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2つの魔法道具

 目を輝かせて店の中の商品を物色するオデットを横目にソウルはスカーハ婆さんにコソコソと話かけていた。


「おい…婆さん。オデットの話はマジなのか?」


「……やれやれ」


 キラキラと目を輝かせて魔石を眺めるオデットを見ながらスカーハは深いため息をつく。


「スカーハなんて名、そう珍しい名前でもないだろうさ。同じ名前ってだけさね」


「……嘘つけ」


 ソウルはガシガシと頭をかきながらため息をつく。



「あんな動揺してるあんた、初めて見たよ。それってオデットの言ってることが本当だからだろ?」



 きっと、オデットの話したことが真実だからスカーハは動揺したし最初名乗りすらしなかったんだろう。


 その錬金術の始祖の名はそれほど有名な訳ではなくコアな練金術師がようやくその名を知るような、そんな存在らしい。


 だから、錬金術にはまっているオデットはスカーハの名を知っているかも知れないと思って名乗るのをためらったと言うことだ。


「……うるさいガキさね」


 ソウルの言葉にスカーハはそうポツリと返してくるだけだ。


 いつもの婆さんらしくない。調子が狂うなぁ。


「……んじゃあ、あんた今何歳なんだよ」


「……レディに歳を聞くもんじゃないって言っただろうが」


「あんたもうレディって歳じゃねぇっつってんだろ」


 やがて、ソウルはガシガシと頭をかきながらスカーハに告げる。



「別に、あんたが何者なのかは知らねぇけどよ。それでもあんたはこれまで何度も助けてくれた恩人だ。そんなあんたが黙っててくれってんなら言わねぇよ」



「……ふん」


 ソウルの言葉を聞いてスカーハは短くそう告げる。



「【恩人】……ね。あんたは【あいつ】と同じことを言うんだね」



「あいつ?」


「こっちの話だよ」


 そう短く告げると、スカーハはいつもの如く2つの【魔法道具】を机に取り出した。


 1つは何やら魚の鱗のような形をした水色の物体。


 もう1つは何やら古ぼけた手鏡のようなものだ。


「んだよこれ?今回は2つあるんだな」


 ソウルはひょいとそれらを持ち上げて見比べてみる。


 鱗の方は何やら鱗の裏側に突起のような物がついていた。


「なになになに!?私にも見せて!!」


「うぉっ!?」


 それを見たオデットがソウルの背中へと飛び乗って肩越しにソウルの手に握られた【魔法道具】を眺めている。


「そいつは【鱗型水中眼鏡(スケイル・シュノーケイル)】。その突起部分を咥えている間、使用者に水中呼吸と強力な水泳能力を与える力さ」


「「ほぉ〜」」


 ソウルとオデットは2人仲良くじぃっと、その魔法道具を眺め回す。


 ともすればただの陶器のようにしか見えないけれど……。婆さんが言うのであれば本物なんだろう。


「すごい!ねぇソウル兄!これちょーだい!」


「やらんやらん。お前は別の奴を見てろ」


「えー……いーじゃんケチー」


「ふん。だったらもう1つくれてやるさね」


「えぇ!?いいの!?やったぁ!!」


 もう1つ懐から紫色をした【鱗型水中眼鏡】を取り出すと、ピョンピョンと跳ねるオデットに手渡す。


「……おい、もう1つ渡されたって俺は金払わねーぞ?」


 はしゃぐオデットを尻目にソウルはスカーハ婆さんに耳打ちする。


「口止め料さね。あれの料金はいらん。その代わりあたしの名前のことは黙ってな」


「そーいうことなら」


 そうか、じゃあ今回はぼったくられることもないと言うこと。オデットを連れてきた甲斐もあった物だと言うことか。


「あんたの分はしっかりはらってもらうがね」


「……くそ」


 ちゃっかりしやがって。


 そんなことを思いながらソウルはもう1つの道具に手を伸ばす。


「んじゃあ……これは何なんだ?見た感じただの鏡だけど?」


 見たところ何の変哲もない手鏡のようだが?


「そいつは【真実の鏡】」


「真実の鏡?何で鏡が真実なんだ?」


「ふっふーん!いい?鏡ってのはね、古来から真を映す物として崇められてきたのよ!」


 首を傾げるソウルにオデットは得意げに胸を張りながら告げる。


「そう。その鏡には真実を映す力を増幅させるように術式を組んである。それを姿をくらませたり、別のものに化けている輩へと使ってみな。強制的にその姿を元に戻すことが可能って訳さね」


「へぇ……」


 んじゃあ……幽霊とかに化けた野郎がいたら、これを映せばいいってことか。


 いや?別にお化けが怖いわけじゃないんだけどね?


「……一応言っとくが、幽霊祓いみたいなもんはあたしゃあつかってないからね」


「「そっ、そんなぁ!?」」


 心のどこかでしていた期待を見事打ち砕かれたソウルとオデットは2人仲良くそんな悲鳴をあげる。


「そんなもんにビビってる暇があんならシュタールに着いた後のことを考えな」


「ぐ……」


 スカーハ婆さんの言葉にソウルはぐうの根も出ない。


「あの……!」


 じっとソウルの手の中の鏡を眺めた後、オデットがスカーハの方を見ながらかしこまったように告げる。


「お、お願いがあるんですけど……」


「この鏡は流石にストックはない。あんたにはやれないよ」


「いえ!そうじゃないんです!!」


 やれやれと言った様子で告げるスカーハに対し、オデットは自慢のサイドポニーをブンブンと振りながら首を横に振る。



「私を……私を、弟子にしてください!!」



「…………」


 ソウルはこの時、生まれて初めてメルヘン婆さんが度肝を抜かされた顔を目の当たりにした。

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