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アンダー・ロータス防衛戦25

 彼女の心の奥深く。


「いいんですの?ケイン」


「……」


 彼女の力の起源。


 彼女の体に残された両親の心の欠片。


「あなたは、ビーストレイジを……サルヴァンを守るためにその身を悪魔に売った。それをあの子はまだ誤解しているんですわよ?」


 アルの母、ハルの想い。


 父親であるケインは、確かにビーストレイジを裏切った。けれどそれはサルヴァンを……そして引いてはビーストレイジを守るため。


 来るべき時に全てを解放するために、自ら泥を被ったのだ。


 そのケインの想いにアルは気がついてない。


 父は悪魔の化身だと。そう信じ込んだままだ。


「いいんだ、これで」


 けれど、それでもなおケインは……父は笑う。


「俺は、あの子に何1つだって父親らしいことはしてやれなかった。言い訳をするつもりもないし、あの子からの許しが欲しい訳でもない」


「ケイン……」


「ただ……幸せに生きて欲しい。あの子が前を向いて生きていけるのなら、俺の想いなどどうだっていい。俺とお前の愛の証があの子なのだから。あの子が立派に育ってくれるのならば、俺は嫌われたままでいいんだ」


 そう言って、力を解放させた娘を見てケインは満足気に笑う。


 そう、それでいい。俺の事など捨ておけ。


 お前はただ真っ直ぐに生きろ。俺とは違って自分の思い描く未来を掴み取るために戦え。


 お前になら、きっとそれが出来るはずだ。


ーーーーーーー


「ヒュルルルルルルル!?」


 燃える。


 私の身体が、燃えて崩れる。


 何故だ……?あの獣人は何なんだ!?


 名も無き魔獣は断末魔の悲鳴をあげながらボロボロと暗い湖の中に崩れ落ちていく。


 崩れる彼の目に映るのは、暗い洞窟に咲く炎の花。


 何故だろう……それが何かとても懐かしい気がした。


 いつの記憶なのか……そもそも魔獣になってからの記憶なのか。


 暖かい春の木漏れ日の中……愛しい女性と共に、この花を眺めていたことがあったような気がする。


 けれど、今の彼には共に桜を見る存在は居ない。あの暖かい木漏れ日も……もう無い。


 あぁ……私はここで死ぬのか。


 だが……それも、悪くは無いのかもしれないな。


 永劫のしがらみの中で、永遠の呪縛に縛られるぐらいなら。この心を揺らす景色を見て……あの人の事を思いながら……果てるのも。


 何かを思い出しそうになった彼は、そのまま暗い湖へと沈み、溶けるようにして消えていくのだった。


ーーーーーーー


「はぁ…はぁ……」


 燃えるような自身の右腕を下ろしながらアルはガクリと膝をつく。


 倒した……。


 そして、これが私の中に眠っていた力。


 新たな力。【桜火(おうか)】のマナ。


「……ふ…ふふ」


 力を解放して、アルは笑ってしまった。


 バカだと思った。確かに、この火の力はあの男の力だ。


 けれど、それを使うのはこの私。私の意志がしっかりしていれば、それが何かに流されることなんてないというのに。


 そんな簡単なことなのに、私は今の今まで気が付けないでいたのか。


「バカ……ですわね」


 シュウ……と、アルの右手に灯る炎が消える。


 それと同時に、アルはハッとなった。


「の、ノエル!」


 アルは慌てて倒れているノエルのそばへと駆け寄る。


 息が荒い。だが、致命傷ではない。


 アルは獣人の薬を取り出すとノエルの身体に塗り、治療を開始する。


「ぐ……」


「大丈夫ですか!?魔獣は倒しました、だからあなたはもうゆっくり休んでください!」


 すると、硬く目を閉じていたノエルがそっと瞳を開ける。


「んだよ……てめえか」


「こんな時にまでそんな口を……大人しくしてなさいですわ」


 相変わらずな口振りのノエルに少し呆れながらもアルはまた治療を始める。


「……力、上手く使えたかよ」


「……えぇ、不本意ながらあなたのお陰で」


「……そうか」


 そう言ってしばし沈黙。


 あぁ……やべ。血を流しすぎたな。


 ノエルの意識が少し朦朧としてきた。


「……なぁ、アル」


「なんです?何も言わなくていいから黙って……」



「お前の力……綺麗だったな」



「〜〜〜〜〜っ!?!?」


 あの、桜の様な炎。


 眩しかった。


 地下の世界しか知らないノエルだけれど、遠い昔に見たことがあったような気がする。


 かつて、まだ父と母が共に健在だった頃に3人で。


 そんな昔の記憶にノエルは思いを馳せた。



「お前の魔法……おれは好きだな」



「すっ!?すすすすす!?」


 続けざまに告げられるノエルの言葉。


 それは何故かアルの心を強く揺さぶった。




「サイテーですわぁ!?!?」




「うごぁ!?」


 激しく動揺したアルは、何故かノエルの頭にチョップを食らわせる。


 そしてそれを皮切りに風前の灯火だったノエルの意識は闇の向こうへと落ちていった。

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