大事に思うこと。大切にすること
「なっなっなっなっ何を……何を根拠にそんなぁ!?」
「いえ……何というか、見ていて分かるというか……」
モニカは面白いぐらいに動揺するソウルを見上げながら苦笑いする。
「シーナと一緒にいるソウルさんはこう……どこか甘えているというんでしょうか?他の人とは態度が違うような気がするんですよね」
「そっ、そんなことはねぇよ!?ていうか、甘えてねぇし!?なんならむしろ俺の方がシーナの面倒を見てるというか!?」
ガクガクと膝が震える。
まるで隠し事がバレた子どものように。
けれど、当のソウル本人はそんな事に気づく余裕さえないようだ。
「あぁ……じゃあ本当に無意識だったんですね。天下の女ったらしソウルさんも、ついにここで陥落ですか」
「何だその不名誉な勲章は!?」
呆れたように告げるモニカにソウルはたまらず突っ込む。
「でも……ダメですよ、ソウルさん」
そんな冷静さを失ったソウルに向けて、モニカはズイと人指し指を向ける。まるで大人が子どもを諭すような、そんな仕草で。
実際は彼女の身長的に見上げる形になっているけれど。
「自分がシーナの面倒を見てやってるみたいな考え方、よくないです。確かにソウルさんはシーナを救うきっかけにはなってくれたんだと思いますし、実際ソウルさんの存在にシーナは救われているんでしょう。だけど、シーナはあなたの道具じゃありません」
「な、何だよ……そんなこと当然わかって……」
「本当にそうですか?」
すると、モニカはソウルの心を見透かすようにじっとソウルの顔を見た。
「心のどこかで思っていませんか?『シーナは必ず自分に着いてきてくれる』とか、『シーナは何があってもそばに居るんだ』って」
そんなわけないだろ。
ソウルは最初そう思った。
けれど、そのモニカの言葉を聞いて心に何かグサリと刺さったような気がした。
「……」
モニカの言葉を否定しようと口を開こうとしたが、その先の言葉を発することができない。
頭を派手に叩かれたような、そんな衝撃が身体に走った。
「……全く、男の人ってどうしてそうなんでしょうね」
そんなソウルの反応を見て、モニカは自身の想像が当たりだった事を理解する。
「どうして、そばにいる事を当たり前だって……そう思うんでしょうか。そばにいることの尊さを。どうしてそれを分かってくれないんでしょうね」
「モニカ……?」
そのモニカの言葉はソウルに向けられたものじゃないような気がした。
いや、ソウルにも向けられた言葉ではあるんだろうけれど。それを本当に伝えたい相手は別にいるんじゃないかと、そんな風に思った。
「とにかく。ソウルさんが本当にシーナの事を大切に想うのなら、もっとシーナの事を大切にしてあげてください。大切に思うことと大切にすることは違うんですよ。シーナがどれだけの想いと覚悟を持ってここにいるのか……その気持ちをもっと汲んであげてください」
そう言ってモニカは自身の部屋がある2階に向けて階段を登り始める。
「今のままじゃ、シーナがかわいそうじゃないですか」
その横顔は今にも泣き出しそうで、儚いようにソウルには見えた。
「……」
大切に……すること。
モニカの言葉を聞いて、ソウルはぐうの音も出なかった。
それはきっと、モニカの言葉が真実だからか。
じゃあ……じゃあ、俺は本当にシーナの事が……?
それと同時に、ソウルはこれまでのことを振り返ってみる。
確かに……いつからだっただろう。シーナが俺の隣にいることが当たり前になったのは。
いつも俺の想像を超える彼女を見て慌てたり、振り回されたり、迷惑をかけられたり。
そんなシーナのことを何とか支えてやらないと、と考えていた。
でも、実際はどうだ?
本当にそうか?
胸の奥がドクンと高鳴る。
振り回される一方で、俺は何度シーナに助けられた?
出会ってから……ずっとだ。
俺がシーナを助けているつもりだったけれど、本当は違ったんじゃないか?
ドランクールの時も、サルヴァンの時も。そしてイグとの戦いの時も、そして……シンセレスに渡ってからも。
シーナはずっと、俺のことを支えてくれた。
本当に俺が折れそうな時に、いつも俺のことを掬い上げて来てくれた。
いつからだろう。俺はそれを心のどこかで当たり前のことと思っていたんじゃないか?
いつでもどこでも、シーナは俺のことを追いかけて来てくれていた。
何で……何で今まで気が付かなかった?
どうして、シーナがいないことがこんなに苦しいことに気づけなかった?
こんなに助けてもらっていたのに、何が俺が支えてやってる……だ?
バカじゃないか、俺は。
俺は……俺は……!
「……っ!ま、待て待て」
そこまで考えてソウルは首を横に振る。
勘違いかもしれない。モニカに言われて動揺してるだけかもしれないだろ?
まだ……まだ早計だ!そんな俺がシーナのことを……す、すすす好きだなんて。
そ、そりゃあ確かにシーナへの態度は良くなかったと思うけど。
「と、とにかく……明日、話しかけてみるか……」
フゥ……と、呼吸を整えながらソウルは自身の部屋へと向かう。
レイの部屋を横切る時、すごく胸が騒いだけれどきっとこれは何かの気のせいだ。
「……くそ、何なんだよ」
シーナの声が、聞きたいと。
そんな考えが頭をよぎった気がしたのも、きっと、気のせいだ。




