間章
ビシィッ!
「く……!?」
ノーデンスと撃ち合っていたニケはその場に膝をつく。
『くそっ……!僕に力があれば……!』
崩れ落ちる彼女を見て、ハロルドは自身の無力さを呪った。
人形の身体に堕ちたハロルドは人間だった頃に比べて極端に使えるマナが弱くなった。
マナの回復も遅くなったし、力も1割も使えないときた。
今のハロルドにできることなんて、何もない。それは彼が一番理解していた。していたからこそ、歯がゆかった。
『ニケ……!もうやめてくれ!君が死んだら僕らは生きる理由が無くなる!これ以上は……』
ハロルドは懇願するようにニケに言った。
けれど、ニケは首を横に振りながら顔を上げる。
「いえ……ここで引く訳には行かないのです。それよりもハロルド、貴方にお願いがあります」
『な、何だい、こんな時に』
ニケはハロルドの顔を見ながら力強い声で言った。
「湖の底から……力の鼓動を感じるのです」
『湖の…底から……?』
「……っ!それって」
ニケの言葉にシーナは強く反応する。
「えぇ……フィンと…そして、ソウルさんだと思います」
『そうか……!そうだね!あのフィンがあんなにあっさりとやられるはずが無い!』
フィンはこのアンダー・ロータスの絶対的リーダー。
そんな彼がそう易々とやられるわけないだろう。
「えぇ。そして、彼は恐らく本気です。竜が目覚める……それを皆に伝えてきて欲しいのです」
『あ、あぁ!分かった、分かったけど……』
それでも、ハロルドはぬいぐるみの体。そんなに早く前線に行けるわけじゃない。
「……私が連れていく」
すると、シーナがヒョイとハロルドの体を持ち上げた。
『で、でも待ってくれニケ!僕は人形の体でろくに力も使えない!これじゃあ、足でまといだ!』
「……だったら、モニカの力を借りればいい」
シーナの腕の中でバタバタともがくハロルドにシーナは提案する。
「……あなた、多分巴さんとかあの小さな兵隊さん達と同じなんでしょ?モニカの力ならあなたの力を最大限引き出してくれると思う」
最初ここに来た時に、ハロルドを見て「ぬいぐるみが動いてる!?かわいい!?」と思った。それと同時に多分モニカの人形達と同じものなんだろうと何となく理解した。
だからこその提案。
彼らと同じなら、きっとモニカの魔法で戦えるようになるはず。
『……っ』
それは、全く考えてもいなかったようでハロルドは拍子抜けしたように身体の動きを止めた。
「【指導者】の力は本来ドミニカの一族に自身の身に宿る魂を分離させ、それを糧にドミニカ一族を強化する力。恐らくハロルドもその例に違わないでしょう」
『わ、分かった!じゃあシーナさん、お願い……』
「……うん、すぐ行くね」
ゴッ!!!
『う、うおわぁぁぁあ!?!?』
風のように走り出すシーナ。その風圧にたまらずハロルドは悲鳴をあげた。
や、やめてくれ……綿が……綿が漏れるぅぅぅぅ!?!?
そんな事を思いながら、ふとハロルドの頭に小さな疑問が過ぎった。
あれ……何でニケは自分でそれを言いに行かなかったんだ?
「……飛ぶよ、舌噛まないで」
『ぼ、僕に舌はな……うぎゃぉぁぁぁあ!?!?』
そんな小さな疑問はグンと飛び上がる圧に揉まれて消えていくのだった。




