オデットの過去12【強気な少女の憧れたもの】
あの夜から数日。
ソウルとオデットは村の病院で治療を受けた後孤児院へと帰ってきていた。
ソウルはそれほど大きな怪我もなく数日でいつものように元気に駆け回れるほどになった。
今回の事件を引き起こしたフレッドは、イーリスト本国の騎士達に捕らえられ家族と共に連行されていくこととなった。
どうやらフレッドの家庭環境はかなり悪かったらしい。両親も彼をなおざりに扱っていたらしく監督不行き届きとして判断されたそうだ。
トーマスはというと、森の茂みの中で血塗れで倒れているところを発見。危篤状態だったようだが何とか一命を取り留めたらしい。
そしてオデットはというと……。
「あーん……もう、いいじゃない!私元気だっての!!」
足に巻かれた包帯を睨みつけながら、そんな事を宣っていた。
オデットは骨に異常は無かったものの、足の捻挫が酷かったようで治るまでベッドの上で過ごす羽目になった。
「しゃーねーだろ?医者がそう言うんだから。それを破ったら今度は俺が監督不行き届きで騎士に連行されちまうよ」
「別にされればいーじゃない」
「ひっでぇこと言うぜ。忙しいから合間を見てこうして来てやってんのによ」
ケラケラと笑いながらシルヴァはそんなことを告げる。
とか、言いつつも結局ずっとシルヴァはオデットの看病の為にずっとそばにいてくれていた。
それが正直とても嬉しかったりするわけだが……。
「……ねぇ、シルヴァ」
そんな感情を隠しつつも、オデットはシルヴァに聞きたかったことを問いかける。
「なんで……あいつには魔法が効かなかったの?」
フレッドがあれだけバカスカと魔法を撃ち込んだのに、ソウルはそれを耐え切ってみせた。
一体、ソウルはどんなトリックがあってあんなことをやり遂げたのだろう?
「うんや。多分お前と一緒でバッチリ効いてたぞ」
「ま・じ・で・き・い・て・ん・の・よ!!」
「はっはっは。いてぇいてぇ」
真面目なオデットの質問にも相変わらずのシルヴァにオデットは拳を振り下ろす。
「あんな芸当、何のトリックもなくできるわけないじゃない!あのへなちょこなソウルがよ!?私でも耐えられなかったのに……ぜっったいに何があるに決まってる!」
普段、私にだって打ち負かされるあのソウルが私を倒したフレッドに勝てるなんてありえない。
絶対何かカラクリがあるとオデットは確信していた。
「いんや。そんな回りくどいもんなんてあいつにはなかったんじゃねぇかと思うぞ」
元気にプンスカ怒るオデットにシルヴァは少し真面目なトーンで告げる。
「あいつはただ、お前を守りたかっただけだ。あいつが魔法を受け止め切った理由はそれだけだよ」
「……っ。な、何よそれ。そんなんで納得できると思ってんの?」
ま、またシルヴァは私をバカにして……!
オデットはそう思ったが、シルヴァは決してふざけた様子ではなく優しく諭すように語る。
「ソウルはそう言う奴だ。誰かを守る為になら、どんな逆境だって覆すほどの底力を出すんだよ。ほんと、いつもいつもそれに振り回されてばっかだったからな。俺はその事をよく知ってる」
どこか昔を懐かしむように穏やかな表情を浮かべながら語るシルヴァの顔が、何故かオデットは印象的だった。
「下らない。そんな感情論なんて聞きたく無い。私が聞きたいのはどうしたら強くなれるかって事で……」
「それは、お前が見つける事だ。オデット」
そう言ってシルヴァはオデットの頭を撫でる。
「人が、本当に強くなる為に必要なもんは人それぞれだ。俺は孤児院のガキ達の為にならどんな事だってしてやれる覚悟がある。そしてソウルにはお前や他の家族……大切なもんを守る為にどこまでも根性を発揮する強さがあるのさ。実際にお前も見たろ?あいつの強さを」
「そ…それは……」
オデットはシルヴァの言葉を聞いて次の言葉が出てこない。
「お前は将来どんな風になりたくて、どんな奴に憧れる?お前がなりたいものになる為になら、お前はきっと本当の意味で強くなれるぞ」
「私にだってあるわよ!誰よりも強くなって……強く……なって……」
その先に、一体何があるんだろう。
そこまで考えた時に、オデットはその先にあるものを見つけられないような気がした。
あのフレッドのように。ただ強いだけの姿を見て、正直哀れだと感じた。
強さの果てにあるものが、あんなものなら……私は、正直願い下げだとも思う。
なら、私は一体どうすればいいの?
私がなりたいものって、一体何なの?
「……その答えは、意外と簡単なのかもしれねぇぞ?」
そう言ってシルヴァはオデットに語る。
「お前が本当に憧れたものは一体何だったんだ?お前の親みてぇに弱い奴を虐げるようなやつか?それとも……お前みたいに孤独に震える少女を掬い上げてくれる【英雄】か?お前が本当に求めていたのはどっちだったんだ?」
「……っ!!」
私が、本当に求めていたもの……?
ずっと、虐げられて来た私の中に本当にあったもの。
ずっと、心の底で願っていたもの。
それは……。
「……」
「ははっ。どーやら今日も俺の勝ちみてぇだな、オデット」
「……ほんと、大人気ないんだから」
プイッとそっぽを向きながら、オデットは布団の中に隠れてみせる。
今日、この敗北は何故かまったく悔しいとは思わなかった。
「そんじゃ、俺はちょっくら出てくるぞ。後はお前さんの【英雄】さんにおまかせするかね」
「【英雄】?」
どこかへ行くというシルヴァの言葉に心細さを感じつつ、ひょこっと布団から顔を出す。
するとそこには何やら鍋を抱えたソウルが立っていた。