迷いの石窟、再び
明くる日。
ソウル達一行は迷いの石窟の前に立っていた。
「ほー。ここがその噂の迷いの石窟か」
「なるほど……確かに異様な雰囲気だね」
「だろ?」
1週間とちょっとぶりに訪れた洞窟を前に、ソウルとオデットはまた苦笑い。
またあの怪しげな笑い声が聞こえてくるんじゃないかと気が気でない。
他のメンバーもやれ興味深そうに凶悪な笑みを浮かべたり、怯えたように口角を引き攣らせたり。
「ヴェン……私、怖い」
「だだ大丈夫ぼぼ僕がついてるから」
2人で愛を確かめ合ったり。さまざまな反応をしている。
「……」
「……っ」
怖いものが苦手なシーナのことが気になってそちらに目を向けると、プイッと向こうの方に目を逸らしてしまった。
うーん……ずっとこの調子だなぁ。
何人かで話をしている時にはまだコミュニケーションが取れるのだが、1対1となるとご覧の通り。明らかに避けられてしまっているのが分かる。
俺、何かしたっけ……?迷いの石窟に入る時になれば切り替えてくれると思ったけど、ここまで来ると流石に放っておくわけにもいかない。
「なぁ。シーナ」
「……何」
不機嫌そうな……と言うよりは何やら悲しそうな顔を浮かべるシーナにソウルは問いかけてみる。
「ここ最近、ずっと俺のこと避けてるみてぇだけど……。俺、何かしたか?」
「……別に、何も」
ソウルの問いかけに、シーナは短くそう答える。
そのシーナの言葉に、ソウルは何故か胸が痛むのを感じた。
「いや……でも、なんか様子おかしいだろ。何かあるなら言えって」
「……何でソウルに言わなきゃいけないの?」
「な、何でって……それは……」
シーナに逆に言い返されて、その先の言葉を見失う。
「な…仲間……だから」
「……別に、仲間だからって何でもかんでも言わなきゃいけないって訳じゃないでしょ?」
「で、でも……」
「……私の個人の問題だから。いちいち首を突っ込まなくていい。ソウルは自分のやらなきゃいけないことに集中して」
そう言ってスタスタと迷いの石窟へと歩き出してしまった。
「う……」
「あーあー。お前、シーナに何やったんだよ」
そのやり取りを見ていたギドがソウルの肩に腕を乗せながら口を挟む。
「な、何もやってねぇよ……」
「そーだな……例えば、シーナのことを襲ったとか……」
「ブーっ!?そそそそそんなわけねーだろぉ!?」
ギドの言葉にソウルは顔を真っ赤にしながら反論する。
「なななな!?何ですって!?ソウル、あなたそんなサイテーなことをしたんですの!?」
「してないしてない!?だからまずはその両手に構えたナイフを下ろせアル!!」
全身の毛を逆立てながら迫るアルにソウルは悲鳴を上げた。
「まぁ、そーだよな。お前がシーナを襲ったんなら今こーなるとは思えんしな」
「襲う?命の危機があればシーナは怒るに決まっているでしょう。何を的外れなことを」
うーん、違うんだシェリー。ここで言う襲うってのは多分大人的なあれで……。
「ふーん……」
すると、レイがじーっとシーナとソウルを観察。
そして何やら考え込むような仕草を見せる。
「……ちなみにソウル。シーナの様子がおかしくなったのはいつから?」
「ん?確か……クトゥグアとの戦いが終わってからかな」
「なるほどなるほど。じゃあさらに質問だけど、その後シーナとじっくり話をしたのはいつ?」
「いつって……それ以降は特に話はできてねぇな。ずっと1人でぶらぶらと出掛けて行っちまってたし」
思い出すように告げるソウルの顔を見ながら、レイは何かを察したようにため息をついた。
「なるほど……確かにマコもびっくりしてたみたいだし。そう言うことか」
「なんだよ、何か思い当たることがあるなら俺にも教えて……」
「いや、ソウル。それはダメだ」
すると、レイにしては珍しく少し怒ったような顔で言った。
「自分の胸に聞いてごらん?なんでシーナが怒っているのか。多分、元々虫の居所は悪かったんだと思うけどそれでもあんまりだよ」
「あんまりって……そんな言い方は」
「シーナは君の従者じゃない。それでも君の為を思ってここまでついて来てくれたんだろ?だったら、そのことをもっと考えてやるべきだ」
そう言うとレイはシーナの方へと歩き去ってしまった。
「な、何なんだよ」
レイの言葉にソウルはただその場に立ち尽くしながら頭をかくしかない。
幸先悪そうなスタートを切りながら、ソウル達は迷いの石窟の中へと足を踏み入れるのだった。