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ドミニカと召喚魔法3

 この声は、聞こえる……と言うよりも心の中に語りかけてくるような、そんな感じを与えてくる。


「だ、誰だ?」


 ソウルはキョロキョロと部屋の中を見渡すけれど、そこにはニケとモニカの他に誰もいない。


 あるのは部屋の中に飾られたクリスタルの装飾品や花、あとはテーブルに広げられたカップ達と、ソファに座っているどこか古びたクマのぬいぐるみぐらい……。


「……え?」


「そう、よく分かったね。流石は召喚術士だ」


 すると、ニケの隣に置かれた……いや、座っていたクマのぬいぐるみがグリンとこちらを向く。


 間違いない……こいつだ。


「お前……まさか」


「そうだよ。僕もドミニカの一族の1人……かつて覇王にこの身を貶められた哀れな被験体の1人さ」


 そう言ってクマのぬいぐるみはじっとソウルの顔を覗き込むように語る。


 その様子はジェントルマンというのがしっくりくるだろうか。けれど、それをやっているのは愛くるしいクマのぬいぐるみ。


 はっきり言ってかなりミスマッチだ。


「彼はハロルド。私と同じくかつてシュタール城でその魂を抜かれ、この人形の身体に閉じ込められたドミニカの一族の者です」


「やぁ、初めましてモニカちゃん。同じ一族の末裔である君と出会えたこと、とても嬉しく思うよ」


 そう言ってクマのぬいぐるみハロルドはモニカに自己紹介をする。


「こ、こちらこそ初めまして……!びっくりしました。まさか巴達以外にも動く人形さん達がいただなんて!」


「確かに……俺も初めまして、ハロルド」


 目を輝かせるモニカの隣でソウルはハロルドに自己紹介をする。


「……」


 しかし、ハロルドはソウルの呼びかけに答えようとしない。


「え?」


 ハロルドはモニカの時とは違って明らかにソウル軽蔑するような、そんな雰囲気を滲み出してくる。


「ハロルド、いけませんよ。ソウルさんは……」


「僕も聞いていたよ。ノーデンス討伐の為に協力してくれるんだろ?だけどね、僕は召喚術士なんて嫌いだ。馴れ合うつもりなんてない」


 ニケとは違い、ハロルドは何故かソウルに対して敵意を隠そうともしない。


 明確にソウルを毛嫌いしているようだった。


「な、何でそんなに俺のことを毛嫌いするんだよ……。俺なんかお前の気に触ること言ったか?」


「いや。そう言うことじゃない。僕はただ召喚術士という存在が憎い。君もその力を引き継ぐ者なのだから、当然僕も君が憎いと言うわけさ」


「ハロルド……!」


 あんまりな言い方をするハロルドにニケは怒ったように告げる。


「君だって、そうだろう?ニケ。こんな力のために僕達は踏み躙られて、こんな身体に身を堕とされたんだから」


「こんな力って……それって、召喚魔法のことか?」


 ハロルドの話を聞く限り、どうもソウルがと言うよりもソウルの持つ召喚魔法の力を毛嫌いしているという方が正しいようだ。


「なぁ、教えてくれ。一体何があったってんだよ?召喚魔法とお前たちドミニカの一族には一体どんな因縁があるんだよ」


 ソウルはハロルドとニケに向けて問いかける。


「ふん。何で君なんかにそんなことを言わなきゃならない?君のくだらない知識欲のためなんかに僕の言葉なんか貸してやるもんか」


 すると、ハロルドはその小さな身体をピョイと翻し、トコトコと部屋から出て行こうとする。


「ハロルド……!ソウルさん達に真実を伝えると決めたでしょう!?」


「ごめんニケ。やっぱり僕にはできないよ。本当は分かってるつもりなんだ、この彼が悪くないってことぐらい。でも、やっぱり許せないんだよ。僕を……ひいては僕の家族をあんな目に合わせた奴のことを、そしてそれを導いた召喚魔法のことを」


 ハロルドはその小さな肩を震わせるように扉の前に立ち尽くしていた。


 その背中からは悲しみ、怒り、苦しみといった負の感情が溢れ出さんとしているようにソウルの目には見えた。


「安心しておくれ。別に君達の命を奪おうとなんてことは考えてやいない。ただ、やっぱり確かめたかったんだよ。僕の心を縛る呪いを……そしてそれは1000年の時が経ったとしても色褪せることなく僕の心に刻まれているんだっていうことをね」


 そう言ってハロルドはソウル達を残して1人部屋を出て行ってしまう。


 バタン……と、小さな音を立てて閉められた扉の音だけが虚しく部屋の中に響くのだった。

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