名刀・銀鬼
ノエルとアルが出て行った後、皆それぞれ部屋へと帰り休息をとっていた。
シーナもそれに漏れなくウトウトと眠たい目を擦りながら床につこうとしていた。
「シーナ?入るわよ」
すると、コンコンというノックと共に部屋の扉が開かれる。
「……オデット?」
そこには【魔法鞄】を持ったオデットがいた。
「ちょっといい?あんたの戦闘についてなんだけど」
「……う」
オデットの言葉にシーナは顔をひきつらせる。
そノーデンスとの戦い。はっきり言ってシーナは何もできなかった。
対人戦闘ならまだしも、あんな強大な力を持った魔獣が相手ではいくら【破壊者】の強靭な肉体をもってしても太刀打ちできはしない。下手に前に出ればみんなの足でまといになってしまう。
せいぜいみんなの援護や支援ができればいいのだけれど……いかんせん、シーナはこれまで最前線で戦った経験しかないから何をすればいいのかなんて分からなかったのだ。
「そ。【火聖剣】の力は強力だから、あんたの力が使えないとソウル兄が困んのよ」
【魔法鞄】を開いて中を探りながらオデットは告げる。
「……」
「……あんたと、ソウル兄に何があったかは知んないけど、やるべき事は見失わないでよね?」
「……分かってる。そんなことを言いに来たの?」
説教っぽく告げるオデットに少しムスッとしながらシーナは言い返す。
今は、ソウルのことを置いて頑張ろうとしてるんだから、ほっといてよ。
「違うわよ。ほら」
そんなシーナの反応を観察しながら、オデットは【魔法鞄】から取り出したそれをシーナに投げ渡す。
「……これは?」
オデットから渡されたのは刃渡り60cm程の刀。
「あんたの【朧村正】を直接見たわけじゃないから、多分正確な再現はできてないけど、そこは許してよ。名付けて【名刀・銀鬼】」
「……それ、私に対する当てつけ?」
銀の鬼……多分、私のことだ。
再びムスッと頬をふくらませながらシーナはオデットを睨む。
「まぁ細かいことはいいじゃない。私が作った【魔法道具】よ。地属性の力をふんだんに詰め込んで斬れ味よりも頑丈さを重視してる。だから刀と言うよりも金棒みたいなもんかもね」
なるほど、だから【名刀・銀鬼】……か。
いや、自分で作って名刀って……どれだけ自信家なんだろう。
オデットに渡された【名刀・銀鬼】を抜いてみながらシーナは心の奥でツッコミを入れる。
ギラリと輝く銀の刀身。それは朧村正のそれとは違って荒々しさ……暴れることを望むような、そんな輝きが秘められているような気がした。
「あんたの力で思いっ切り暴れても多分折れないから大丈夫。だから【朧村正】が使えない間はそれで何とかしなさいよ」
そう言い残してオデットは【魔法鞄】を持って部屋を出ようとする。
「……ま、待って!」
そんなオデットを慌ててシーナは呼び止めた。
「何よ。私、もう寝たいんだけど」
「……あの、ありがと。寝ないで作ってくれたんだよね?」
「〜〜〜っ!」
オデットの目の下にはくっきりとしたクマ。
みんなが休んでいた時間に作ってくれたんだろう。
「べっ、 別に!?あんたの為じゃないから!あんたがそんなんだとソウル兄が元気ないし!私達の目的のためなんだから!」
顔を真っ赤にして叫びながらオデットはシーナの部屋を飛び出す。
「……クス」
そんなオデットの背中を見送りながらシーナは思わず笑みを浮かべた。
そして、銀鬼を抜いて試し振りしてみる。
ブンっ!
「……凄くいい」
シーナの手に上手くフィットしているし、重さもしっくりくる。きっと、一生懸命作ってくれたんだろう。それはこの刀の出来を見れば分かる。
とても、とても嬉しかった。
これで、私も次の戦いで戦える。
そう思いながら、そっと刀を鞘にしまう。さて、今日はもう疲れたから身体を休めよう……と、そう思ってベッドの方に歩み寄った、その時だった。
ドン!!
「……っ!?」
突如として部屋全体を大きな揺れが襲った。