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小さな襲撃者2

「な、何だこいつら!?」


 迫る何人もの襲撃者を迎え撃ちながらソウルは叫ぶ。


「よ、良く分かりませんけど!私の耳でも捉えられませんでしたわ!相当隠れることに長けていることだけは間違いありません!」


 目の前の男とナイフを撃ち合いながらアルが叫ぶ。


 くそ……!持続のために精度を下げていたとはいえ、空間認識でも分からなかった。


 こいつら、相当訓練を積んでるに違いないだろう。まんまと出し抜かれてしまった。


「こんな狭いところじゃ召喚魔法は展開できねぇか」


 狭い洞窟の中だ。大きな身体を持つ召喚魔法を展開すればこちらの身動きを制限するばかりかただの的にされてしまう。


 ソウルに使えるのは武装召喚が限界だろう。



「……我が魂に応えなさい。灼熱の炎を振るい、敵をうち滅ぼさん」



 そんなソウルを見かねてシーナが詠唱を始める。


 よし、シーナの朧村正の力があればきっとこの状況も打破できるに違いない。


 頼むぞ、シーナ!


 心の中でそう思いながらソウルとアルは目配せをすると、シーナの身を守るように戦線を維持する。


 相手もそれを察知してから押し込むようにこちらに攻め入るがもう間に合わない。



「……【火聖剣】のマナ!【朧村正】!!」



 シーナの詠唱が終わる。


 何回、何十回と重ねてきたシーナの魔法。


 その経験から、朧村正の展開なんて手足を動かすのと同じくらいにできるようになっている。


 今までと同じように。何の変化もなく、いつもと同じようにシーナは魔法を発動させた。


 そうだと言うのに。





「……え?」





 虚しく虚空に消えるシーナの詠唱。


 収束したはずのマナは虚しく残滓となって洞窟の中に露となって消え、シーナの魔法は不発に終わった。


「……なん…で?」


 ありえない。これまで、一度だってこんな失敗したことなんてない。


 それが……何で!?どうしてこのタイミングで!?


「し、シーナ!?どうしましたの!?」


 異変に気がついたアルが咄嗟にシーナに問いかける。


「何で……!?来なさい!【朧村正】!【朧村正】!?」


 何度も何度もマナを発動させるが、シーナのマナは応えない。


「バカ!下がってなさい!【電磁】のマナ!【電磁渦(ボルト・ボルテックス)】!」


 オデットはシーナを後方に押しやると敵の真ん中に小さな球体を放り込む。


「な、なんだぁ!?」


「ぶ、武器が……吸い寄せられて……!?」


 オデットが投げたのは鉄の球体。


 それに【電磁】の力で磁力を付与。範囲内の鉄を吸い寄せる技だ。



「ナイス!オデット!」


「さぁ!畳み掛けますわよ!!」



 アルのナイフは彼女の地属性のマナから生み出される鉄というよりも岩に近い素材。ソウルの黒剣【覇王の剣】も鉄ではない何かの魔石のような物で作られているとオデットが言っていた。


 つまり、ソウル達は磁力の影響を受けることなく武器を振るえると言うことだ。


 一方的に敵を薙ぎ倒すソウルとアル。


「おいおい。こいつはなかなかひでぇことするなぁ!」


 そんな2人の前に飛び出してくる1人の影があった。


「獣人!?」


 そいつは真っ黒な毛並みを揺らす1人の獣人。


 金色の瞳がギラリとこちらを睨み、凄まじい勢いでソウルに向けて襲いかかってきた。


「甘いですわ!【強撃】のマナ!【ナイフショット】!」


 そこにすかさずアルがナイフを投げる。


 マナの乗せられたナイフは風を切るような勢いで獣人に襲いかかった。


「甘ぇのはどっちだ!」


 目の前の獣人はそう言うとヒラリと身を翻し、今度はアルに向かって飛びかかる。


「な!?」


「何だその動き……!?」


 それはまるで全身がバネのようで、羽のように軽やかな動きだった。


「アル!」


「これの相手は私がしますわ!あなたは……」


 アルは迫る獣人に立ち向かいながらソウルの後方へ目をやる。



「イヒヒ!そうダ!オイラの相手をしてもらうゾ!!」



「……っ!?」


 ズドン!


 ソウルの背に突き刺さる小さな足。


 エグいぐらいの加速で叩き込まれるその蹴りにソウルの背骨がビキビキと悲鳴をあげた。


「が…はぁ!?」


 辛うじて受け身をとりながら、弾丸のように突っ込んできたそいつに目をやる。



「イヒヒヒ」



「お…まえ……!」


 この笑い声……間違いない。


 この前石窟に入った時に聞いた不気味な笑い声。


「お前が……笑い声の、正体か……!」


「そーだゾ。お前とナイトゴウンの戦い、見せてもらっタ。実に見事だっタ」


 イヒヒヒと笑いながらそいつはそんな事を言う。


 ナイトゴウン……恐らくあのドクロの魔獣のことだろう。と言うことはこいつ、まさかあいつの仲間か何かなのか?


 黒剣を構えながらソウルは目の前のそいつと相対する。


「何だ……じゃああいつの仇討ちにでもきたってのかよ」


「ウーン……そーだナ」


 ソウルの問いかけに小さなそいつは腕を組みながら考え込むような仕草を見せる。


 何なんだこいつ……真面目なのかふざけてるのか。真意が読めない奴だな。


「お前が、オイラに勝てたら教えてやってもイーゾ!」


「何だそれは……」


 名案だ!と言わんばかりに得意げに告げるそいつ。


 ほんとに、よくわからないことを言う奴だ。


 だが、こちらだって当然ただでやられるわけにもいかない。


 だったら……。


「【武装召喚】、【アンク】」


 ソウルの黒剣に炎が灯る。


 炎の召喚獣バステオスの武装召喚を展開した。


「ここでやられる訳にはいかねぇ!かかってきやがれ!!」


「イヒヒ!さァ、遊ぼうカ!!」


 すると、目の前のそいつがビュンという風切り音と共に姿をくらます。


 そいつはまるで縦横無尽に洞窟の壁を飛び回りながらソウルの周囲を旋回している。


 速い。だが、見えない訳じゃない。


 シェリーとの特訓で鍛えられた動体視力がまるで閃光のように洞窟を移動するそいつの動きを逃さない。


 ゴッ!!


 そして、そいつは死角からソウル目掛けて飛び掛かってくる。


「っ!」


 ギィン!


「……オ?」


 対するソウルはそいつの攻撃を剣で弾き返す。


 完全な死角から撃ち込んだはずの攻撃を防がれたそいつは驚いたような表情を浮かべる。


「……っ!【クレセント・ムーン】!」


「あっぶネー!」


 ブンッ!


 ソウルは空中で動きを止めたそいつに向けて鋭い剣撃【クレセント・ムーン】を叩き込むが、そいつはヒラリと空中で身を翻して回避。


 そのままソウルの足元に着地するとそのままソウルのアゴ目掛けてアッパーをぶち込んでくる。


「……っ」


 その拳をソウルは首を捩らせて回避。


 そしてすれ違い様に頭突きをお見舞いする。



 ゴィン!



「いってええええええ!?!?」


 それと同時に頭に走る激痛。


 鳴り響くのはまるで鉄に頭突きしたかのような鈍い音。


 硬い!?何だこいつの身体……まるで鋼鉄に頭突きしたかのようだ。


「イヒヒヒ。いい動きするナ。ナイトゴウンを倒しただけはあル」


 ソウルの頭突きを受けたそいつはゴロゴロゴロと地を転がりながらそんなことを告げる。


 くそ……余裕かよ……。


 攻撃を与えたはずのソウルがダメージを受け、頭を押さえながら再び黒剣を構えた。


「さぁ、いいゾ!もう少しオイラを楽しませてミロ!!」


「こんっのおおおおお!?!?」


 電光となって飛びかかってくるそいつにソウルは再び咆哮しながら斬りかかるのだった。

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