アンダー・ロータス防衛戦16
アンダー・ロータスは降り注ぐ攻撃を防ぎつつ、ノーデンスに向けて絶え間ない攻撃を仕掛ける。
「ロロロロロロロロロ!!」
「【水晶打撃】!」
ノーデンスの拳の連打に対してニケは複数の水晶の塊をぶつける。
ニケの放った水晶はノーデンスの拳を抉り、青黒い血潮を飛ばした。
ビシィッ
その代償として、ニケの水晶もまた砕け暗く冷たい湖の中へと沈んでいく。
「……っ」
「ニケ……!」
ガクリとニケは膝をつく。
けれど、ニケはまだ倒れなかった。
今、この状況でノーデンスへの有効打を持つのはニケだけ。つまり、私しかこいつを倒すことは出来ない。
ここで、私が負けることがこの戦いの敗北……即ちアンダー・リグル達の全滅を意味した。
「負け…られません……」
再び腕を振りあげながら、ニケはマナを送る。
「【水晶突撃】!」
水晶の槍がノーデンスの水の膜を貫き、奴の体に突き刺さる。
「ウォロォ……」
だが、それでもやはり魔獣。
それだけでは有効打にならずニケの槍をへし折りながら再び襲いかかってくる。
「やめるんだ、ニケ!こんな戦い方じゃ無駄死にするだけだ!」
ハロルドは泣きそうな声で告げるが、それでもニケは止まらない。
「ここで、負けられないのです!彼らを死なせることなんて、考えられません!!1人たりとも殺させはしない!あの化け物は私が討つのです!!」
半ば朦朧とした意識の中、ニケは叫ぶ。
砕ける自身の身体と走る激痛。
それでもニケは一心不乱に魔法を放ち続ける。
けれどノーデンスもうすうすと理解していた。
確かにこのアンダー・ロータスは脅威だ。
だが、長くはもたないであろうことは明白。このまましわじわと攻めていけば……。
ミシィッ
「う……!?」
ニケの右手がひび割れる。
その刹那。アンダー・ロータスの猛攻が一瞬止まった。
「ウォロロロロロロロロ!!!」
ノーデンスはその隙を逃さない。
ノーデンスの身の丈の倍はあろうかという巨大な魔法陣を作り出す。
そして魔法陣からアンダー・ロータスごと貫いてしまいそうなほど巨大な槍が展開された。
「……っ」
「デカすぎる!?」
誰かが動き出すよりも先にノーデンスはそれをニケに向けて放つ。
「させんゾ!」
そこに、小さな体をねじ込む影がひとつ。
「フィン!?」
「これ以上はさせン!やってみロ、でかぶつメ!!」
ノーデンスはそこに飛び出してきた影を見て笑いそうになった。
馬鹿め。こんな小さな身体で受け止めきれるものか。
後ろのアンダー・ロータス諸共叩き潰してくれる!!
ゴッ!!!!
「ぐ…おおおおおおおおおお!!!!」
巨大な水槍をフィンはその身1つで受け止める。
その背の翼をいっぱいに広げ、手に顕現させた龍の腕で真っ向から立ち向かった。
だが、そんなもの焼け石に水だ。みるみる押されてフィンの身体ごと水槍はニケへと迫る。
地上に立つものは揺れるアンダー・ロータスが災いして援護に回ることもできない。
「1人で無理すんな!馬鹿野郎!!」
辛うじて空中にいたソウルだけがフィンの元へと飛来。
「う…おおおお!?」
イザナギアの武装召喚をフル動員して水槍を押し返さんとする。
「ソウル……!右下から押し上げるように力を加えロ……!」
「み、右下ぁ!?」
ぐんぐん押されていく逆境の中。フィンは切迫した声で叫ぶ。
「説明はできン!だかラ、とにかくやってくれェ!」
どういう意図があるのかは分からない。だが、フィンのそれに賭けるしかないか……!
「うおぁぁぁぁぁぁぁあ!!【加速】のマナ!」
ソウルは右下から斬り上げるように黒剣を振り上げる。
「【龍電】に【拳】と【ーー】のマナ……」
すると、フィンもそれに合わせるように小さな声で何かのデバイス・マナを詠唱した。
「【風迅】!」
「【龍乃神拳】!」
2人で放つ攻撃はほぼ同時。
軌道を逸らすように右下から押し上げるように撃ち込む。
徐々に水槍は軌道を逸らしていくように見えるが……。
「ダメだ……!」
「たり…ナイ……!?」
確かに軌道は徐々にずれている。しかし、間に合わない。
もう真後ろまでニケの宮殿が迫っていた。
「万事休すカ……!?」
「諦めんな!」
珍しく弱音を吐くフィンにソウルは叫んだ。
「力を合わせるんだ!俺たちならきっとやれる!合わせろぉ!!」
「……っ」
ソウルの激励にフィンの折れかかった心が奮起する。
「上等……!死なば諸共、この身が爆ぜてでもやってやル……!」
「その意気だぁ!いくぞおおおお!!!」
ソウルとフィンは共に咆哮し、一身に水の槍を受け止める。
「フィン!!!」
「ソウル!!!」
ソウルとフィンの心は1つになる。
最後の一押しをノーデンスの水槍にくれてやった。
グンっ!
そして、ノーデンスの水槍は屋根を掠めながらも済んでのところでニケの宮殿を回避した。
「やった……!」
宮殿にいたハロルドは安堵の息を漏らす。
「……ダメ!」
だが、シーナは違った。
確かに軌道は逸らせたけれど、彼らはまだ水槍の渦中にいる。
水槍の勢いは確かに弱まったが、それでも強力な魔獣の力。その勢いのままソウルとフィンは吹き飛ばされる。
その先にはアンダー・ロータスの花弁。
「くそ……」
「ヤベェ……」
2人の力は水槍の軌道を逸らすだけで限界だった。
ドゴッ!!
「ぐ……」
「ガハッ……」
ソウルとフィンはそのままアンダー・ロータスの花弁へと力一杯叩きつけられてしまった。
花弁は無惨にも粉々に砕け、ソウルとフィンは空中に投げ出される。
「ぐ…おぉ……」
視界が真っ赤に染る。
その端の方ではフィンも壊れた人形のように力なく空中に脱力したまま放り出されていた。
まずい……何も……できねぇ……!?
グラりと揺れる意識の中、ソウルは目の前が酩酊する。
くそ……まだだ……!まだ、ここでやられる訳には……!
けれど、多大なダメージを負ったその身は言うことを聞かず、虚しく暗く冷たい湖の中へと落下していった。




