アンダー・ロータス防衛戦24
アルの手から放たれるのは桜色に燃え上がる灼熱の炎。
それはまるで桜の花びらの様に舞い、魔獣へと迫る。
ゴッ!!!
「シュルルルルルル!?!?」
アルの炎は魔獣の水の膜を引き裂き、その本体に痛烈な痛みを与えた。
な…んだ?この力は?
突然のアルの覚醒に、魔獣は距離をとる。
桜色に燃える炎……何だ?あんな魔法見たことなどない。
未知の魔法に魔獣は警戒を強める。
だが、所詮火の魔法。きっと相性の悪い我が水の力と比べれば勝てるはずもないだろう。
もう一度、水の砲撃でお前を打ち倒してみせよう。
そこの氷の獣ごと、撃ち殺してやる!
キィィ……と、魔獣のタコのような口に青い光が灯る。
きっと、ノエルごと私を撃ち抜こうという魂胆なのだろう。
ピンチだというのに、それでもなお力を解放したアルの心は平静だった。
怖くない。
自身の力も、そしてあの魔獣も。
全てを解放したアルの心は太陽のように強く、そして自由に咲き乱れる花のように晴れやかだった。
「……行きますわよ」
込めるマナは、使い慣れた【短剣】のマナと、【斬撃】のマナ。
アルの右手に桜色の炎が収束し、1本のナイフを顕現させた。
「シュルルルルルル!!!!」
ゴッ!!!
放たれた水の強撃。
以前のアルなら、成す術もなかったであろうその一撃。
けれど、今は違う。
今なら、自分の力不足も何も感じない。あるのは自分への自信と、目指すべき未来のみ。
そのための道標は、この桜色の炎が導いてくれる。
「【桜火】に【短剣】と【斬撃】のマナ!【千本桜】!!」
ザンッ!!
魔獣の放った水の砲撃は、一閃。桜の炎に真っ二つに切り捨てられた。
魔獣は、状況を理解できなかった。
彼の一撃が……水の砲撃が、真正面から打ち破られたから。
しかも、得意な属性であるはずの【火属性】の力に。
いや……違う。あれは火属性だけの力じゃない?
魔獣は確かに見た。
自身の水撃を斬り裂いた兎の獣人。
その背後。彼女をそっと、見守るように立つ2人の存在を。
それは一体誰だったのか。魔獣には決して知る由もない。
アルは駆ける。
背中に何かの気配を感じながら。どこか、懐かしい気がしたけれど、それ以上のことはわからなかった。
ただ頭にあるのは目の前の魔獣を倒すだけ。
再びアルは自身の右手にマナを込める。
魔獣は逃れようと水中に潜ろうとするが、もう間に合わない。間に合わせはしない。
ここまできて、逃がすわけがなかった。
ドンッ!!
アルの地面を踏み締める足が爆発する。
それはアルの身体に推進力を与えて加速。
魔獣の元へ。殻を脱ぎ捨てたことで顕になった奴の頭部。
一眼でわかる、あれが奴の弱点だ。
そこに向けて、アルは全身全霊の一撃を叩き込んだ。
「【千本桜】!」
ザンッ!!
アルがナイフを振り抜くと、魔獣の身体が真っ二つに割れる。
そして、その断面は桜のような炎に包まれ、花吹雪のような火花を咲かせた。




