間章
彼は怒り猛っていた。
また逃したか。しかも今回は身の程知らずにも我らが王の剣を手にした愚者までもだ。
腹立たしい。ただでさえあいつにこんな地の底にいることを強要されたに飽き足らずこのような醜態……。
思い通りに行かない煩わしさと永きに渡り地下にいることを強要されたノーデンスの感情は爆発寸前だった。
けれど、ノーデンスはここを離れる訳にはいかない。
何せ地下の住人共の拠点が分からない。
仮にそれを探しにここを離れたとして、何人たりともここを通してはならぬと言われている。
奴らのアジトを探している間にここを抜けられてしまえば本末転倒だろう。
前にも後ろにもすすめないこの状況に、ノーデンスはまた苛立ちが募る。
せめて、奴らのアジトさえ分かればいい。奴らがここを抜ける前にアジトを潰す。それで全て丸く収まるというのに。
その時だった。
「ウォロ……?」
奴らが立てこもっていた小賢しいダークエルフの壁の裏。
そこに黒に支配されたこの洞窟には似合わない、白く光るものがあることに気がついた。
これは……小さな石版?
ノーデンスの攻撃を受けてなお、砕けることのなかったその石版を見る。
「……っ!」
そこに書かれていたのは地図。
ここから奴らのアジトに繋がる道と、簡単な指示書。
『奴らを潰せ』
と。
誰が……これを?
奴らの中の誰かか?いや、もしかするとこれは罠かもしれぬ。これを頼りに我をおびき出して袋叩きにするための。
一瞬の疑問が脳裏をよぎるが、その先の文字を読んでノーデンスの疑問は杞憂だということを理解した。
そうか……そういう事か。
奴らも一枚岩ではないということか。
暗く、影になった顔はそう思いながら笑った。
ならば、良いのだな?このまま一思いに奴らを叩き潰しても。
ズブズブと水の中へと沈みながらノーデンスは行動を開始する。
この長きに渡る虫どもを今こそ殲滅し、我は自由の身となろう。もう奴の言いなりになるのはうんざりだ。
そう心に近いながらノーデンスは暗く冷たい地底湖の中を泳ぎ始めた。