ドミニカと召喚魔法1
フィンを2人でボコした後。
ニケの計らいでソウル達はこの宮殿の中に泊めてもらえることになった。
元々質素な孤児院暮らし。放浪の身。素朴な一人暮らしと、平凡な暮らしをしてきたはずのソウルだったが、聖剣騎士団の部屋やシンセレスで寝泊まりした宿。ここ最近はこういう豪華なものにもなれてきた。
ソウル達が過ごすことになる場所は、大きな大広間が1つ。そしてそこからいくつもの部屋が並んだような空間。
まるで宿屋を丸々1つ貸してもらえたような感じだった。
トロッコでの疲れもあり、皆それぞれ風呂に入ったり早めに部屋に入ったりなど思い思いの形で旅の疲れを癒している。
「さて……」
そんな中、ソウルはコソコソと寝泊まりする部屋を抜け出していた。
いや、別に人目を忍ぶ必要はないんだけど……。
それでも、召喚魔法を持った者として、知っておかなければならないと思ったから。
楽しい話でもないだろうからこうしてソウル1人で抜け出して来た訳なのだ。
「ソウルさん」
「うひっ!?」
そんなソウルの背中に1つの声が投げかけられる。
「も、モニカ!?」
すると、そこには茶色い髪の少女がソウルを見上げていた。
いつもはおさげに括られた髪が、今は真っ直ぐに下ろされている。若干濡れている様子を見るに、風呂上がりか何かなのだろう。
「どこに行くんです?」
怪しげな動きをするソウルに向けてモニカが問いかけてくる。
「い、いやぁ……別に大した用事じゃ……」
何となく気まずくてソウルはぎこちない返事を返す。けれど、モニカは少し呆れたような口調で言った。
「ニケさんの所に、行くんですよね?」
「うぐ……」
そう、正解。
ソウルはニケの所に足を運ぼうと思っていた。
ニケの言葉。
『まさかこのドミニカ一族にとって呪われた石窟に、ドミニカの末裔と召喚術士が一緒に現れるなんて』
あの言葉を聞く限り、彼女はドミニカと召喚魔法にまつわる何かを知っている可能性が高いだろう。
一体ドミニカとその召喚魔法の間に一体何があったというのか、それを聞きに行こうと思っていたのだ。
「私も行きますよ、ソウルさん」
「で、でも……」
聞く所によれば、その歴史はドミニカにとっては負の歴史。
モニカにとって辛い歴史になるかも知れない。そんなところにモニカを連れて行くのは気が引けてしまう。
「ソウルさんが召喚術士として行くのなら、私だってドミニカの……いえ、人形さん達と人々を繋ぐ者として知っておかなければならないかもしれないことです」
けれど、そんなソウルの心配も露知らず、モニカは凛とした態度でそう告げる。
ソウルが自身の召喚魔法の力に責任を持つように、モニカも自身の力のこと……そしてその一族の歴史のことを知る義務があると。そう考えていたのだ。
「モニカ……」
そんなモニカを見て、ソウルはすごく恥ずかしく思った。
モニカは自分の立場を理解した上で、それでもなおドミニカの一族の末裔として歴史に向き合うことを選んだ。
彼女の強さを、ソウルはどこか軽んじていたのかもしれない。
「……そうだな、悪い。だったら一緒に行こうか」
「はい。よろしくお願いします」
己の無知と軽薄さを心の奥で戒めながら、ソウルはモニカと共にニケの元へと向かうのだった。