが飛び出してくる。



「これ以上、好きにさせてやるか!!お前はここまでだ!ノーデンス!!!」



 ズン!!!!



 ノーデンスの拳を真っ向から受け止めるのは、黒いマントに身を包んだ少し小柄な召喚獣。


 顔には包帯を巻き、その隙間からは緑色の眼光が真っ直ぐにノーデンスを捉えていた。


 ミシミシ……


 ノーデンスの拳を受け止めるイザナギア。


 その傍らには、あの琥珀色の輝き。


 黒いマントに身を包む、覇王の剣を持った召喚術士がいた。


 ほう……生きていたか。


 素直にノーデンスは感心していた。


 だが、それがどうしたと思った。


 こいつに我を倒す術はない。それは先程の戦いではっきりしている。


 こいつよりも、獣の召喚術士の方が厄介だった。我が負けるはずはない。


 まさか……こいつがいるからこの雑魚どもはあれだけ湧き上がっていたのか?馬鹿馬鹿しい。こんな小さいザコに期待するなんて……。


 ノーデンスは余裕の笑みを浮かべつつ、再び拳を振り上げる。


 今更、こいつが来たところで我に敵いは……。



「……おい」



「……っ」


 その時。目の前のソウルがギロリとノーデンスを睨みつけた。


 こんな、小さな人間だ。しかも、我よりも絶対に弱いであろうザコだ。そんなことは分かっている。分かっているのに。



「てめぇがやったのかよ……これを」



 怒りの炎に燃えるソウルの瞳が、ノーデンスを威圧していた。


 ビリビリと肌がピリつくようなプレッシャー。


 何だ……この気迫は……何だその琥珀色の輝きは。


 まるで、どこかで見たことがあったような……ノーデンスはそんな既視感を覚えた。



 俺がやられている間に、みんなここまでボロボロになるぐらい戦ってくれていたのか。


 許せねぇ。こんなことになるまで動けなかった俺自身を。そして、ここまで仲間達を傷つけたこの目の前の魔獣を!!



「てめぇ……もう逃げられると思うなよ」



 チャキリ……と、黒剣を構えながらソウルは告げる。



「てめぇの命運はここまでだ。もう絶対お前を許しはしない。お前は俺が必ず倒してやる!!!」



 ゴッ!!!



 それと同時。ソウルはイザナギアの【保有能力(アビリティ)】の力を発動。


 【浮遊】の力でノーデンスへと肉薄した。


「……っ!」


 黒剣に灯るのは、何かの召喚獣の力……それは水の召喚獣か?


「ウォロロロロ!!」


 ノーデンスは堪らず防御の姿勢をとる。


 そう、防御の姿勢をとったのだ。


「……っ!」


 やっぱり、そうかよ!


 ソウルは自身の勘が当たっていたことを理解する。


ーーーーーーー


 ゴボゴボ……。


 地底湖の底で、互いに【鱗型水中眼鏡スケイル・ジュノーケイル】で息を保たせながらソウルとフィンはその身を起こす。


「よし……もう動けるな?」


 ソウルの問いかけにフィンはニヤリと口が張り裂けんばかりの笑みで返事した。


 よし、後は地上に戻ってみんなの元へ駆けつけるだけ。


 まだダメージが抜けきってはいないが、そんなことは言ってられない。一刻早くみんなの所へ戻らなければ……。


 そう思って水上に向かって泳ぎ出したその時。


 ゴボボォッ!


 こちらに向けて凄まじい勢いで泳いでくる影があった。


「ソウルさん!フィンさん!」


「人魚のネーチャンカ!」


「ゴボゴボッ!?」


 ソウルの口にハマっていた水中眼鏡を引っ張りあげながら、フィンがそんなことを言う。


 いきなりとるのやめろ!?息できんくなるだろが!?


「無事でよかった……!急いで来てください!ヴェンが……みんなが!」


「……っ」


 エリオットさんの焦りようから、戦況は逼迫しているのだろう。


 ソウルはすぐにエリオットから差し出された手をとる。


「イヒヒ。じゃあオイラはネーチャンの身体に抱きついテ……」


「私の身体を触っていいのはヴェンだけなので。触ったら消しますよ?」


「………………ハイ」


 ズゴゴゴ……と、鬼をも殺せてしまいそうな殺気を放つエリオットを前に流石のフィンも素直にガタガタと震え上がりながらエリオットの手を取る。


「じゃあ……行きます!」


 グン!!


 凄まじい勢いで、泳ぎ出すエリオット。


 みるみる水上がこちらの方に迫ってくるようだ。


「なァ。ソウル、水上に上がったら……」


 そう言いながらフィンは再びソウルに水中眼鏡を手渡す。


「あぁ、分かってる」


「しかし……オイラが言ったとはいえ、ちゃんと上手くいくか?その…【ハオーの剣】が、ほんとにノーデンスの水の膜を破れるのか……それができなきゃその作戦も無駄になっちまウ」


「……」


 俺の黒剣。【覇王の剣】。


 確かに、考えてみればそうじゃないか。


 この剣は、確か【覇王の三神器】の一角。その正体がただの業物の剣ってのは流石にしょぼいだろう。


 だって、同格の【魂縛の鎖】は魔獣や召還獣を操る力を持っているんだぞ?


 なら、考えてみよう。


 召喚魔法に固執してきた覇王が作り出した神器。


 その1つ、【魂縛の鎖】には【魔獣や召還獣を操る力がある】。


 じゃあ、この覇王の剣はどうか。


 さっき、他の攻撃は全て無力化してきたノーデンスの水の鎧を貫いて奴を斬りつけた。


 【覇王の剣】は覇王があらゆるものを打ち倒す覇者としての顔を持った神器。


 じゃあ、そのあらゆるものってのはなんだ?


 それは、覇王が固執してきた召喚魔法のことなんじゃないか?


 つまり、ソウルの予測はこの【覇王の剣】には召還獣……しいては同等の魔獣に対する特攻効果があるのではないかということ。


 しかし、そうなると過去にスルトやあのイマシュに対してこの剣は大した力を発揮した様子はないように思える。


 だが、今のソウルにはあの時と明らかに違う点が1つあった。【武装召喚】だ。


 つまり、【覇王の剣】に隠されたもう1つの能力。それはきっと【武装召喚発動中の召還獣や魔獣への特効効果】だ。


 それなら、この【覇王の剣】に武装召喚の適性がある事も頷けるだろう。


「とにかく、やってみるよ。それでダメならまた別の策を考えればいい。上手く行けばその時は任せたぜ?フィン」


 そう言ってソウルはフィンに向けて拳を突き出す。


「……?」


 けれど、フィンはソウルのその拳の意味を理解できないようで首を傾げている。

 

「おいおい、知らねぇのかよ。こうやってお前も拳を突き出せって」


 言われるがまま拳を突き出すフィン。そこにソウルは自身の拳を合わせた。

 


「……っ」


 

「信じられる仲間には、こうやって拳で互いの健闘を祈るんだよ。頼むぜ?フィン」



 ソウルの言葉を聞いて、フィンは少し照れくさそうに笑う。


 さぁ。もうすぐ水面。決戦の時だ。



「さぁ……行くぜ!天を駆ける疾風よ!その研ぎ澄まされた鋭い刃で敵を撃て!!【風神】のマナ!【イザナギア】!!」



 詠唱と同時に飛び出すソウルの風の召喚獣。


 それはソウルと共にこの戦いの最終局面へと顕現した。

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