闇の中の攻防4
暗い闇の中でパチパチと音を立てて燃える炎を眺めながら、オデットはあの時の出来事を思い出す。
本当の強さ。
どうやって強くなるかじゃ無い。何のために強くあるのか。
そして、その想いが作る真の強さを私は知った。
悔しいけど……認めたくなんか無いけど。
その、きっかけをくれたのは……ううん。きっと、幼い私が憧れたのは、あいつだったんだ。
「……ねぇ、なんでよ」
暗く静かな闇の中。オデットはポツリとこぼす。
そうだ、だからこそ。私はあいつのことが許せなかったんだ。
ねぇ、どうして?どうしてあんたはあの時私達を置いていったのよ?
私に本当の強さをくれたあんたが、どうして?
私は……私はこの6年間……。
「……っ!」
込み上げて来た涙をぐしぐしと拭いながらオデットは立ち上がる。
いる……何かの気配を感じる。
「……誰?」
いつでも反撃できるように、身体中にマナと力を込めながら。闇の向こうに感じる気配に問いかけた。
「……答えないなら攻撃するわよ?敵じゃ無いならとっとと何か言いなさいよ!」
それは、恐怖心からだっただろうか。
こんな洞窟の奥底に、誰かがいるはずなんてない。
もしいるのなら、それは一緒に迷い込んだソウルのみだろう。
そして、ソウルならそんなまどろっこしいことなんてせずにすぐに声をかけて来てくれるはず。
そうしてこなかった時点で、そいつは敵だということは明白だった。
ドシュッ!
けれど、オデットがそれに気がついたのは身体に走る鋭い痛みを感じた瞬間だった。
「いっ……た」
背中に熱い痛みを感じる。
赤い血飛沫と共に視界に映るのは、暗闇に浮かぶドクロ。
嘘でしょ……?まさか、こいつがここにいるってことは、まさかあいつが負けたの!?
「……っ!」
グラリと飛びかけた意識を張り直しつつ、オデットは咄嗟にマナを溜める。
「【雷】に【矢】のマナ!【ライトニングアロー】!」
バチィ!
オデットの手から放たれたのは雷の矢。
それは真っ直ぐにドクロの身体を捉えるが、命中する直前でそいつの体が闇の中へと消える。
「この……!」
無我夢中になりつつオデットは地を蹴ってその場を飛び退く。
ブシュッ
「あっ!?」
再び奴の爪がオデットの身体を掠める。
幸いすぐに回避に走ったおかげで直撃は避けられたものの、右足をやられた。
「……っ!【トルネード】!」
オデットは薙ぎ払うように風の渦を撃ち込むが、やはりそんな単調な攻撃は通じない。
ドクロはまた闇の中へと姿をくらませてくる。
「こ、のぉ……!」
ダメだ。やっぱりあいつみたいにうまくなんてやれない。
どこに転移してくるかなんて、予測なんてできるわけがない。
四方から飛んでくる爪の連続切りにオデットは身体を屈めて防御するしかなかった。
このままじゃ、一方的に惨殺されて終わり。
嫌だ……こんなところで、死にたくなんかない!まだ、やらなきゃいけないことがあるでしょ?
作りかけてきた魔法道具も完成してないし、ライ君にご飯奢ってもらう約束だってしてもらってない。
シルヴァにまた手紙を書かなきゃいけないし……それに……!
「いわ…なきゃ……いけないのよ……!」
爪で引き裂かれながらもオデットはポツリと呟く。
「また……あいつに、言わなきゃ……話さなきゃいけないことが……たくさんあんのよ……!」
瞳の光を失いかけながらも、オデットはギュッと歯を食いしばりながら堪える。
そうだ……まだ私は、あいつと話ができていない。
言いたいことも、言われなきゃいけないことも、まだまだきっと、たくさんある。
こんなところで、死ぬわけにはいかない。生きて帰って、今度こそ私はあいつに言わなきゃいけないの。
本当は6年前のあの日、あいつに言いたかったことを!言わないといけない!
ねぇ……もう一度だけ、信じてもいい?
私の前からいなくなったあんたが、またこうして現れた。もうあんたのことなんか信じられないと思ったけど……あんたの優しい手も、強さも。変わってなかった。
今更だと思うけど……都合がいいって思われるかもしれないけど。助けてくれるんでしょ?あんたは私の兄貴分なんでしょ?
お願い……もう一度だけでいい。もう一度だけでいいから、話をさせてよ。
私の……私の声に答えてよ……!!
「助けて…助けて!私はここよ!ソウル兄ーーー!!!!!」
オデットはただ思いっきり叫ぶ。
私らしくない。騎士らしくもない。
ただ、1人の少女として。信じられるたった1人の存在に向けて送るSOS。
ナイトゴウンは驚きを通り越してむしろ呆れてしまいそうになった。
そんなことを叫んだところで、この闇の洞窟の中を迷わずここに来るなんて芸当、できるはずが……。
「オデットおおおおおおお!!!!」
ゴッ!!
その刹那。暗闇の向こうから1つの叫び声が轟いた。