闇の中の攻防6【クレセント・ムーン】
新たな剣技。
シェリーとの特訓の中で身につけた正確無比な一撃【クレセント・ムーン】。
「ソウル。一度私に全力で撃ち込んでみなさい」
特訓の中でシェリーは言った。
「い、いやぁ……シェリーの馬鹿力には到底敵わな……」
「今日の試合を3セット追加ですね」
「うおああああ!!こんちくしょおおおおお!!」
無防備に構えるシェリーに向けて、ソウルは全身全霊の一撃を撃ち込む。
放つ剣技は【陥落】。ソウルの一撃必殺、破壊の刃だ。
「おおおお!!砕け散れぇぇぇぇ!!」
今日の試合3セットと共になぁぁ!!
「ふんっ!」
ガキィィイン!!
「なっ……!?」
ところが、ソウルの全身全霊の一撃はそのシェリーの一太刀で弾かれる。
「うがっ!?」
そしてバランスを崩したソウルはその場に尻もちをつくのだった。
「くそ……また負けた……」
やっぱり、シェリーは怪力じゃねぇか……。
そんな愚痴が喉の奥まで出かけてところで何とか押しこらえつつソウルはその身を起こす。
「いいえ。全体的な筋力や力強さだけならあなたの方に武があるでしょう」
彼女の刀【神斬り】を鞘にしまいながらシェリーは告げる。
「けれど、あなたは力の使い方が下手なんだ」
「下手?」
「例えばあなたが100の力を持っていたとしよう。けれどあなたがそれを半分しか使いこなせていないのなら私はあなたの50の力さえあればそれをいなせると言うわけだ」
「いや……でもさっきの【陥落】は全身全霊の剣を叩き込む必殺技だぞ?」
そう、【陥落】はソウルの力全てをねじ込む最強の一撃だ。
だからシェリーの言うことは的外れなように感じる。
「それは、あなたがそれを最大限活かせる瞬間の話だ。けれどあの一撃はその威力が乗り切るまでに時間がかかる。つまり威力が最大限発揮される前に止めてしまえば例えあなたよりも力が弱くても防御は容易い」
「マジかよ……」
ソウルも気がついていなかった弱点を指摘されてソウルは項垂れた。
要は威力を最大限活かせる瞬間なら、【陥落】はシェリーにも防御不可避な最大の一撃になる。
けれど、その技の出だしならそうはいかない。力で劣るシェリーにも止めることは可能だと言うこと。
「だから私はあなたの剣撃を威力が乗りきる手前で止めたんだ」
「でも、それじゃ威力が足りないんじゃないか?」
率直な疑問。
速いだけの技なら、これから相手にするであろう魔人には通用しない。
それを見据えた時にこのシェリーの教えが果たして活きる時が来るのだろうか?
「そのための技だ。これを見ていなさい」
そう言うと、シェリーは打ち込み用の丸太に向けて居合切りを放つ。
サンッ!
「……おぉ」
流石はシェリー。見事に真っ二つな訳だが……それが何だと言うのか?
「注目するのは斬られた後です」
「後?」
もう一度切り倒された丸太を見ると、まるで物差しで線を引いたかのように真っ直ぐかつ他になんの綻びもない状態になっている。
「すげぇ……」
ソウルが丸太を切ったらこうはいかない。ズレたり丸太の他の部分にヒビが走ったりするはずなのに……。
「これが最大限、力を有効に使うための技術。ズレが生じたりヒビ割れが走ると言うことは力が無駄なところに分散していると言うこと。最大限、必要な所に力を発揮できるように剣を振ればそれだけで攻撃の有用性は飛躍的にあがる」
「そ、そうか……」
ジンジンと腕に感じる先程のシェリーの攻撃。
力を必要な所に確実にぶつける剣の使い方。それを身につければ【陥落】のような隙の大きいタメも必要なくあれだけ鋭い一撃を撃てるのか。
「どうですか?少しは興味が出てきましたか?」
「お、おぅ!やってみてぇ!」
繊細さだの何だのと、まどろっこしいことをやることに疑問を感じていないといったら嘘になるが、このシェリーの説明を聞いて納得した。
きっと、何か得るものが見つかるに違いないだろう。
「では、まずはこの丸太斬りを10000セット。その後は私への打ち込みを10000セットでいきましょう」
「……ファ!?」
桁が……桁が違うだろおおおおお!?!?
心の中でそんな悲鳴をあげながらもソウルは腕の筋肉が引きちぎれそうなほど、この特訓をやり切ったのだった。