探索
「なぁ……本当にこっちであってんのか?」
ぐんぐんと進んでいくソウルを見ながらいぶかしげにギドが尋ねる。
「多分な」
今、ソウルは風の召喚獣イザナギアを武装召喚している。
この前の戦いで身につけた風のマナを張り巡らせて洞窟の中を探っているのだ。
確かに迷路のようにはなっているが、風の流れを感じれば地上に続く道を見つけることができる。
それに加えてエヴァからもらった世界地図とコンパス。
それを合わせながらシュタールへ続くであろう道を探索しているのだ。
「まぁ……確実に地上には出られると思うけど、どの道通ればシュタールなのかまでは分からねぇ。だから長丁場になるかも」
だから、確実にシュタールへと続く道を見つけることはできない。当てをつけてそれっぽい道をしらみつぶしにやっていくしかないだろう。
今展開している風は前オデットを助ける時よりも精度は落として、持続時間を優先している。
だからせいぜい洞窟の作りと何となくの風の流れを感じることしかできない。
ちなみに、これまで通って来た道や行き止まりなどはレイがマッピングを行ってくれており遭難するということはなさそうだ。
「ソウル。あなたがマナを使い切ったら私が代わろう。いつでも声をかけてくれ」
そんなソウルにシェリーが声をかけてくれる。
ちなみに、新たに身につけたその空間認識の力をシェリーに自慢して見せたら一瞬でものにされてしまいシェリーも同じことができるようになっていた。
……正直めちゃくちゃ悔しい。
だがお陰でソウルの負担を減らすことができる。
だから、この先の見えない洞窟の冒険はソウルとシェリーで交代しながら行うことになっていた。
そうすれば互いが休んでいる内にマナを回復させることができるのだ。
「【灯台虫】……すごく便利ですわね」
洞窟の中をテコテコと歩くアルは頭上を飛びまわる小さな蛍のような光の玉を見上げながら告げる。
これはオデットが作った【魔法道具】。
火の魔石をベースに風のマナやら何やらを混ぜて作ったものらしく、ソウル達の周りを照らすように自分で飛び回ってくれる。
これなら松明で手が塞がることもなく洞窟を歩くことができるのだ。
以前の洞窟の中の襲撃を鑑みて、【魔法道具】への意欲が増したオデットが準備したそうだ。
数時間は持つようだし、この材料となる魔石やら何やらも【魔法鞄】に持ってきたらしく今のところ枯渇する心配もない。
だから、正直今のところはかなり順調だ。
「おい。お前らがここに入った時に襲いかかって来た奴がいたんだろ?ぶっちゃけどうなんだ?そいつの仲間がいたりってことはねぇのかよ」
周囲に目を配りながら歩くライ。
「そのために私も警戒しておりますわ。特に何かの気配は感じませんけれど……」
今、一行は周囲を感知するレーダー役のソウル、周囲の音を拾えるアルと夜目がきくシーナが前衛に立つ。
そのすぐ後ろ。中衛にマッピングしながらついてくるレイと、ソウル達の生命線である【魔法鞄】を持ったオデット。そのオデットを守るようにモニカとヴェン、エリオットがつく。
後衛には最強戦力のシェリー。それにライとギドがついていた。
ちなみにライとギドは事あるごとにやいやいと言い合いの喧嘩をしており、シェリーは煩わしそうにため息をついている。
「でも……本当に何もいねぇな」
「うん……正直気味が悪いわ」
ヒュンヒュンと飛び回る【灯台虫】を目で追いながらオデットは不安そうに告げる。
「どうして?こんな洞窟に何もいないと思うよ?」
「うん。多分ソウル達を襲ったのはここに巣食ってた魔獣か何かなんじゃないかな。それを倒したんだったらもうここには何もいないはずだよ。うん、きっと。間違いない」
首を可愛らしく傾げるエリオットさんと、足をガクガクと震わせながら自分に言い聞かせるように繰り返すヴェン。
「何をそんなに気にしてるんですの?」
「実は……前来た時、この洞窟にたくさんの人間の痕跡があったの」
「「「「「は!?」」」」」
オデットの言葉に仰天の声をあげる一行。
「うううう嘘ですわよね!?こんな洞窟に誰かいるわけが……」
「わわ私だってそう思うわよ!でも……」
オデットの【紫外】の精度は高い。
だからこそ、オデットの言葉は重い。
「……ちなみに、今その痕跡はどうなってる?」
「え…と……」
ライに促されてオデットは【紫外】のマナを発動させる。
ギンと、彼女の目が光を放ちながら辺りを見渡す。
「……うーん、今のところは特に見当たらないかなぁ」
ほっと胸を撫で下ろす仲間たち。
「……妙だな」
そんな中で1人、シェリーが怪訝な声をあげた。
「妙?」
「えぇ。前に来た時はかなりの数があったのでしょう?それが一切なくなるなんて……不自然だ」
「……確かに」
前にオデットはかなりの数があると言っていた。それが無くなった?
むしろ不自然。まるで……。
「誰かが……痕跡を、消した……?」
「……まさか」
ソウルの胸に嫌な予感が走る。
他のみんなもだろう。ゴクリと息を呑みながら周囲に意識を配った。
「……け、気配は何も感じませんわよ」
「ソウル……一度、空間認識の感度をあげてくれないかい?」
「……あぁ」
消耗が激しいが、そうも言ってられないだろう。
ソウルは黒剣から放たれる風の密度を上げ、より明確に洞窟の中の情報を探った。
まさに、その時だった。
「イヒヒヒ……バレるな、コリャ」
「……は?」
周囲を警戒するソウルたちのまさに真上。
そこからあの怪しげな笑い声が響いた。