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アインジーグ・U・フィン

「な……!?」


 そう声をあげたのはソウル達だけではない。アルを捕らえた獣人も同じだった。


「ふざけんなフィン!俺らがこの半端兎を解放したところであいつらがそれに応じるとは限らねぇだろ!」


 牙を剥き出しにした黒毛の獣人が声を荒げる。


「イヒヒ。まぁそれもそうかも知れんガ……元々オイラ達が襲撃したんダ、オイラ達が折れなキャこいつらも折れられんダロ」


 そう言いながら、フィンと呼ばれた小さな彼はテコテコと獣人の側まで歩いていく。


「ほラ、解放してやってクレ」


「断る」


 拙い言葉で伝えるフィンの言葉を聞いても獣人の方は首を横に振った。


「いくらあんたの命令でも、納得できるか」


「ほゥ……」


 ズゴゴゴゴ……と、互いに不穏なオーラを発しながら2人は睨み合う。



「ならバ……仕方ないようだナ」



「……っ!?フィン……お前まさか……!?」



 すると、フィンは自身の懐にゴソゴソと手を入れる。それを見た獣人はカタカタと怯えたように尻尾を垂らして震え上がっていた。


「や…やめろ……!それだけは……それだけはぁっ!?」


 な、何だ……!?一体何が始まるんだ……!?


 ゴクリと息を呑みながら、フィンの懐から現れたそれを見てソウル達は……。



「「「「「「……は?」」」」」」



 そんな声が漏れた。


 現れたのは、1本の棒の先に何やらモフモフしたようなものが取り付けられた物体。


 あれ……確か、猫の遊び道具の猫じゃらし……?



「ほーレほれほれ!こっちだゾー、ノエル」



「くっ……やめっ、やめろおおおおおおお!?!?」



 次の瞬間。ノエルと呼ばれた獣人はアルのことをほっぽり出してフィンが振り回した猫じゃらしへと飛びついた。


 まるでノエルは猫じゃらしで遊ぶ猫のようだ。


「ほーレほれ。素直に言うこと聞いてればよかったナ〜?」


「くそ……!身体が!体が勝手に……!?やめろやフィン!!俺が…俺が悪かったからぁぁぁぁあ!!」


 ……何だあれ?俺達は何を見せつけられてるんだ?


「……はぁ、全く」


 ソウル達が呆然と立ち尽くしていると、シェリーに捕らえられているヴィヴィアンと呼ばれた女性がため息をつく。


「すまない。ご覧の通り、私たちの負けだ。突然襲い掛かるような無礼な真似をした」


 ヴィヴィアンの言葉と共に襲撃者達は皆武装を解除し、武器を地面に放り出した。


「え…と……?」


 ソウルは状況を飲み込めずに頭をガシガシとかくしかない。


「すまんかったナ。オイラ達はお前と殺し合うつもりはなイ。ただ話をしたかっただけなんダ」


 「うがぁーー!やめろフィンー!!」と、悲鳴をあげるノエルを弄ぶように猫じゃらしを振り回すフィンはそう告げる。


「何のために?あなた達の目的が見えないと僕らもそう易々と気を許すことはできませんよ」


 すると、陣営の中心からレイがフィンの側まで歩み寄って質問した。


「そーだナ、オイラ達の目的はだナ」


 イヒヒと不気味に笑うフィンはクルクルと回りながら告げる。



「お前達に、協力を頼みたいことがあってナ。その為の腕試しとその心を見極めたかったんだヨ」



「協力を頼みたいこと?」


「心を見極める?」


 ソウルとレイは2人で各々フィンに問いかける。


「あァ。そうなれば戦うのが1番だロ?人は極限の状況の中でその本性を現す。お前らは仲間を見捨てなかったし、オイラ達の仲間も無下に殺そうとしなかっタ。仲間想いの奴に悪い奴はイナイ」


 そう言って満足そうにフィンは笑う。


「だかラ、話を聞いてくれないカ?決して悪いようにはしナイ」


 すると、フィンは猫じゃらしに飛びついてきたノエルをジャンプで回避。そのままノエルを踏み潰すようにしてノエルの体を抑える。


「うごぁ!?」


 ノエルは哀れにもフィンの足の下でそんな悲鳴をあげていた。


「……どうする?ソウル」


「……」


 そう問われたソウルはじっと、フィンの目を見つめてみる。


 そこにはフィンのまんまるな目がソウルのことをしっかりと映していた。


 その瞳には、一点の曇りもない。真っ直ぐな想いが隠されているようにソウルの目には見えた。


「……分かった。お前らの話を聞くよ」


「そ、ソウル!?」


「正気ですの!?」


 悲鳴をあげるオデットとアル。


「やれやれ……」


 でも、レイはソウルのその言葉が分かっていたように肩をすくめて見せながら笑う。


 まぁ、みんなが警戒する気持ちは分かるけれどソウルだってフィンの気持ちが分かる気がした。


 仲間想いの奴に悪い奴はいない。こいつもあのヴィヴィアンという人が捕えられたからこうして攻撃をやめてくれた訳だしな。


 それに……なんというか、こいつ悪い奴じゃないような気がする。ただの直感だけどさ。


「悪い、エリオットさん。倒れてるあいつらの治療をしてやってくれねぇか?俺も手伝うからさ」


 そう言ってソウルはガストの力を武装召喚。その力で倒れた襲撃者達に回復魔法をかけていく。


「ふふっ。分かりました」


 断られるかと思ったけれど、エリオットさんはクスクスと笑いながら頷いてくれた。


「イヒヒ。ありがとナ」


 そう言うと、ノエルの頭を踏んづけながらフィンはソウルの元へと歩いてくる。



「改めテ、自己紹介させてクレ。オイラはアインジーグ・U・フィン」



 そう名乗るとフィンはソウルに手を差し出した。



「……俺はシン・ソウルだ。よろしくな、フィン」



 ソウルもそれに応えるようにフィンの手を握り、硬い握手を交わす。


 こうしてソウル達は不思議な小さな襲撃者、フィンとその仲間達と出会った。

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