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ノーデンス偵察戦3

 戦線は膠着していた。


 8本の触手を盾にあらん限りの攻撃を放つノーデンス。


 対するソウル達はアンダー・リグル達の防御を盾に可能な限りの攻撃を放ち続けているが、お互いに決定打が出ないまま、1時間が経過しようとしていた。


「くそ、ダメだ!埒があかねぇ!!」


 ライが苛立ちのこもった声を上げる。


 結論を言えば、どうしようもなかった。


 時折危ない状況はあったにせよ、何とかやり越しながら戦闘を続けているがノーデンスは全然ダメージを負っていない。


 しかも、今回はノーデンスへの対抗策を見つけるための戦いだ。


 こちらも手の内を明かすわけにはいかないので本気の攻撃にも出れていないのでより一層戦線膠着に拍車をかけた。


 だが、状況がようやく動きつつあった。


 無尽蔵のマナを誇るノーデンスとは違いソウル達のマナは有限。


 ソウル達の戦闘の疲労が蓄積し、戦線維持が難しくなってきたのだ。


「はぁ…はぁ……。フィン」


「おォ。そろそろが潮時だナ」


 すると、息を切らせたヴィヴィアンがフィンに合図を送る。



「よーし、ヤローども!トンズラだ!!逃げるゾー!!」



 フィンからそんな声が上がる。


「い、いいのか?」


 敵を前に尻尾を巻いて逃げるのは少し抵抗があるが……。


「いーんダいーんダ。無理して死ぬ方がバカなんだかラ。人生は命あっての物種だからナ」


 まぁ、確かに本来これは偵察戦だから当然なんだけど。


 フィンの声を聞いた仲間達は一斉に退却に走る。



「ウ……」



 それとほぼ同時。





「ウォロオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!」





 突然ノーデンスがこれまでに無いほど激しい叫び声を上げた。



「な、何だ!?」


「み、耳が……!?」


 洞窟の空気が激しく振動する。


 耳をつん裂くようなとんでもない声。


 一体、何だというのだろうか。


「アー、こリャ気取られたナ」


「気取られた……?」


 イッヒッヒ、と笑いながらフィンは告げる。



「あァ。オイラ達がノーデンスとやり合うのはこれが初めてじゃ無イ。何回も何回もこーやってきたからナ」



「……うん?」


 えーと……?つまり、何度も何度もノーデンスにちょっかいをかけて?それでトンズラしてきたってことか?


「……ちなみに、これまで何回ぐらい攻撃をしかけた?」


「覚えとらン。少なくとも何十回は仕掛けてるゾ。奇襲、夜襲、何でもござれダ」


 へー。じゃあつまり?ノーデンスからすれば何度も何度も攻撃されて?いっつもいっつも逃げられてると?


「だかラ、何時ごろからカ逃げるそぶりを見せたラあんな風に怒り狂うよう二……」



 ズゴゴゴゴ……。



 そんな呑気に語るフィンの背後。


 ノーデンスはその剛腕と8本の触手を天に掲げてマナを溜めている。


 すると、その先に巨大な水の塊が、まばゆい光を放ちながら形成されていくではありませんか。



「んデ、いつもあいつの必殺技をぶち込まれるって寸法ダ」



「先に言えや!?クソッタレええええええええ!?!?!?」


 ソウル、フィン、シェリーは他のみんなよりも前線に出ていたこともあって最後尾。しんがりだ。


 つまり、1番ピンチである。


「ウォロロロロロロロロ!!!」


 そんなソウル達に狙いを絞ったのだろう。ノーデンスはソウル達3人に向けて巨大な青く発光する水を放つ。


 それは巨大な槍のようで、的確にソウル達目掛けて飛来する。



「イヒヒ!ホレ、逃げロー!!!」



「こんっのおおおおおおお!!!」



 全力疾走で元やって来た洞穴の中へと飛び込む。



 ズバァァァアン!!



 背後で水が炸裂する音が鳴る。


 間一髪。何とかうまく逃げ切れた。



「ソウル、まだです。構えなさい!」



 そんなソウルに向けてシェリーが切迫した声を上げる。


 振り返ってみてみると、炸裂したノーデンスの水が弾け、ソウル達の逃げ込んだ洞穴の中に流れ込んでくるところだった。



「あァ、あの水は生命体の身体を溶かす力を持ってル。だからあれに触れたらジ・エンドだゾ」



「だから!先に言えっつってんだろおおおおおお!!!」



 体勢を崩したままのソウルは半ば転がるように立ち上がるとマナを溜める。


 このままでは逃げるソウル達をノーデンスの水が追撃して全滅。


 だから、ここでみんなが逃げるまでの時間食い止めるしか無い。



「大海を束ねし海の神、その力をここに顕現させろ!【海神】のマナ【ポセイディア】!!」



 ソウルは咄嗟にポセイディアを召喚。


 続け様に【防御】のマナを練る。



「【トライデント・ウィール】!!」



 ポセイディアの三又槍(トライデント)が超速回転。そして水の盾を形成する。



 ボッ!!



 そして何とかノーデンスの水を受け止めるように盾を展開した。


「ぐ……!?」


 だが、思ったよりも水の質量が多い。魔法の強度云々よりその重みで盾がミシリと鈍い音を上げた。


「気張りなさい、ソウル!【水獣】のマナ、【ケルピー】!!」


 それを見てシェリーが咄嗟にフォローに入ってくれる。


「【盾】のマナ!【水鏡】!!」


 シェリーがポセイディアの水の盾に合わせるように防御魔法を展開。


 幾分ソウルへの負担も軽くはなったものの、やはり長くは持ちそうにない。


「ソウル!」


 それを見たヴェンがとっさにこちらに引き返そうとする。


「待て、行くんじゃない!」


 そんなヴェンの腕をヴィヴィアンが引っ張って止める。


「で、でもこのままじゃソウル達が……」


「安心しろ。あの2人にはフィンがついている。我々は彼らが逃げられるように一刻も早くここを抜けるのが先決だ!」


「う……!」


 逡巡するヴェン。


 確かにヴィヴィアンの言うことは分かる。


 けれど、彼が防御に加わればノーデンスの攻撃を防ぎきれるかもしれない。


「……っ!ヴェン!今は行ってくれぇ!!」


 そんなヴェンに気づいたソウルは声を上げる。



「お前らが逃げたら俺たちもうまくやるから!だから……行けええええ!!!」



「……っ!了解!!」



 ソウルの声を聞いたヴェンは走る。


 ソウルが……他でも無い彼がそう言うのなら、僕も信じるよ。ソウル!



「……無策ですね」


「そ、それはこれから考えるんだ……!」


 正直、今は仲間達を逃すことが先決。ソウルは自分のことなど何も考えていなかった。


 そんなソウルの頭の中はシェリーにはお見通しだったようだ。


「今はできうる限り時間を稼ぎましょう。そしてその後は……」


「とにかく、イザナギアを武装召喚するよ。それで一気に洞穴の中を2人抱えて飛んで逃げる。それしかない」


 マナを絞り出しながらソウルは今できそうなことを口に出してみる。


「イッヒッヒ。お前、やっぱり面白い奴だナソウル」


 すると、呑気に近くの岩に座って笑うフィンがそんなことを告げる。


「自分のことよりも先に仲間のことカ。いーナ、オイラは嫌いじゃなイ」


「あなたもさっさと逃げればどうですか?こんな所に残られても足手まといなのですが?」


「オー怖い怖い」


 そんなシェリーの圧を受けてもフィンは物怖じせずに相も変わらずイッヒッヒと笑う。



「だガ、安心しロ。オイラがいる限りお前達は無事ダ」



「何を根拠にそんな……」


「いーカ?とにかく可能な限り盾を貼り続けロ。限界になった後のことは全部オイラに任せナ」


 シェリーの言葉を無視して腕を組むフィンは自信満々にその場に座り込んでしまっている。


「……信用なりませんね」


「酷いエルフちゃんだナ」


 まぁ、シェリーの言いたいことは分かる。


 ここでフィンの言う通りにすると言うことは文字通りソウル達の命運を彼に預けると言うこと。


 仮に彼の心が本心だったとして本当に打開できるのかも分からない。


 分からないけれど……。


「……」


「……どうしますか?ソウル」


 ソウルはフィンの目を見つめる。


 何考えてるか分からない目ではあるけれど、その奥に光る決意は信じられるような気がした。


「よし、任せたぞフィン」


「おォ、流石ソウル!お前は話が分かるいー奴だナ!」


 パンパンと嬉しそうに膝を叩くフィン。


「……いいのですね」


 少し呆れたような顔をしながらもシェリーはソウルの選択を尊重してくれる。


「悪いな……」


「いい。どの道私はあなたの奴隷だ。あなたの選択に従おう。どうせ私はあなたと運命共同体なのだから」


 ふぅ……と、呼吸を整えた後。シェリーは覚悟を決めたように目を見開く。



「いきますよ。しっかり踏ん張りなさい!」



「上等!」



 押し寄せる水の圧力を受け止めながら、ソウルとシェリーは再び自身の召喚獣にマナを送った。

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