アンダー・ロータス防衛戦28
「あ、ありがと……」
シャボン玉からはじき出されたオデットはブルブルと身を震わせながら礼を告げる。
ハロルドが来なかったら死ぬところだった。
流れる死の水飛沫を前に、自身の死が間近まで迫っていた事実に恐怖するしかない。
『いいよ。それよりも、ニケから伝言を預かってきたんだ』
再びシャボン玉を撃ち出しながらハロルドは告げる。
『もうすぐ、竜が目覚める。ヴィヴィアン、君になら分かるだろ?』
「っ!本当か!?」
それを聞いたヴィヴィアンは飛び上がるように立ち上がる。
「それは……もしかしてフィンのこと?」
竜というワードで思い当たるのは【竜人】の彼だけだ。
「あぁ。フィンが、本気になった」
ヴィヴィアンの瞳に、再び強い光が灯る。
彼が来てくれるなら……。我らのリーダーが本気になったのならば、きっとこの状況を打破してくれるはずだと、信じられるから。
『本気になったフィンは……誰よりも強い。彼が戻ってくるのなら、きっとあの化け物も何とかしてくれる』
ハロルドもコクリと強く頷きながら告げる。
「……ソウルも、きっと来てくれる」
湧き上がる皆に向けて、シーナがそっと口を開く。
「……一緒にいるフィンが来るなら、きっとソウルだって来てくれる。そして、この状況を全部ひっくり返してくれる」
『信じられないね。君たちのリーダーだか何だか知らないけど、召喚術士なんて信用できるはずがない』
シーナの言葉に一気に不機嫌になるハロルド。
「……ううん、絶対に来てくれる」
それでもなお、シーナは小さく首を横に振りながら答える。
「……みんながダメだ……って、諦めそうになった時だって、ソウルは絶対に諦めない。みんなを守るためにこれまで何度だって絶望を跳ね返してきたんだもん。だから」
「ウォロロロロロ!!」
言葉を交わすシーナたちに向けて振り下ろされるノーデンスの拳。
それを迎え撃つようにシーナは腰に携えた【名刀・銀鬼】にそっと手をかける。
ギィィィィン!!!
そして、ノーデンスの拳に一閃。巨大な拳を弾くようにして受け流した。
「だから、絶対に来てくれる。それまで私がみんなを守る」
『……っ』
確固たる意志を示すシーナにハロルドは身震いする。
何だ?何がここまでこの少女を駆り立てるんだ。
この少女は【破壊者】だろう?知っているぞ、一度この迷いの石窟にやって来た【破壊者】がいた。
そいつはまさに狂犬。際限なくこの石窟で暴れ回り、気が済んだらどこかへと去っていった。
あんなもの、人の手に付けられるものじゃないと思っていたが。何故この【破壊者】はここまであのソウルとかいう召喚術士に従うんだ?
「あはは。全く、ソウルが来てくれるんなら後は僕らのやることは1つだね」
「はい。こういう逆境にだけは強いですからね、あの人は」
「あー、もー!早く帰ってきなさいよ!ソウル兄のバカ!!」
「しゃーねぇ。もうちょいだけ面倒引き受けてやるかよ」
シーナだけじゃなかった。
彼女の言葉を聞いて、ソウルの仲間たちは再び立ち上がる。
そこには先程までの焦燥や、絶望などない。
彼らの目にはとても強い、希望の灯が宿っているようだった。
『な、何なんだ……』
『ふふふ。それは私達にも分かることかもしれませんよ?』
困惑するハロルドに、遠くからニケが語りかける。
『私達が、あの小さなリーダーに絶対の信頼を預けているように、彼らもきっとソウルさんを信じているんですよ』
『……』
『……どうです?これを機に、あなたもソウルさんと打ち解けてみては?』
『……うるさいよ、ニケ。僕の性格は君が1番よく分かってるだろ?』
クスクスと笑いながら告げるニケに、ハロルドはため息をつきながら答える。
『……でも、まぁ……あの化け物を倒して、そして僕達を救ってくれると言うのなら、考えてやってもいいかもしれないけどね』
『ふふふ。いいんじゃないですか?』
ニケの言葉に少し呆れつつ不思議と最初程の嫌悪感を感じていないことに驚きながら、ハロルドは再びモニカと共にノーデンスとの戦いへと舞戻った。




